LOG.2 ー ミカを見た日 ー First Sight



——実話。

俺と、現役モデルと、不倫と…。


こんな人生で、マトモは無理。


たった一度の出会いで、人生が壊れた。


これは、その記録。

————





ミカと出会う少し前から説明していこう。


その頃の俺は――

仕事に命を燃やしてる“仕事が大好きな男”だった。


整体の予約は常にパンパン。

昼飯はほぼ食えず、夜まで客をさばき続ける。




汗だくでもうヘトヘトなのに、

なぜか楽しくて仕方なかった。


口コミは勝手に増える。

金も増える。




その頃は確かに伸び盛りだった。





ーーー





仕事の終わりはだいたい夜10時すぎ。

そこから“いつものバー”へ歩いて行く。


そのバーは俺の“ホーム”だった。

飯がうまい。

雰囲気がいい。

カウンター越しに他愛もない話ができる。




それに、平日夜10時過ぎに行くと

マスターのバーには

大体俺しか客はいない。


仕事でパンパンになってる頭を、

ほぼ貸切のバーカウンターでリセットする。



そのルーティンが好きだった。



この日も仕事終わりに、

汗を軽く拭いて、着替えて、

「よし、飲むか」と深呼吸してから店へ向かった。


街灯の下を歩きながら、

胸の中は不思議とウキウキしてた。



理由なんてない。

ただ、そういう“流れの日”ってあるだろ?


この日は、なぜかテンションが高かった。




ーーー




カウンターのいつもの席につく。


マスターが

「今日もお疲れ〜」と麦焼酎を出してくれる。



マスターの店は、

住宅街の中にぽつんとある“情報の中心地”だ。


マスターの店、定食屋、床屋──

この3店舗だけで、この街の噂話は全部まわる。


逆に言えば、この3つで変な行動をすれば

翌日には住宅街じゅうに広まる、そんな場所だ。


マスター自身は、

見た目60手前とは思えないイケおじで、


街のことを何でも知っている

“酒場のマスター”そのもの。


困ったことがあれば

ここに来て相談するのが、

この街の正解ルートだった。







シン

「マスター、最近インスタ伸ばしたいんだよな〜

 なんか、モデルの知り合いとかいない?」




マスター

「モデル?珍しいこと言うなぁ」




シン

「ガチだって。店も伸びてきたし、

 撮りたいんだよ、インスタで映える動画とか」

「で、何万再生もブン回してさ!」

「集客、もっと頑張りたいんだ!」




マスターが少し悩む。




マスター

「うーん…モデルなぁ…… あ! いるよ!」




シン

「えっ」




マスター

「ミカっていう子!

 現役モデルで、

 恋愛リアリティショーも出てたんだよ!

 ナントカって番組…名前忘れたけど!」




シン

「は!? マジで!?」




調子がいい時期、

自信がついてる時期、

なんか“イケてる気がする時期”。


なんでも出来る気がしてる。

今の俺は無敵だ。




ついに現役のガチモデルともつながった…!


やっぱ俺って…すげぇじゃん!!




マスター

「ミカに、連絡してみるか?」




マスター

「たまに飲みに来るし、ノリも軽めの子だぞ」




シン

「え、え、え…マジで……?」




心臓が少し早くなる。

この時、俺はまだ知らなかった。



この“軽いノリ”が、

後に人生をぶっ壊す引き金になることを。





ーーー




そこでマスターがスマホを取り出す。




マスター

「ほら、この子! ハーフなんだよ!

 めちゃくちゃ綺麗だろ!?」




画面がこちらに向く。




そこには

事務所の宣材写真の、

"完璧すぎるほど綺麗なミカ"

が写っていた。




息が止まった。




俺はそこで初めて、

“ミカ”という存在を目で見た。



画面越しなのに、

ミカの視線が脳に刺さって動けない。





マスター

「ただし条件がある。撮影以外で会うな。

 連絡も俺を通せ。直接交換は禁止。

 ミカの事務所は鬼みたいに厳しいんだ。

 頼むぞ、シン。」





シン

「……あぁ。」






マスター

「聞いてんのか!?」




シン

「あぁ…聞いてるよ…」






もちろん。聞こえてない。



あまりにミカが綺麗で、

画面に釘付けだった。




ごめんな、マスター…。



この女が、欲しい。


本気でそう思った。




ーーー




そして

この瞬間から、俺の歯車は静かに狂い始めた。

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