EP.15(終話)火花の奏でた音色達



 型抜きをして、射的をして、ヨーヨーすくいをして、一緒にたこ焼きを食べて。

 幸せな時間を過ごしながら、御満悦ななおは、かずきの横顔を見て、一瞬で目を逸らした。


(オォオオォ……顔直視出来ねえ……)


 見事に綺麗な横顔に見惚れていたいのに、直視出来ない。見ている、という事がバレてしまうと、気持ち悪いと思われてしまうかも知れない。


 そもそも羞恥が勝って、彼の顔を見る事が出来ない。

 直視が出来ないから、チラチラと辺りの風景と一緒にかずきの横顔を目に焼き付ける。

 繋いでる手を見て、ふふっと笑う。


(あぁ。こんな幸せ、感じたのいつぶりだろうな……)


「ん? どうしたの? なおちゃん」

 

「……な、なんでもない……よ……!」


「そ? 焼きそば食おうかなって思ってんだけど、なおちゃんも食う?」

 

「…………食べさせてくれるなら食う…………」


「うん、いいよ」


 発言した後、なおはカァーッと一気に赤くなる表情に自分でも気付く。火照る頬を外せない左手で抑えようと思っていたら、無理だったので、右手だけで抑える。


(オォーッ!! なお! 超・大・胆!!)

(……明日には死んでしまいそうだな……)

 

 なおは心の中でそう思いながら、焼きそばを購入したかずきに着いて行き、少し離れたところでかずきに、焼きそばを食べさせてもらう。


「ふー! ふー! ……ほれ、あーん」


「……あ、あーん。」


「ほら、ちゃんとこっち見ないと、危ないよ」


「……え、でも……」


「でもじゃないよ。火傷するかもやし、溢れちゃうかもやろ?」

 

「……う、うん……」

(無理言うなって)

(……それとも……分かってて言ってるの……?)


