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  • 第1話への応援コメント

    まず、短い分量のなかでここまで重いテーマを詰め込んでいながら、ちゃんと一本の感情線として読ませる力に圧倒されました。鬱になった恋人を支え続けてきた語り手が、アンドロイド導入以降に抱くのは「制度的には正しい」「結果も良くなっている」ことへの違和感と、どうしようもない嫉妬。そのねじれた感情が、とても「日常倫理」的です。

    面白いのは、本作が「介護殺人」や「AIケア」の大上段ではなく、あくまで彼女の小さな選択と解釈の積み重ねとして描いているところです。
    ──男を支えるのが女の甲斐性だ
    という母からの圧力に押されて始まった献身は、最初は「優しい彼」「申し訳なさそうに礼を言う彼」を支える自己肯定の源だった。ところが、政府の治療プログラム=アンドロイド導入によって、その“甲斐性”がまるごと置き換えられてしまう。ここには「ケアを外注する政策は正しいのか」というマクロな倫理と、「それによって自分の居場所が奪われる」というミクロな倫理が、容赦なくぶつかっています。

    日常倫理企画の文脈で特に刺さるのは、「獣」というラベルの使い方です。タイトルにもなっている獣は、最初は「言葉が通じないようになった恋人」を指していますが、物語が進むにつれて意味がずれていきます。
    ──搾精器に腰を振るのは、獣しかいないのだ。
    と彼を切り捨てた瞬間、彼は「ルールの通用しない存在」「殺される前に殺すべき対象」として、倫理の外に追いやられてしまう。これは現実の「介護疲れの殺人」や、DV加害の言い訳にも通じる、「あいつはもう人間じゃない/話の通じない相手だから」という危険な思考の極端な形です。

    同時に、アンドロイドのほうは徹底的に“人間のふりをした役割装置”として描かれます。
    ──慈母のふりをする、ただの機械だった
    と結論づけるラストは、緑色に染められた体液を通じて「これは人間じゃないから壊してもいい」という逃げ道を用意している。制度側が「倫理的な線引き」として用意した区別が、そのまま彼女の暴力の免罪符になっているのが恐ろしくも巧いところです。

    中盤の「アンドロイドが子どもを産める」という仕様説明も、倫理的には非常に強烈です。彼女が長年抱えてきた「結婚に踏み切れない迷い」「子どもへの憧れ」は、痛みやリスクと結びついた“人間的な逡巡”です。それを、感情も痛みもない機械が代行できる世界は、「誰の負担を減らしているのか」「幸福の定義は誰が握っているのか」という日常倫理の根本を突いてきます。

    総じて、「テクノロジー」「介護」「ジェンダーロール」「嫉妬」といった重い要素を、ひとりの女性の非常に私的な倫理崩壊として描ききっています。
    何が“正しい”選択だったのか、誰がどこまで責任を負うのか──明確な答えは提示されませんが、「制度として正しくても、当事者の感情が置き去りにされると、こんな歪み方をする」という日常倫理の怖さを、鋭く浮かび上がらせた一篇だと思いました。

    作者からの返信

    ​コメントありがとうございます。

    拙作に対してここまで深く読み込んでいただき、とても嬉しいです。

    ​あくまで等身大の、自分と変わらない人間が、このシチュエーションに置かれた時にどう思い、どう選択していくのか。 

    それを積み重ねながら書いたことを読み取っていただいて、感激しました。

    ​素晴らしい批評をありがとうございます。
    今後の執筆の励みにします。