見える僕と見えない彼女 お化け?「怖い!」「ぶっとばす」
こばん
第1話 心霊スポットで見る夢
僕は今真っ暗な世界にいる。
寝ているのか立っているのかもはっきりしない。ぼんやりした思考で、どこにいるのか何をしているのかもわからなかったけど、次第に意識がクリアになるにつれて、モノクロの世界が目の前に広がっていった。
「あ、あれ?ここは……うわ懐かしいな!小さいころよく遊んだ公園じゃん。いつも遊んでたなぁ……三人で。」
ぼんやりしたままそう呟いた僕は、公園に近づく。
「間違いなくあの公園だ。よく砂場で遊んだっけ」
そう考えていると、ぼんやりしたものが形を作り、次第にその砂場が現れてくる。
砂場には幼い男の子と女の子が、こんもりと盛られた砂の山を挟んで向かい合って座っている。
――あれは……幼い頃の僕だ。という事は、これは夢?
「ほら、おーちゃんの番だよ?今日こそお城を完成させる!」
僕の向かいに座っている女の子が、鼻息も荒く僕に話しかけている。
真っ黒な髪をしているきれいな女の子。肩まで伸ばしている黒髪を鬱陶しそうに手で払っている。
思い出した、小学校に入る前に引っ越しちゃった紗羅だ。引っ越しするまでは、いつも二人で遊んでた。
あれ?二人……いや三人?もう一人いたような……。
曖昧な記憶を掘り起こしているうちに、砂場で遊んでいる僕達の前に、少し体の大きい男の子が三人立っていて、僕たちのことを馬鹿にするような目で見ていた。
「おい!今からここは俺たちが使うからお前たちはどっか行けよ!」
その男の子は乱暴な口調でそう言うと、腕を組んで踏ん反り返るようにして見下ろしている。
あの男の子は近所の団地に住んでた、いわゆるガキ大将みたいな存在だ。
いつも割り込んでくるし、大きな声と乱暴な振る舞いで、はっきり言って苦手な子だった。
(何よ!あたしたちが先に遊んでいたんじゃない。後から来たんだからアンタたちがどっか行きなさいよ!)
いつの間にか幼い僕の隣にもう一人女の子が立っていた。紗羅じゃない……僕よりも少し年上に見える。
でも、はっきりとは思い出せない……容姿や名前もぼんやりしているその女の子は、ガキ大将に食って掛かっている。
「お姉ちゃん!」
幼い僕がその女の子に向かってそう呼んだ。
……僕は一人っ子だ。それなのに、確かに昔の僕は「お姉ちゃん」と呼んだ。その「お姉ちゃん」の事は何も思い出せないのに、なんだか胸の中がぽわっと暖かくなった気がする。
でも、横柄な態度のガキ大将は、そんな「お姉ちゃん」の言葉も、きれいに無視してすこし苛立ったように言った。ただ、「お姉ちゃん」の事は無視するのに、紗羅の方をチラチラと見ている事に気付いた。
「何ぼおっとしてんだよ!早くどけって言ってるだろ!」
ガキ大将の取り巻きの一人が、僕にそう言っている。まるで「お姉ちゃん」の事は見えていないかのような態度で……。
(アンタらね!)
無視されたからか、さらに怒ったお姉ちゃんが文句を言うが、それもスルーしてガキ大将がゆっくりと僕の方に歩み寄ってくる。強気な事を言うたびに紗羅の方をちらっと見ている。
覚えていないけど、このガキ大将……紗羅の事が好きだったんじゃ?気を引きたかったのと、いつも一緒にいる僕が気に入らなかったから、いつも絡んできていたのかもしれない。
「いいか、ここは俺たちの縄張りだ。俺がどけって言ったら……」
そう言うとガキ大将はにやりと笑った。そして……「どけよ!」と、言いながら僕たちが作っていた砂山をぐちゃぐちゃに足で蹴り崩してしまった。
そしてどこかどや顔で紗羅を見る。多分ガキ大将は「強い俺を見て」と言いたいんだろうけど、多分逆効果なんじゃないかな?