 焼きそばに目線を合わせると、それと同時に彼の優しそうな瞳が視線に入る。


 一口焼きそばを食べて、モグモグと噛んでいる中で「美味しい」と呟く。


 「ほんと? ……モグモグ。あ、ほんまや、美味い」


 屋台で食べる焼きそばなんて、どこも大した変化のない普通の焼きそばである。

 なんの変哲も無いし、だからこそ特別に美味しい焼きそばなんて無いはず。

 野菜と、肉と、そばが入っていて、ソースがかかっていて、鰹節がふりかかっていて、青のりがふりかかっていて、紅生姜が添えられている、というシンプルな焼きそば。


 そんなシンプルな焼きそばでも、好きな人に食べさせてもらう、一緒に食べるという秘密の魔法によって、普段の美味しさによりを掛けているのかも知れない。


 そんな事を考えながら、なおは貴方と付き合えて、貴方と花火大会に来れて本当に良かったと心の中で呟く。


 焼きそばを食べながら、無邪気な笑顔を浮かべる彼の顔を見ながら。


 優しく微笑むなおを見て、自然と笑顔の溢れるかずきは「もう一口いるか?」となおに聞いた。


 なおは微笑みながら「うん」と言い、かずきにもう一口食べさせてもらった。


 そろそろ花火の時間だな、とかずきは言い花火が良く見えそうな場所へと移動する。


 少し歩いた先にて、手を繋いで向かい、花火が打ち上がる様を二人で鑑賞する。


「おぉ、昨日とはまた違って凄えなぁ」


「……ほんとに。とても綺麗」


 そろそろなおのデザインした花火が打ち上がる。


「そろそろかな?」


「うん、多分」


 すると、暗闇の夜空に真っ赤に燃え行く薔薇が大きく一つ描かれた。

 それが消えると共に無数の小さな紅蓮の薔薇が爆発する様に描かれる。


「……すごい……」


「綺麗な赤い薔薇やな。でもなんで赤いバラ?」


「……特に意味なんて無いよ」


「いやいや、なんかあるんやろ?」


「……い、いやいや? な、ないですから?」


「仕方ねえから、赤い薔薇の意味でもググってみる」


「……え!? やめてやめて!!」


「ほら、なんか意味があるんだろ? 教えろよ」


「……うぅ……そんなんずるいって……」


 花火で光るかずきの横顔を見ながら呟く様に言葉を放つ。


「……………………“貴方を愛している”………………」

「……赤い薔薇の花言葉……」


「ん? へぇ……へ?」


「…………ッッ」


「……花火の音で良く聞こえなかった……」


「……嘘つけよ……」


「ハハッ」

「バレた?」


 なおのデザインした花火は直ぐに打ち上げ終わり、次の花火へと移る。


 かずきはなおの肩を掴んで、優しい表情で顔を近づける。


「俺も貴女を愛しています」


 そう言いながら、無数に放たれた火の花の下、なおの唇に、自分の唇を重ねる。

 そのまま、なおから力強く抱き締められ、クスリと笑いながらかずきも抱き締め返す。

 

「んーーーーっっ!!!」


「これから先もこうやって仲良くやってこうね。まだ付き合って一日目だけど、来年の花火もこうやって見に来よう。約束だよ」


「……うん……うん……うん……」


 貴方と観れたこの花火を私は忘れる事は無いだろう。もし仮にどこかの未来で貴方と別れる事があったとしても。


 なおはそう思いながら、かずきの肩に頭を置きながら、残りの花火を観た。


(貴方が前に、熱中症で倒れた私を助けてくれて)

(それから私を想ってくれた様に)

(私もずっと前に手を差し伸べてもらったあの日から)

(貴方を想い、忘れられなかった……)

(……だからこその……赤い薔薇……)


 パラパラと鳴る音と、パッと光る火の花を観ながら、なおとかずきは幸せを想った。





 無口な空が声を張り上げて鳴り響く中、その光の下にはるかとたいちはお互いに手を繋ぎながら、花火という作品の数々を見ながら感動をする。


 どうやってこうやって作り、どうやってこうやって表現しているのか。それも気になる中、好きな人と一緒に観れたこの花火をお互いに胸の内の想い出としてしまう。


 この時が永遠に続くような気がして、この幸せが永遠に続けば良いと思えて、何か面白味のある話をしていたわけでもないのに、一緒に居れる、一緒に花火を観れる、一緒にこの時を過ごした事の意味の深さを感じている。


 何か特別な会話も交わしていないが、ベンチに座りながら、はるかは自然とたいちの肩に顔をもたれかけて、それに気付いた、たいちも、少し緊張しながら、平気なフリをして花火を観る。


