第34話 人でなしとの恋④

※家政婦山田靖子さんの日記より抜粋 


 弁護士の細井瞳さんの紹介で私はあるお屋敷で働くことになった。


 そこは新進気鋭の人形作家が住んでいるということであった。

 週に一度、私は山奥のそのお屋敷に出向き、日用品や食料品を置く。

 一週間分の料理を造り、冷蔵庫に入れる。

 そして掃除と洗濯をする。

 それが主な仕事だった。


 この屋敷は不思議なことが多い。


 私の依頼主は一人暮しなのだが、作り置きする料理は二人分であった。

 その料理は一週間するときれいになくなっているのである。

 依頼主が二人分食べているのだろうか。

 それにしてはその人形作家の青年は太っていない。

 それにところどころ女性がいるような気配がある。掃除をしていて気づくのだ。

 あきらかに人間のものと思われる長い黒髪が落ちているのだ。


 

 また私の依頼主はかなりの変わり者だった。

 よく人形たちに話かけている。

 ぶつぶつと一人ごとを言っている。

 特にあの人間と同じサイズのとてつもなく綺麗な人形によく話しかけている。



 ある時、掃除をしていて私はある人形を棚からおとしかけた。

 寸前のところで依頼主が手で受け、その人形は壊れることはなかった。

 細井瞳さんがいうにはその人形たちはどれもやすくても数百万円の価値があるとのことだった。

 私はてっきり怒られて、首になるものだと思ったがそうは為らなかった。


「大丈夫ですよ。ただこれからは気をつけてくださいね」

 と依頼主の青年は言った。


「そうだね、麻季絵の言う通りだ。そうするよ」

 ぶつぶつと彼は一人で言っている。



 私がこの仕事を辞めないのはかなりお給金がいいからだ。

 単純計算で週に一度きてこの屋敷で掃除や料理をすることで約一月分の給料を得ることができた。

 シングルマザーの私には願ってもない仕事だった。

 ただ、細井瞳先生からはこの家で見たことは他言無用と念を押された。

 まあ、こんな話、誰も信じないと思うけどね。

 なので私はその代わりに日記にしたためることにした。



 その日もいつものように二人分の料理を造り、冷蔵庫に入れる。

 依頼主は好き嫌いがないので本当に助かる。

 材料代もかなりいただいているので腕のふるいがいがあるわ。

 その後、洗濯と掃除を終える。

 人形の周りは気をつけないと。

 一通り仕事を終えるといつものようにテーブルにメモが置かれている。

 そこにはあきらかに女性の文字で買ってきて欲しいものが書かれている。

 書かれているもの中には女性ものの服と下着がいつもふくまれていた。

 いったい誰が着るのかしら。

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