「あ!」
でも、幼い僕はそう声を出すだけで、何もできずにそれを見ていた。けど紗羅は違った。何度も砂山を蹴り崩すガキ大将に飛びかかったのだ。
でも、紗羅は僕よりも小柄だし、相手は多分年上。
驚いたガキ大将は向かってきた紗羅を思わず突き飛ばした。体が小さく、軽い紗羅は簡単に後ろに飛ばされて地面にしりもちをついた。
「おい!なにすんだ。紗羅に謝れ!」
すると、僕にしては珍しく、声を荒げてガキ大将に詰め寄っているのが見えた。うっすらとしか覚えていないけど、この後確か……。
幼い頃の僕は向かっていったが、体格も違うし喧嘩なんかしたこともない。簡単に突き飛ばされて転がる。
――ああ、ニブイから……頭打ったね、今。
すうっと遠ざかる意識の中で、紗羅が怒った顔で立ち上がったのが見えた。
……また、突き飛ばされちゃうよ。そう思ったところで幼い僕の意識は沈んでいった。
投げ飛ばされた勢いで僕は頭を打って軽く脳震盪かなにか起こしたらしく、軽く騒ぎになったのを思い出した。あれ?騒ぎになったのは僕の事だったっけ?ガキ大将がどうかしたんじゃ……
ふとそんな気がしたけどその先を思い出すことはなかった。
モノクロの世界は遠ざかってゆく。幼い頃の僕も、紗羅たちも小さくなっていく。ゆっくりと視界が黒に染まっていって、現実に戻っていったからだ。
瞼を開けると見慣れない天井が目に入る。薄暗い空間でわずかな明かりで見える天井は薄汚れていて、いたるところにクモの巣が張っている。外からは、セミたちが競い合うようにして鳴いているのが聞こえてきた。そして、ぼんやりと開けた僕の目に、覗き込むようにして僕を見る顔が見えた。
「あ、逢介。気が付いたか。お前どんだけビビりなんだよ、いくら薄暗くて不気味ったって言ってもカーテンがひらひらしただけで悲鳴を上げて気を失うとは思ってなかったよ」
目覚めた僕の様子を見て、そばに座り込んでスマホをいじっていた奴が呆れ顔でそう話しかけてきた。そのころにはようやく僕の意識もはっきりしてきた。頭を振ってどうしてこうなったのかを順に思い出して行こう。
僕の名前は
そして僕たちが今いる場所は……営業しなくなって十数年……もしかしたらもっと経っているかもしれない廃旅館にいる。一度は解体しようとしたのか、建具と内装は取り払われていてコンクリートの基礎と壁がむき出しになっている。そのコンクリートには色鮮やかなスプレーでよくわからない言葉やマークが描かれている。
生温かい風が僕の頬を撫でて通り抜けていき、僕はビクッと肩を跳ねさせる。そう、ここはいわゆる心霊スポットと言われている場所だ。
「まさか到着してすぐに気を失う奴なんて初めてなんじゃないか?」
クックッと笑いながらそう言って笑っている冬弥を横目で睨む。
――だから来たくなかったんだ……
むっとしながら僕はあらためて周りを見渡した。床にはゴミや昔の書類が散らばり、汚れて読めないがこの宿のパンフレットみたいなものも散らばっている。
ちょうど近くにあった新聞を取って、何気なく読んで見ると、当時の事件の見出しが大きく書かれている。
(連続する事故!女子中学生の謎の死に続いて、今度の被害者は地元の男子高校生が二人!廃旅館でいったい何が?)