 この前までだと、得られなかったこの時間。

 この前までだと、知る由もなかったこの時間。

 この前までだと、お互いにこんな関係になるとも思わなかった。


 昨日よりも派手めな花火を観ながら、お互いに無言の中、顔を見つめ合う。

 少し目を逸らすはるか。

 真剣な表情で見つめるたいち。


 お互いに我慢しきれずに軽く笑い合い、フゥーっと軽い深呼吸をした。

 その後たいちは、はるかの顔を優しく撫で、頰辺りに手を添えながら、接吻を交わす。

 気恥ずかしい時間も少し経ったが、お互いにもっと好きになれた気がした。


 また、たいちの肩にもたれ掛かる、はるかの頭に、たいちは頭を置いて、花火を観続けた。


「このままずっと花火打ち上がんないかな」


「本当にな」


「うん。寂しくなっちゃう」


「……そうやな」


「次いつ会える?」


「来週くらい?」


「……わかった。来週くらいね? 会える日まで楽しみに過ごしとく」


「うん。また連絡するよ」


「待ってるね。」


「うん、わかった」


 しばらくの間また花火を見て過ごす。繋がれた手は離れる事は無く、無言の中幸せそうな表情を浮かべる二人。

 また来年もこの幸せが訪れる事を願いながら、二人は指を交差させて手を繋ぎ直す。


 この僅かな幸せを取り零さない様に、空の叫びを聴きながら。描かれた花火を観ながら。

 なんて事の無い日常の中、お互い心の中でこれからを誓う。

 もう二度とこの空を二人で観れない。なんてネガティブな思考はしなかった。


 むしろ、来年もまた一緒に観たいという考えの方が勝った。

 全く同じ空なんて見えないけど、異なる新しい空の表情を二人で覗き見たかった。


 明日になればいつもの日常が舞い戻る。この非日常的な花火大会を終えて、得られた事の大きさを無意識に感じながらも、明日から戻る日常でも、また会おうと二人誓い合い、残りの花火を2人で見届けた。


 寂しそうな表情をする、はるかの顔を見て、自分も物悲しくなるたいちは、その表情を隠して、ポン、とはるかの頭を撫でた。


「まだ付き合ったばっかやし、お互い少しの間でも会えへんのは寂しいけど、大丈夫」

「会えへん間でも俺ははるかを想うし、更に会いたくなって、また好きになってるかも知れへん」


「……ほんまかな。浮気とかしたらあかんよ?」


「そもそも浮気をするっていう思考が無かったわ」

 

「ふふ。私もせえへんから安心して」


「されたら泣くで」


「私の方こそ」

 

「とりあえず、はるか、家まで送るわ」


「一人でも帰れるよ?」


「少しでも一緒に居たいから、送る。嫌って言われても送る」


「んふふふ。なにそれ。嫌って言うわけないやん。そんな風に言われたら言えへんし」


「ははは。まあ、夜道に女の子一人ってのも危ないしな。よし、帰ろか」


「うん……ありがとう」


 鳴き止んだ無口な空の下、2人の男女は、互いに笑い合いながら、帰宅路を歩き、次会う時に何をしようかなんて話をしながら、暗い夜道を歩いた。



 


 花火が打ち上がるその瞬間を、彼らは様々な場所にて、各々その様を見届けようとしている。

 メンツにより場所は異なりながら、同じ空を見上げている。


 明日を迎える為に真っ暗に染まり行くその空に鳴り響く火の花の音を観聴きする為に、彼らは空の下に集う。

 少し離れてようが、遠くに居ようが、見る空は同じ。

 見る景色は同じ。

 世界が闇に覆われたような空を見上げる。


 その瞬間に、数秒の間をおいて、火花が舞い上がる。


 ドゥパァアンと気持ちのいい音を立てて、打ち上がる火の花はとても美しく、可憐で、儚げであった。

 一瞬にして燃え上がり、一瞬にして消え失せる。

 その様を見て、彼らは何を想うのだろうか。


 一年のうちにたった一度のこのイベントに集う人々は、その空を見て、何を想うのだろうか。

 今年も夏が始まり、そして終わろうとしてい

る。

 長い様で短く、短い様で長い。

 そんな休みも、このイベントが終わると、直様に終わりが訪れる気がする。

 楽しみで仕方の無かった花火大会も、やって来るまでは遠いのに、やって来たらあっという間に終わる。

 終わってしまえば虚しい気持ちがやって来る。


 そうして、また来年も観に来ようと思えるのかも知れない。


 友達と。

 恋人と。

 家族と。


 その時々により、見える景色は変わって来るかも知れない。

 明日はどんな空が待っているのだろう。

元気な顔を見せてくれるのかな。


 悲しい顔をするのかな。

 困った顔をするのかな。

 それとも笑ってくれるのかな。

 どんな顔でも、空は空。そんな空は一年に一度、声を上げて、鳴き叫ぶ。


 どんな言葉を、想いを秘めて泣き叫ぶのかは不透明だが、人々はそれを観て、勇気を貰ったり、元気を貰ったりする。

 今日も空は騒がしい。

 空に抵抗するかの様に、地上に居る人々も騒がしい。


 ひろあきは、大行列の中からやっとの事でトイレを終わらせることを成功する。

 急いでりゅうのすけ達の元へと戻って来る。

 然し乍らそこに流れる空気感はどこか神妙な面持ちの様で、近付けないでいた。


(お、告白時間か……!? こりゃ邪魔出来ねえや……)


