妖怪小説 ―久留米の守り神「かっぱどん」
牛嶋和光
第1話 夜の久留米の町に、ひとつの噂があった。
久留米の町に住む青年、和光は、言葉の響きに異様な執着を持っていた。
特に「ん」で終わる言葉に、彼は奇妙な力を感じていた。
ある夜、和光は古い神社の前で「もん」と呟いてしまう。
すると鳥居が軋み、闇の中から「んの妖怪」が姿を現した。
妖怪は形を持たず、ただ「ん」という響きの塊であり、言葉の終わりと始まりの狭間に漂う存在だった。
「我は境界。言葉の終わりに潜み、次の世界を選ぶもの」
その声は、和光の心の奥底に直接響いた。
和光は悟る。
「ん」とは、終わりであり、始まりでもある。
その響きに触れた者は、過去を閉じ、未来を開く力を得る。
だが代償は重い。
「ん」を呼びすぎれば、己の存在さえ境界に溶けてしまうのだ。
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