「お?気付いたか?それ、ここの旅館で昔あった事故らしいぞ。なんか、ここで死んでる中学生が見つかった後、数日後に今度は、高校生の不良が死体で見つかったらしい。ここであったんだぜ?すごいよな!」
冬弥は昂奮してそう言ったが、僕の顔は盛大に引きつっていた。ただでさえ怖いのに余計な情報を追加しないでほしい。
「て、いうか……新聞の記事にもなってるって、ほんとの事じゃん!やだよ、もう帰ろうよ」
泣きそうな顔でそう言う僕にまあまあ、せっかく来たんだからと、冬弥はなだめている。
「さて、逢介も気が付いたし、そろそろ先に進むか」
しばらく僕をなだめていた冬弥が、立ち上がってズボンの埃を払いながらそう言った。
「……ホントにいくの?」
到着してすぐに気絶するという醜態を晒したうえに、ここで本当に事件があったという事実が加わり、僕の心は、もう折れかけていた。
自他ともに認めるビビりの僕が心霊スポットなんかに来ているのはもちろん訳がある。それは数日前に遡る……
◆◆◆◆
いつものように登校してきた僕は自分のクラスである一年二組に入ると自分の席に座って荷物を机の横に掛けた。
朝のホームルーム前、ざわついてる教室内。僕の席の近くでは、仲のいい人達が集まって会話に花を咲かせていた。
中には興味のある話もあったが、あまり接点もないうえに、基本的に人見知り気味の僕は話に加わる事もできずに、自分の席で一人教科書の準備をしていた。
すると、視線の上の方で誰かが僕の前の席にどっかと座るのが見えた。
「よう、逢介。相変わらず一人か?」
その声に僕が顔を上げると、誰からも好かれそうな笑顔を浮かべた男子生徒が見ていた。それに対して僕は軽くため息をつきながら応じる。
「おはよう、冬弥。その言い方は何か傷つくからやめてよ」
けして間違ってはいないけど、そう言うと、いつも一人でいるぼっちみたいじゃないか。
「そうか?悪い悪い」と、冬弥は軽い感じで僕のクレームを受け流し、次の瞬間には何事も無かったように話題を変えて、何か話そうとしていた。
「ねぇ、冬弥くん!あの、数学でわからないどこがあって教えて欲しいんだけど……もしよかったらその後一緒にカラオケ行かない?」
そこに二人組の女の子が割り込んできた。頬を染めて、照れながら冬弥を見ている。内容は、勉強が目的なのか、カラオケが目的なのか良くわからなかったけど。
「あ、今度時間があったらね!今は逢介と話があるからごめんね!」
しかし冬弥は、慣れた様子で、愛想よく女の子達の誘いを断った。
愛想は悪くないが、あなた達に関心はありませんよと言う声が聞こえてきそうなやりとりに、女の子達は諦めて離れて行く。
「冬弥、いいの?簡単に断って。今の子達、うちのクラスでも可愛いって言われてる子達なんだけど?」
若干のひがみも込めて僕が言うけど、冬弥はどうでもよさそうに手を振った。
「いや、そう言うのはしばらくいいよ。面倒だろ?付き合うのとか男と女ってさ」
まるで、それだけの経験をしてきたかのように言う冬弥に、僕は思わず笑ってしまった。
「へへ……まぁ、今は逢介とつるんでる方が楽しいしな。」
僕とは何の接点もないのに、冬弥はなぜか僕と気が合うらしく、こうしてわざわざ四組から僕の所に話をしにくる。
「なあなあ逢介、聞いたか?三組に転入生がきたらしいぜ!それが沖縄から転校してきた女の子でしかもめっちゃかわいいらしい!」
やや興奮気味に冬弥は言ったが、僕は別のことが気になった。
今は七月、入学してから四か月も経っていない。そんな時期に転入してくるなんて随分中途半端だな。と思ったのだ。感じたことをそのまま冬弥に言うと、冬弥はみるみる渋い顔になっていった。
「逢介……。めっちゃかわいいらしいんだぞ?ここは……ほんとか?ちょっと見に行こうぜ!ってなるのが健全な男の子ってもんだろ?」
「いや、知らないよ。その子だって転校してきて慣れてもないのに、そんな見世物みたいにされたら気分良くないって」
無駄だと思いつつそう言った。興味を持ったら一直線な性格の冬弥が諦めるとは思っていない。
案の定、冬弥はしつこく「いいだろ、見にいこうぜ」と誘ってくる。
そうしているうちに予鈴がなって一限目が始まる時間であることを知らせてきた。
それを聞いて、腰を浮かせながらも、冬弥は何度も次の休み時間にまた来るから、行こうぜ。なっ?と繰り返して教室を出て行った。その冬弥と入れ替わるようにして先生が教室に入ってきて授業が始まった。
――他のクラスの転校生か。結局見にいくんだろうな。
興味なさそうな僕を冬弥が引っ張って行く様子が簡単に想像できて、ため息をつきながら教科書を引っ張り出すのだった、
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