「……ごめん。俺、みーちゃんとは付き合えない……」


「……付き合え、ない……それはどうしてか……聞いていい……?」


「…………………………」


「……こ、答えて……答えて、よ……! 私を振って……その理由は分かってる……!! 私以外に他に好きな人がいるからなんでしょ……?」

「それは誰……?! 告白した私にも聞く権利はあるはず……!」



「うん。俺、ここ最近ずっと同じ事考えてた。……それってみーちゃんの言う通り好きな人が居るって事なんだろうな……」


「……え……?」


「……ねえ、りゅう。……そ、それって誰なの……?」


 怖かったのに、聞きたくて仕方なかった。

 自分以外の好きな人。それを聞いてしまうと、それで終わりになってしまう気がするのに、相手が誰か知りたかった。



「……………………」


「教えてくれたって良いじゃない……! ねえ! 誰なの!? みうの知ってる人?!」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらただひたすらに叫び散らす。

 りゅうのすけは何も悪く無いはずなのに、まるで彼を責め立てる様に。


「…………………………」


 りゅうのすけは、みうの瞳を逸らさずに、一点に見つめながら、ゆっくりと口を動かした。


 その瞬間、時間が止まった様な気がした。

騒がしく、祭りの屋台を楽しむ人々の、喧しい声も、この瞬間だけ、聞こえなくなった気がした。


 りゅうのすけは、一瞬だけ目を閉じて、真面目な表情を浮かべながら、みうを見つめる。


「……相手のこともあるのにそう易々と言えたもんじゃないよ」

「……でも、みーちゃんも知ってるよ」


 その答えを聞いて、みうは、固まってしまう。

まだ時間は動いてくれないでいる。


「……まさか……さくちゃん……?」


 りゅうのすけは答えない代わりに一心の瞳でただひたすらにみうを見つめた。


(……まさか過ぎる結果やったなこれ……)

(いや、りゅうくんに他に好きな人居るかも? って昨日まやちゃんと予想してたけども……)


 ひるあきはしばらく沈黙してそのシーンをしばらく見つめた後、深い溜息を溢して空を見る。


「ごめんな、俺みーちゃんの事好きだけど、そういう好きじゃないんだ」


「……うぅうううぅ……」

「うぅうぅ……うん……うん……うぅうぅう……」



 りゅうのすけの声を聞きながら、嗚咽を吐きながら、みうは頷く。


「でも、これからも仲良く、友達で居て欲しい。ごめんな。俺わがままでさ」


「……うぅうぅうぅう……みうの方こそ……うぅうぅ……ううぅうぅぅうぅぅ……ううう……ごべん"……」


「……ほんと、ごめんな……」



 りゅうのすけは、そう言いながら、申し訳なさそうにして、下を向く。


 しばらくすると、りゅうのすけのスマホが鳴り出し、着信音を知らせている事に気付く。


「ごめん、みーちゃん」

「電話出るね」


「……うん、いいよ……」


「ありがと」

「……もしもし。どうしたの?」


 着信画面から、通話相手がくうどうである事が分かった。


『りゅう、今どこに居る?』


「え、花火大会に来てるけど」


『さくちゃん、見てないか?』


「……さくちゃん? 見てないけど……?」

「なんかあった?」


『……そっか。ごめん、さくちゃん見当たらんくなってさー……また見かけたらで良いから……』


「さくちゃんが居なくなった!?」


「……え……?」


 みうは涙を止めて、顔を上げる。


(……え……!?)


