訣別の魔女・ヴァンドーラ

(不抜)

第0話 プロローグ


 少女は瞼を開け、自身の生存を認識した——


 荒い呼吸と、人々のざわめきがぼんやりと鼓膜を揺らす。

 徐々に身体の感覚が戻って、自らの両手を確認。

 ぽたぽたと髪から零れ落ちる水滴。そして石畳に広がるそれを見て、ようやく己がずぶ濡れになっていることを自覚した。


「何をされたかもわからなかったかな?」


 対峙していた少年が、水に塗れた彼女を見て微笑する。

 彼の指の先端から滴る余韻が、空気に融けて煌いた。

 少女は何も答えられず、髪をすり抜ける水滴をただ見つめるばかり。


「これが現実だよ“テオドーラ”。君は無力だ」


 そして少年は、テオドーラと呼ばれるその少女にそう言い残して去っていく。

 彼に呼応するように二人を取り囲んでいた人の波は引いていき、後に残されたのは広い演習場と孤独に震える影のみであった。

 演習場に残る彼の余韻は、呪縛のようにテオドーラを縛り付ける。

 こうして彼女は悟るのであった。


 この世界は『魔法』こそが全てなのだと——

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る