Obliterator
んご
第1話 Genesis
この宇宙が産声を上げたその瞬間から
『それ』は、そこに在った。
固有の名はない。
ある者は神と呼び、
ある者は理と讃え、
またある者は概念と畏れた。
そのどれもが正しく、同時に全てが誤りだ。
ただひとつだけ、どの世界にも共通する理解がある。
『それ』は、自分たちより遥か高みにある『上位の存在』だと。
彼らの役割はただ一つ。
無数に枝分かれした世界の均衡を保つこと。
基本的には干渉しない。
どんな絶望も、どれほどの悲劇も、均衡が保たれる限りは。
彼らにとって世界の危機とは
人間が考えるような戦争や滅亡とは意味が違う。
均衡が崩れた時だけ。
その時だけ『それ』は動く。
◇
ヴェルグレイス。
豊潤すぎる魔力が溢れた世界。
光を灯すにも、剣を振るうにも、祈りを捧げるにも。
何をするにも魔力が絡みつく。
便利なはずであると同時に常に不安定だ。
魔力には、感情が影響する。
少し心が揺れただけで、力は簡単に暴走する。
そこに、エラーが生まれる。
魔王…世界を飲み込む無秩序の象徴。
この事象は、さすがに看過できなかった。
「それ」はヴェルグレイスへ手を伸ばす。
ただし、直接介入ではない。
彼らは滅多に表に姿を現さない。
世界の理を乱さぬため、彼らは常に『媒介』を用いる。
◇
現世、西暦およそ1000年。
戦乱が尽きない暗黒の時代。
そこで、ひとりの青年が静かに命を落とした。
名はシエル。
生真面目で、不器用で、そして誰より優しい。
だが、己の価値を信じられず、
ただ他者の役に立てればと兵士になった。
だが初陣、彼は敵を斬れなかった。
「……俺は、何のために生きてきたんだろう」
価値がない。
そう信じきってしまえば、心は折れる。
彼の命は、あっけなく尽きた。
◇
その魂に、『それ』は触れた。
巨大な意識が、彼の本質を見通す。
どんな英雄にもない純粋さ。
どんな聖人にもない自己犠牲。
脆弱で、儚くて、
それでも他者を救いたいと願った心。
これは、使える。
そう判断した。
魔力という異質な仕組みを抱えた世界は、数多ある世界の中でも稀だ。
だからこそ、魔力が魂に混じるという現象もまた、他の世界と比べ特別だった。
『上位存在』でさえ、魂を創ることはできない。
彼らにできるのは、力を与えることだけ。
新たな魂を必要とするなら、どこか別の世界から借りてくるしかない。
魔力の影響を受けていない、
真っ白で、何も混ざっていない安定した魂。
エラーを生まない、確かな器を求めるなら。
選ぶべきは、ヴェルグレイスの外側。
別の世界からの転生しかない。
それが、この世界が抱えた理屈であり、苦肉の策であり
唯一の希望だった。
青年シエルは異世界へ降り立つ。
神に選ばれた勇者として…。
後書き
第1話を読んでいただきありがとうございます。
この先の展開も楽しんでいただけると嬉しいです。
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