 ひろあきはびっくりして飲んでいたお茶を吹き出す。



『いや、ただ見当たらんってだけやからさ。いやー、おかしいなあ。さくちゃんさっきまで、さくちゃんママンと一緒に居ったハズやのに……』


「……分かった。俺の方でも探す。くうどう君の方でも、なんかあったら教えて」


『あぁ、すまん。助かるよ! ありがとう! 分かった! またなんかあればLINEする!』


 りゅうのすけは即座に通話を切り、走り出した。

 みうは、その背中をただただ、見る事しか出来ないまま、泣き出してしまった。


 ひろあきはみうに近付き、声をかけた。


「……みうちゃん、たこ焼き、買って来たんけど食う?」


「……食べる……」





 神社から河川敷に連なる、屋台を走りながら、さくらを探す。

 こんなところ、無闇矢鱈に探してもさくらは見つからない。

 どこか。どこか、さくらの行きそうなところ……。


「……くそ、あいつ……どこ行ったんだよ……!」


 辺りを見渡しても、見つからない。

 こんな時に、りゅうのすけは花火大会の少し前に一緒に映画を観に行って、ご飯を食べに行ったあの日を思い出していた。

 あの時のさくらの笑顔を。

 あの時一緒に居た時間の心地良さを。


 あの時に見た、さくらの幸せそうな顔を。

 りゅうのすけは思い出していた。


(……どうしたんだよ……どこに行っちまったんだよ……)


 神社の南口に来たけど、どこにも居ない。

 東口に行っても。北口に行っても。西口に行っても居ない。

 もうからこれ二十〜三十分くらいはずっと走り回っていた。


「……さくらーーー……っっ!!!!」





 ある程度泣いた後に、こっそりと母達の元を離れて、ゆっくり歩いていた。

 なんでこんなに泣いているんだろう。

 りゅうのすけとみうがくっ付く事はめでたい事だろう。

 これは決して嬉し泣きではなかった。

 さくら自身もそれだけは分かっていた。


 (……………………)


 ボォーッとしながら、多くの人達が賑わう屋台の道を抜けて、ただひたすらに歩く。

 この涙の意味は。この気持ちの名前は。

 自問自答をしながら、ただただ歩く。


「……みうちゃんとりゅうくんが……幸せになる……それの何が悲しいの……?」


 少し胸が痛くなって来た。胸を押さえながら、また出て来た涙を自分の手で拭い取る。


「……なんで……なんで……」


 なんで、こんなにも涙が出て来るのだ。

 悲しい気持ちにも襲われてしまう。

 そうだ、この気持ちは、悲しいのだ。

 何故、悲しいのか。

 さくらは、どれだけ脳を回転させてフル活用しても分からないままで居た。


 近くにあった屋台で、アンパンマンの風船を見

つけた。

 可愛いな、と呟きながら、また歩いた。





 かんなと、りくの面倒を見ながら、くうどうはさくらの心配をしていた。


「まったく。さくちゃんはどこに行ったんや」


「あの子ももう高校生でしょ。その内家に戻って来るって」


「まあ、泣いてましたし。何か思い詰めて……とか、ないかなって心配で……」

「てか、さくちゃんの親なんだからもう少し心配したら……」


「んまぁ、あの子は確かに繊細な所もあるけどね」

「そんなでも私の子だから、強いところもある。だから、きっと大丈夫や」


「……分かりました。俺はこのままかんなとりくの面倒見てます」


「その方がきっと良い。さくらに気を取られて、その子らになんかある方が私としては心配だし」


「確かにそうですね……」


「それに、こんなだだっ広い祭の現場を探し回るんは、しんどい」

「りくと一緒にアンパンマンコールしたら戻って来るやろ、あの子あの歳で人一倍アンパンマン好きやし」


「……くそ、この人、おもろい……」


 どこか、負けた気がしたくうどうであった。





 ひるあきとみうは、ベンチに座り込む。ひろあきは泣いていたみうの落ち着きを待っていた。


「みうちゃん、落ち着いた?」


「……うん……」


「ほんま? 良かった」

「喉乾いてない? とりあえずなんか飲む?」


「ありがとう、ひらあき」

「でも、私さくちゃんも心配になって来た」


「……それも、そうだね……」

(……ここで、りゅうくんが探しに行ったから、大丈夫だとか言ったらまた泣きそうだしな……)


