こわす、あがむ
晴れ時々雨
第1話
君のことが嫌いだ。
そんなことを言ってみたくなった。
彼のことだから、理由をたずねてくるだろうけれど、それは言わないほうがいいだろう。
一度は理由を考えたことがある。
いくつもあるそれは本心だが、掴みようによれば褒め言葉にもなり、羅列するほど誤解される恐れがある。
他のことでなら悪口にしかならないことでも、君という冠がつくと、そうはいかない。
だからといって、理由はないと言ってしまうのも嘘になる。嘘はつきたくない。
一例として、顔が嫌いだ。特に目が駄目だ。
喋りかたも嫌だ。
手以外にまだ唇しか触ったことがなく、体の他の部分を知らないにしても、どうせ似たりよったりに決まっている。
僕に対する態度も、何気ない仕草も、何気なくない仕草も嫌いだ。
君が僕の前で生きているだけで癪に障る。
誰かといる君ももちろん嫌だ。
人に言ってはいけない言葉だとわかっている。
でももう少ししたら我慢の限界がきて、吐き出してしまうだろう。
本能が混乱するんだ。
心臓及び皮膚がざわざわして、自分が情けなくなる。
泰然と構える姿を前に、僕は萎縮する。
下げた眉で君がみる僕に殺意が湧く。
もういっそ殺してほしい。
こうやって色々なものを壊してきた。
辛抱できなくなるのは時間の問題だったが、彼にはタイミングがむつかしい。
それも苛立つ。
特別の顔をするな。
なぜ彼なのか。
これほど考えることが無駄なことはない。
生理だ。
初めて見たときから虫酸が走った。
瞬時に悟った。
壊さなければならないものの頂点。
モースト デストロイエスト
英語なんてクソ喰らえだが自己史上しっくりくる。
自分の表情の乏しさに助けられた。
彼は気づいていない。
まだなにも。
だから日々、僕のモーストを更新し続けている。
必然的に限界が速度を上げて迫る。
試しに、彼を前にしたとき、口を「キ」の形にする。
だが彼は気づかない。
そうやって何度も間抜けな顔を晒させられ、肚が静かに煮えたぎった。
僕を変人だと思っているだろう。
異は唱えない。間違っていない。
僕は静かに狂想で膨らませた孕を隠し、処女を振る舞う。
ところが、あまりにも慣れすぎて簡単に力が入りやすくなった「キ」をとうとう発音してしまう失態を犯した。
すると彼は、揚げ足でも取るかのように罪を見逃さず、
「キがどうしたって?」
と鷹揚に僕の手をとった。そして反対の手で僕の頬に飛んだ、発声した際に噴射した唾をそっと拭った。
君の手も嫌いだ。
暖かくてさらさらした温度と質感に混乱する。彼が手を握ったまま眼前に立った。息がかかる。
そんな顔をするな。
「もしかして、キス?」
傾けた顔が僕に触れる。
滅却される。
僕はどうしようもない、生来の悪だから。
ふいに解脱した。
壊すまえに滅ぼすとは、君は神なのだな。
「なんて眩しいキをだすの、おまえ」
神がほざくから昇天しか道がない。
さすがに特異点らしい能力だ。
けど敬う必要はない。
僕の「キ」は、僕だけの「キ」だ。
こわす、あがむ 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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