転校先にいたS級美人姉妹が、なぜか俺に懐いてきて知らないうちに病んでる件

天江龍

第1話

 攻略不可能なスプリット。

 そう呼ばれる双子の姉妹がこの学校にいる。


 青山美月あおやまみづき

 青山柚季あおやまゆずき


 名前もよく似ているこの二人は顔も姿も瓜二つな双子姉妹。


 作り物のようにくっきりとしたアーモンドアイ、高く通った鼻筋、ぷるんと瑞々しい唇。


 スタイルもよく、それでいて少し小柄。

 なんかもう、男の理想そのものを具現化したみたいな美少女姉妹だ。


 ちなみに見分け方としては、姉の美月は髪を下ろしていて、妹の柚季はポニーテイル。


 そんな青山姉妹を知らないやつはこの学校にはおそらくいない。


 そして二人は何をする時も一緒。


 登下校はもちろん、休み時間や委員会活動、昼食だっていつも二人で食べていて。


 そして極めつけに。

 男子からの告白を受ける時でさえ、対象でないもう片方がついてくるという。


 二人が攻略不可能なスプリットと言われる所以はそこにある。


 聞く話によると、男子との交際はお互いが認めた人物でないと許さないとか。


 美月が頷きかけても柚季がうんと言わない。

 柚季が悩んでいても美月がノーと言う。


 どういう基準で採点しているかはもちろん不明だが、二人を同時に納得させなければそのどちらとも付き合えないという無理ゲー加減からついたその呼び名は学校ではすっかり浸透していて。


 入学当初からしばらくはその美貌に惹かれて告白する男子たちも後を絶たなかったが次第に皆諦めるようになって。


 やがて二人を攻略しようとする男子は誰もいなくなった。


「ってことだ、飛鳥」

「ふーん、なんか変なあだ名だな」


 たった今、教室でクラスメイトの中西から青山姉妹の説明を受けた。


「知らないのか? ボウリングのスプリットって」

「知ってるよ。で、なんで急にそんな話をしてきたんだ?」

「お前には俺たちが通ってきた辛い道を通ってほしくないからさー」

「なるほど、みんな一通りフラれたんだな」

「まっ、そゆこと」


 俺こと天堂飛鳥は、高校二年の春から今の高校に転校してきたばかりだ。


 大した理由ではない。 

 両親が海外転勤となって、俺だけ祖父母の家に預けられることとなり、それに伴って転校を余儀なくされたって話。


 で、転校初日からこの中西が俺のことを気にかけてくれて色々と教えてくれてるんだけど。


「ていうか、フラれた側にも原因あんじゃね?」

「おいおい傷つくからやめてくれよ。でも、サッカー部のエースも、学校一のイケメンって言われる先輩もみんなダメだったんだぜ?」

「まあ、身持ちが固いのは悪いことじゃないだろ」

「鉄壁すぎるのもどうかと思うけどなー」


 そんな話をしていると、教室に青山姉妹の片方がやってきた。


 妹の柚季の方。

 彼女とはクラスメイトだが、当然一度も話したことはない。


 遠目で見ても確かに相当な美人だ。

 ただ、話したこともない相手に恋するほど惚れっぽい性格でもない。

 そもそも女の子と話すのは得意でもないし。


 中西の心配は杞憂に終わるだろう。

 まあ、友人を思ってのアドバイスってことで、頭の片隅には置いておこう。



「あれー、おかしいなあ」


 放課後。

 まだ部活も決めていない俺は、しばらく教室で一人静かに読書をしていた。


 すると、困った様子で青山柚季が教室に戻ってきた。


「鍵、どこで落としたんだろ……」


 机の中をガサガサと漁ったあと、また困った様子で頭を掻いていた。


 どうやら何かを探しているようだ。

 

 今この教室には俺と彼女しかいないが、しかし彼女は俺に見向きもせず教室のあちこちを覗いてはまた頭を掻いていて。


 こんな時、さりげなく一言「手伝おうか」とでも言えたらいいのだけど、あまり女子と話すのが得意ではない俺にとってはハードルが高い。


 ましてや相手があの青山姉妹の一人ともなれば尚更のこと。

 あまりジロジロ見て変に思われても嫌だし、さっさと退散しようと席を立った。


 すると、


「ん?」


 青山の机の脇に光るものを見つけた。


 何かの鍵が、黒いキーケースと共にぶら下がっていた。


「もしかして、それですか?」


 思わず鍵を指差しながらそう呟くと、青山柚はキョトンとした様子で俺を見てから指差す方を振り返って。


「あー、あった! よかったー」


 鍵を手に取って、ホッとした様子でそれをしまうと。


「あの、ありがとね。ええと、ごめん誰?」

「あ、ああ、俺は天堂飛鳥。この前転校してきたばっかで」

「あ、転校生君か。助かったよー。ええと、私は青山……柚季。ほんとありがとね」


 名乗ってから礼を言うと、慌てた様子で青山柚は走り去っていった。


「……俺も帰るか」


 最後の青山の笑顔、確かに可愛かった。

 あんな美人、テレビでもそう見ることはない。

 そんな子が間近にいて、あんな風に接されたらみんなが惚れるのも無理はない。


 ただ、俺はそんなことより。


 何か違和感を覚えていた。

 それが何かと言われたら説明もできないような微妙な違和感。


 それが何なのかわからないまま俺は、静かに教室を後にした。


 

「あ」


 釈然としないまま帰り道のコンビニへ寄ると、偶然にもまた、青山姉妹の一人と遭遇した。


 髪を下ろしているから、今レジにいるのはおそらく姉の美月の方だろう。


 見覚えある顔に思わず声が出てしまったが、さっき俺が教室で喋った柚季とは別人だ。

 当然美月の方とはクラスも違うし会ったこともないので、向こうも俺のことなど知るはずもなく、こっちを見てからまたすぐに手元の財布に視線を戻した。


 しかし本当にそっくりだ。

 髪型くらいしか見分ける方法がないってのも頷ける。


「……ん?」


 しかしここでまた。

 さっきと似た違和感を覚えた。

  

 でも、やっぱりそれが何かはわからない。


 入り口横の雑誌を立ち読みながらも、内容が頭に入ってこない。


「ありがとうございましたー」


 会計が済んだようで、背中越しに青山美月が出入り口に向かってくるのがわかった。


 そしてちょうど、俺の横を通り過ぎていく時にハッと顔をあげて。


「青山……柚季?」


 なんとなく。

 本当に何の根拠もなく、ただなんとなくそう思った。

 彼女とは会ったことがある、気がする。


 今、俺の横を過ぎていったのは青山美月ではなく。

 妹の柚季だと。


 そして思わず声が出てしまった。


「……え?」


 俺の声に反応した青山は足を止めた。


「あ、いや、すみません」

「……あなた、誰? 妹の知り合い?」

「え? ええ、まあ、柚季さんのクラスメイトで」

「ああ、そう。でもごめんなさい、私は姉の美月だから」 

「そそ、そうですか。いえ、失礼しました」


 慌てて雑誌に視線を戻すと、彼女もそのまま店の外へ出て行った。


 開いたままの自動ドアから涼やかな風が入り込んできて、手に持った雑誌がパタパタと揺れていて。


 やがて扉が閉まり。

 そのあと、俺は飲み物を買って店を後にした。


 

 

 

 


 


 

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