「ひろあき、みうもさくちゃん探しに行く」


「……え! あ、うん。分かった。行こう。とりあえず喉乾いたし、自販でなんか買おう」


「……うん。そうやね。みうも喉乾いた」


 そう言い、二人は立ち上がって、自動販売機へ向かい、適当な飲み物を買う。


「どこ探す……?」


「多分、方向的に、りゅうくんは神社の東西南北」

「それぞれの出入り口を探しに行ってるやろうから。俺らは、河川敷の方に行こう」


「うん、分かった!」


(……よかった……! ホントに少し落ち着いたみたいやな……!)





 神社の近くにある、河川敷から少しズレた場所にあるこの公園。

 さくらは一人そこに立ち寄って、ブランコに乗り、揺られながら空を見ていた。


「……あぁ。花火綺麗だなぁ……」


 この空を一緒に見たい人が居た。

 無意識のうちに、自分の中に存在していた。

 それが誰か。もう分かっていた。何故涙を流し、泣いたのか。その涙の意味と、気持ちの名前に。


 本当は分かっていたんだ。ただ、分かろうとしなかった。いや、認めようとしなかったんだ。


「今頃……りゅうくんとみうちゃんは……一緒に……」


 そう思い耽ながら、空に浮かぶ、円を描く火の花を見上げる。

 すると、公園の出入り口付近で、息を切らした声が聞こえて来る。咄嗟にその方向へ視線を向けた。


 肩を動かす勢いで息を切らし、大量の汗を流している人物が居る。その人物はりゅうのすけだった。


「ハァハァッッ!! ハァハァッツ!! やっぱりッッ!! ここやったかッッ!!」


「……え……? りゅう……くん……?」


「……ハアハアッツ!! ちょっ!! ハァハァッツ!! ちょっと!! タンマ!! ハァハァ!! ごめん!! 待って!!」


「……なんでそんなに疲れてるの……?」


 りゅうのすけは、近くにあったベンチに腰掛けて、道中で買った飲み物を勢い良く飲みながら、一休みする。

 さくらも、その隣にちょこんと座り込む。


 しばらくして、りゅうのすけは落ち着いた。

 さくらは、気まずくなりながら声を掛ける。


「……どうしてりゅうくんがここに……?」


「ふぅーー……え? ああ。なんかどっか行ったって聞いて。探した。そんでやっと見つけた」


「……探した……って……どうしてここが分かったの……?」


「あーっと、一人でどっか行く、人混みウザくなる、誰もいない所に行きたくなる、花火大会の会場の神社からで一番近かったこの公園に行き着いた」

「それまでに神社中走り回ったお陰でめちゃくちゃ疲れたけど……つーか人混みエグすぎだろ……」


「え……なんで……そこまでして……」


「……なんでってそりゃ……心配だからに決まってんだろ。なんかあったのか? あったからこんなとこ来てんだろ」


「……いや、そんな事より、いいの? こんなとこに居て。みうちゃんのとこ戻ってあげなよ…………」


「なんでみーちゃんとこ戻んねーといけねーんだよ」


「……え、だっ、だって……」


「なんだよ」


「……み、みうちゃんと……つ、付き合う事になったんでしょう……?」


「……は? なんで? なんでそうなんの?」


「……え、だって……だって……だって……」


「……付き合わねーよ」


「……え、なんで……?」


「なんでもどうも、俺がみーちゃんに付き合えないって言ったから……っつーかオメー、さっきの見てたのか?」


「……え、付き合えない……って……なんで……」


 自然と嬉しく思ってしまった。さっきまで痛かった、重たかった心が、なんだか軽くなった気がした。


「……うん、付き合えないって言った……俺、みーちゃんの事好きだけど、そういう好きじゃねーからって」

「……それに他に好きな人居るからって……」


 軽くなった気がした心に、また重苦しくなった気がする。


(そうだよ……ね……りゅうくんだって……好きな人くらい……居るよね……)


「……俺、さくちゃんが好きやから」


 ひゅぅうぅうぅ……ドゥォパァアァアァンンッッ!!


