あの夏の日に、みえたもの

久坂 飴

第1話 兄の死

 兄が死んだ。飲酒運転の車にはねられ、即死だったそうだ。

 身元確認のために、東京から兄が一人暮らししていた地方へ家族全員で飛んで行った。


 そこに横たわっていたのは、確かに兄だった。でも、信じたくないくらい傷ついていた。

 母は泣き崩れ、父は母の背中をさすっていた。

 

 僕は入り口から動けなかった。立ち尽くすことしか、できなかった。


「ハル。最期くらい、兄ちゃん見といてやってくれ」


 父が母の背中をさすりながら、こちらを見ながら言った。その目は微笑んでいたけれぢ、涙で真っ赤だった。


 僕はやっと、一歩、一歩、兄の元へ行った。


 目を閉じて横たわる兄は、眠っているようだった。

 

 兄の顔を見ていたら、段々と目頭が熱くなって、鼻がじんと痛んだ。


 兄は優しい人だった。不登校の僕に、寄り添ってくれた。


「大人になれば、その箱庭から出られる。その苦しみは永遠じゃないさ」


 そう言って、僕の頭を撫でてくれた。


 兄は東京を出て、地方の国公立大学へ進学したタイミングで、家を出た。春に家を出てから、それきりだった。


 すると、男の人が何かを持って、こちらへやってきた。


「これらが、事故当時に持っていらっしゃったものです」


 兄はバイト帰りだったらしく、荷物は少なかった。


「父さん、これ何?」


 僕は、ネックレスのような勾玉を指差して言った。


「兄ちゃんのアクセサリーだろう。ハルが大事に持っていなさい」


「分かった」


 僕はネックレスを手に取った。


「これから兄ちゃんが住んでたアパートに行って遺品整理をしよう。もう夜遅いから、ハルは休んでなさい」


 僕は頷いた。


 僕は、兄の姿を目に焼き付けて、部屋をあとにした。

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