鳴神隼はただ一人のためにしか推理はしない
巴 雪夜
第1話 前方彼氏面な鳴神隼に好かれている
鳴神隼という男子大生というのは同学科同学年であれば知らない生徒はいない。容姿端麗で長身という女性がほっとかない容姿を彼は持っている。
故に彼とお近づきになりたいからと、あれやこれやと手段を使って近寄っては、口論になったり、こっぴどく振られたりと何かと問題が尽きない人物だ。
そんな鳴神隼という男に琉唯は好かれている。理由は図書室で女子大生に絡まれていたところを助けた時だ。人懐っこい琉唯の笑顔に隼が撃ち抜かれてしまったから。
というのを、隼本人から琉唯は聞いていた。それだけで惚れるものなのかと琉唯は未だに信じられていないわけだが、ガチ恋しているのは伝わってくる。
琉唯ガチ恋勢ではある隼だが、先に言った通りに容姿端麗だ。なので、狙っている女子は常にいるわけで。
「いいから、参加しなさいよ!」
琉唯は疲れていた。これもあれも全て目の前の人物が原因だ。すらっとした凛としている立ち振る舞いの女子大学生、
藍色交じりのショートヘアーが整った顔立ちによく映え、男女ともに格好いいと思える彼女は仁王立ちしていた。大学のカフェスペースで、これは目立ってしょうがない。
「貴女と一緒に占いに行くとか、他意がありありじゃん」
「当然でしょ。あんたが来てくれれば、鳴神くんも一緒だもの」
結は琉唯を「一緒に占いをしにいこう」と誘われていた。理由は簡単、結は隼に気があるようでどうにかお近づきになりたいのだ。
琉唯を使って近づこうとした女子たちは皆、容赦なく冷たく隼に振られているのだが彼女にそう言っても通じない。
「とにかく、一緒に来なさいよ! 来なかったらあることないこと広めてやるからね」
じゃあ、そういうことだからと結はそれだけ言ってカフェスペースを出ていく。いくら器が広いと友人に言わられる琉唯でも理不尽だと思う。
「緑川くん、ほんっとごめんね!」
「時宮ちゃんは悪くないからいいよ」
「あの先輩、言い出したら聞かなくて……。これ鳴神くんが知ったらやばいよね……」
傍で聞いていたのは時宮千鶴という同級の女子大生だ。結を紹介したのは千鶴で、琉唯の数少ない友人だったこともあり、半ば強制的に紹介させられたらしい。
こんな場面を隼が見ていたらどうなっていただろうか。彼は琉唯に何かする者を許さない。冷たく振られるだけでは済まないだろうことは言わずもなが。
今のところ彼はいないから良いが、占いをしに行く理由の説明を考えないといけない。
「それよりもどうしたらいいか考えよう」
「そ、そうだよね……。面倒ごとに巻き込んでしまったし、私の付き添いってことにしていいよ」
先輩の強引さに断れなくて、一人では嫌だから琉唯を誘ったことにしよう。千鶴の提案にそれならば、隼も納得してくれるのではと琉唯も思った。
同級で数少ない友人なのを隼も知っている。千鶴が琉唯に好意を向けていないことも。やるならこれしか方法はないかと。
行きたくはないけれど、あることないこと変な噂を立てられては困る。自分は平穏な大学生活を過ごしていたいのだから。隼が傍に居ることでだいぶそれも変わっているのだが、見なかったことにする。
「時宮ちゃん、それでいこう」
「うん、そうしよう」
「何の話をしているんだ」
背後からの声に二人はひえっと声を上げて振り返れば、なんとも不機嫌そうに立っている隼がそこにいた。
じろりと千鶴に目を向けてから彼は琉唯を見つめる。敵対感を抱かれていると察した千鶴は「ちょっとお願いしてたの!」と琉唯の肩を叩いた。
「実は私がね、先輩に占いの館に行こうって強引に誘われちゃって……。彼氏を連れていけたらよかったんだけど、用事があって……」
「時宮ちゃんの苦手な先輩らしいんだよ。断ると面倒になるタイプの。一人だと不安だから着いてきてほしいって頼まれてたの」
困っててと千鶴がお願いと手を合わせれば、隼は納得したようだ。彼女の恋人がよく友人に助っ人を頼まれるのも知っているので、今回もそれで他にお願いできる相手がいなかったのだろうと。
これは上手くいったと琉唯が内心、ほっとしていれば、「仕方ないな」と、隼が俺も行くと言ってくれた。
「ありがとう!」
「琉唯を一人で行かせるわけにもいかないからな」
「お前のその彼氏面はどうにかならないのか?」
「ならないが?」
何を言っているのだといったふうの隼の態度に琉唯ははぁと溜息をついた。いつものことではあるので慣れてしまっているけれど。
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