 りゅうのすけの背景の空にまた大きな火の花が

舞い上がった。

 大きな破裂音と共に、綺麗で美しい火の花が漆黒の夜空に描かれている。


 その火の花はアングレカムの花の形を彩っていた。

 さくらの紅く火照る顔が明るく照らされる。


「……あ……え…………?」

「……今、な……なんて……?」


「だぁーーっっ! もう……こういうの慣れてねーんだよ……」

「……好きって言ったんだよ……悪いか!」


「うぁあぁぁあぁ……うぅうぅうゔゔぅうぅ……」


「わわっ、何泣いてんだよ……!」


「……ごめん……うぅう……嬉しくて……」


「……う、嬉しいならよかったよ……」


「……さくらも……さくらも……りゅうくんが……りゅうのすけくんが……大好きだから..........!!」


「……こんなに人に好きって言われて、心底嬉しいって思えたのは、人生で初めてかも知れん」


「……さくらも……」


 夜空に連発で咲く、火の花が彼らを見守っている最中りゅうのすけは、泣いているさくらの涙を優しく拭い取り、優しく抱擁を交わした。



 ◇



 りゅうのすけから、さくらを見つけた、という連絡を聞いて、くうどう達はりゅうのすけとさくらと河川敷で落ち合う。


 そこにみうと、ひろあきも居合わせたので、そのままみんなで一緒に花火を見ることになった。


「ひるあき、お前の花火、もう打ち上がったか?」


「いや、まだだよ。もうそろそろ。良いタイミングだよ」


「そっか、楽しみだな」


「うん!」


 そうして、ひろあきのデザインした花が空に浮かび上がる。

 浮かび上がった花火は、向日葵を描いていた。


 空に描かれた向日葵の花は、見事なまでに美しさを奏でている。

 向日葵の花言葉は、憧れ。ひろあきは一つの憧れがあった。それはりゅうのすけの存在だ。


 りゅうのすけが居るから自分が居る。口が悪くも、優しい、カッコいいりゅうのすけにいつもひるあきは憧れていた。


「おお、凄えな」


「……想像以上やったわ……」


 そんな秘めたる想いは、気恥ずかしくて言えやしない。気持ちが悪くて言えやしない。

 ただ、こうやって、みんなとまた一緒にこの夜空を見上げる事が出来ただけでも、ひろあきは幸せで、みんながその花火を見て喜んでいるだけで幸せだった。


 このまま、みんなと仲良く過ごせたらなぁ、とそう思いながら、ひろあきは花火と一緒みんなの姿を見ていた。





 少し離れた場所でも、花火の話で持ちきりで、綺麗だなんだのと大盛り上がりである。


「花火……綺麗……」


「……まや、お前の方が……綺麗やで……?」


「……ひな……そ、そんな事ないわよ……」


「俺にとっての、花火は……お前だけやで……?」


「きゃー!」


「ひなちゃん、イケメン」


 まきとゆうかが興奮気味に楽しんでいる。


「なーんつってな。ひなもいつかこんな事イケメンに言われたいわ」


「ほんまやなぁ……。ひなちゃんならいつか言われるかも知れんけど……でもみんなとこうして観れた花火もうちは好きやで」


「まや姐さん! そんなん、当たり前やんか! ひなも好きに決まってる」


「今度は全員集めて観に来てみる?」


「来年はそうしてみる?」


「……来年まで、続いてるとええなあ。この関係が……」


「大丈夫やろ! 最強メンバーの集まりやで? そう簡単に壊れへんて」


「そやね。またみんなで来よう」


 しんみりとした空気の中、空を見上げていると、聞き覚えのある声が聞こえて来る。

 声の主はあきせだった。


「おー、やっぱりまきちゃん達やったか」


「男達だけで寂しく花火大会終える前に美人達を見つけれてよかったな」


