第22話 硬い手を忘れない
その部屋はひどい臭いに満ちていた。
俺は鼻がいいからこの部屋の臭いは苦痛の極地だった。
それに首につけられたわっかが食い込み、息がしずらい。
それに目もかすむ。
もう何日も飯をたべていない。
腹がぐーぐーと悲鳴をあげている。
だが、俺にできるのはこの鉄格子から茶色い壁をみつめることだけだ。
すでに体から力がぬけ、立ち上がることができない。
まあ、たちあがってもこの小さい鉄の箱からでることはできないが。
俺が消えかけの意識の中で目にしたのは一人の目の細いだった。
ボリュームたっぷりの体を黒い上下の服で包んでいる。
その目の細い女は俺の顔をじっと見ている。
なんだかその目に見られるとどこか落ち着く。
この女なら俺は楽なところにつれて行ってくれるかもしれないと思われた。
だが、目の細い女は首を左右にふった。
「あなたはまだ私といくべきではないわ。ほら、あなたを助けに来た人間が入ってきたわ」
目の細いの女は言った。
ガチャガチャと激しい音がする。
「どうやら鍵がかかっていますね」
それは若い男の声。
「壊してしまいましょう。窓から中をみたら放置された彼らがいっぱいいたのよ」
それは別の女の声だった。
続いて激しい音と共にドアが開き、二人の人間が入ってきた。
「うわぁ、すごい臭いですね」
若い男は言った。
「そうね。ここは飼育放棄されたブリーダーの家だからね。かわいそうに何匹か間に合わなかったようね」
手にもつライトで周囲を照らしながら、女は言った。
「見てください、この子もい生きてますよ」
若い男はそういい、でかいペンチで鉄格子の鍵を壊した。
俺をその両手で抱き上げる。
人間に抱かれるのは初めてかもしれない。
なかなかいいものではないか。
「よかったわ、通報はただしかったのね。この子もだいぶよわってるけど助かりそうね」
女はそう言い、俺の背中をなでた。
若い男は俺の首のわっかをそのペンチで切った。
これでかなり息がしやすくなった。
俺は大きく息を吐いた。
「この子種類はビーグルですね」
若い男は言った。
「そうね、かわいそうにずっとここに入れられていたのね。足もだいぶ細くなっているわ。でももう大丈夫だからね」
そう言い、女は今度は俺の顔をなでた。
俺は不思議に思った。
この部屋にはあの目の細い女がいるのにこの二人は気づかない。
目の細い女は抱き上げられた俺をみるとそのひどい臭いの部屋を出ていった。
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