「……は? 美人? どこに? 誰が?」


「せいやくんキラーイ!」


「はーい、キラーイ!」


「るいくんも来てたんやな」


 ゆうかはせいやの隣に立つるいに話し掛ける。


「ヤクザの誘いは断れんでしょうよ」


「ヤクザはわろた」


「おいおい! るーい! 誰がヤクザや! コラ!」

「暇してんなら花火大会行こうやって誘っただけやろ!」


「名指しで言ってないのに反応する辺り、自覚してる?」 


「お前なぁ……」


「まあ、ヤクザは言い過ぎやって。な、ヤンキー」


「ひなちゃん! ヤンキーもちゃいますて!」


「ハハハハハ!!」


 盛大な笑いを花火に負けない程の大声で響かせて、今宵の思い出が新たに作られた。

 世界にひとつだけの思い出を。

 みんなそれぞれ違うメンバーで集まっているのに、少しだけ離れた距離で、みんな河川敷で空を見上げている。

 心が通じ合っている証拠なのかもしれない。




 さくらが空を見上げながら、「キレー」と呟いていると、隣に居たりゅうのすけが、さくらの顔を抑えて、キスを交わして来る。


「……!! ……りゅうくん……?!」


「夏の思い出が一つ出来たな」


「……もう……」


 他の皆は、空を見上げていたので、何が起こっていたのか、誰も気付いていない。

 そうして、しばらく花火を見続けていると、花火大会のメイン、花火は打ち上げ終わり、空はパッと暗くなった。

 周りに居た人々は、騒めきながら、帰宅路を辿る。


 さくらも、りくとかんなと手を繋ぎながら、帰路を辿った。


 かんなはりくと仲良くなった事でこのまま別れる事をぐずり出す。その様子を見たさくらの母が「今日泊まって行きなさいよ」と声を掛ける。


「そ、そんな! 悪いですよ……!」


「私も、かんなちゃん好きになっちゃったから、まだ帰らないで欲しい! ってなっちゃった! かんなちゃん、うちに今晩だけ泊まりに来てくれる?」


「え、いいの? いくー!」


「やったー! って事でくうどう君、決まりました!」


「…………」

(……この人には一生敵わん気がする……)


 かんなが急遽さくらの家に泊まる事となった。その事でくうどうも着いて行く事が決まりさくらの母に「急にすんません」と頭を下げる。


 そう言うさくらの母は笑顔で、「かんなちゃんもその方が嬉しいでしょ? もし、これから先かんなちゃんの事で困った事があったら、ウチに来なさい。力になるから」と答え、くうどうは、泣きながらお礼を言い、さくらの家へと、足を前への動かした。


「おい、ひろあき! みーちゃん! 俺らも一緒に泊まろうぜ」


「え、そんな急に!?」


「りゅうってば……ほんと、自由なんだからー」


「かんなちゃん、りくくん、一緒にゲームしようぜ!」


「かんな、げーむするー!」


「やるやる!! にーちゃんつよいの?」


「あぁ、最強だぞ?」


「すげ~!」


 その光景を見ながら、さくらは、クスリと笑いながら、さっきまで泣いていた事を忘れ去っている様子。


 大好きな人と一緒に花火を見た者。

 親しい友人と一緒に花火を見た者。

 愛する家族と一緒に花火を見た者。


 様々なシチュエーションで見た花火は、見る者全ての景色を変え、見た者全てに刺激を与える。

 今年の花火大会はもう終わり。


 でもまだ夏は終わらない。

 まだまだ、今年は終わらない。


アングレカム-Angraecum Leonis-

2025.12.25.完結

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