魔女の私が聖女のパーティーメンバーに告白されましたが、嘘告みたいなので開き直って束の間の恋人関係を楽しんでやります!
りんご飴サード
第一話 嘘告
勇者パーティー。
女だけの四人パーティーであり、神託により世界の命運を託された……とか何とか私にはそんなのどうでも良かった。
魔女とかいう勇者パーティーの一員としての箔をつけるためのそれっぽい称号を与えられた私は『その告白』にこれまでの冒険が霞むほどの衝撃を受けてしまったからだ。
「わたくしはアリスさんのことが好きです。どうかわたくしと付き合ってはくれませんか?」
聖女シルヴィーナ=ホワイトローズ。
勇者パーティーの一員であり、大陸でも屈指の大国の公爵令嬢であり、対象が死んでなければどんな傷も癒すと言われてるほどの治癒魔法の使い手。
直接戦闘ならば勇者ちゃんや剣帝の幼馴染みがどうとでもするし、治療は聖女様の独壇場。
私は器用貧乏というか、治癒魔法も含めていろんな魔法を使えるけど、広く浅くでしかなく、他の三人に比べて劣ってる自覚はある。
神託とやらで世界を救う勇者パーティーの一員になっちゃったけど、場違い感が半端ないと常に思ってるし。
それでも過酷な冒険に心が折れなかったのは聖女様の存在が大きかった。
初恋だった。
いつのまにか惚れていた。
女同士とか何とかそんなの全然まったく気にならなかった。
だから。
それなのに。
今のが嘘告だなんてあんまりだよおーっ!!
聖女様は好きだと言った。
付き合ってと確かにそう言った。
だけど私は知っている。今の告白が嘘であることを。
スキル未来予測。
未来に起きる事象を『知る』スキル。
魔法と違ってごく少数の人間にしか発現しない『力』だけど、このスキルは強制発動だから狙って予知できないし未来の光景ではなく文面として大雑把な未来しか『知る』ことはできない。
そんな使い勝手の悪いスキル未来予測は『今日、アリスは嘘の告白を聞く』という文面を示してた。いやまあ正確にはそんな文章が直感みたいに頭に浮かぶわけだけど。
大雑把でも何でも、スキル未来予測は絶対。
それは何度も検証して証明済み。
だから──聖女様の告白は嘘ということになる。
そっかそっか嘘告かぁーあの聖女様がそこらのクソガキみたいな幼稚な嫌がらせしてきたんだー。
私のことが嫌いなら、正直にそう言ってくれれば良かったのに。
──勇者パーティーの一員にして聖女に選ばれたシルヴィーナ=ホワイトローズ公爵令嬢は非の打ち所がない淑女として私みたいな平民でも知ってるくらい有名だった。
路地裏に捨ててあるボロボロの魔導書を読み漁ってた私とは歩く姿からして違った。
出会ったその瞬間に純白の長い髪にプラチナの瞳の麗しい彼女に憧れた。
路地裏で育って薄汚れた真っ黒な髪に瞳の私じゃ憧れに並ぶことはできなくても、せめて近くにいても聖女様を汚さないくらいにはなりたいとらしくもなく身だしなみに気を遣うようになった。
勇者パーティーとして聖女様と共に過ごす中で、色々なことがあった。
世界を救う冒険はまだ途中だけど、それでも色々なことがあった。
そんな冒険の中で、気がつけば私は聖女様のことが好きになっていた。
あんなにも素敵な聖女様を好きにならないわけがなかった。
まあ嘘告なんかされたってことは、聖女様には好かれるどころか嫌われてたみたいだけど、ね。
器用貧乏、人よりもちょっと多くの魔法が使えるだけの私は勇者パーティーのお荷物でしかない。そんな私がそばにいるだけでイラつかせてたのかもしれない。だからストレス発散のために嘘でおちょくってやろうと思ったのかもしれないけど、いいよもういいよ、それならそれで私にも考えがある!!
そうそうそうだよ。
嘘を暴いて聖女様の企みを台無しにする?
そうすればひとまずは聖女様に一矢報いることができるかもしれないけど、その先には何もない。
私は、今でもまだ、聖女様のことが好きだから。
初恋は最悪の形で踏み躙られた。
聖女様が嘘告だなんてことをするとは思わなかった。
それでも目の前の彼女を嫌いにはなれなかった。
これは嘘の告白。
聖女様の気持ちはこめられてない。
それでも受け入れば、もしかしたら。
少し泳がせてから嘘だとバラしたほうがおもしろいと思ってくれたら。
束の間ではあっても聖女様の恋人になれる。
嘘から目を逸らして受け入れれば、夢にまで見た聖女様の隣に立つことができるんだ。
「アリス、さん……。よろしければ、お返事をいただきたいのですけれど」
この期待と不安が混ざった瞳も。
恋する乙女のようなその全てはネタバラシの後に私を嘲笑うための嘘だとしても。
「聖女様」
嘘を受け入れたとして、わざわざ束の間とはいえ恋人として付き合ってくれるとは限らない。
そして、付き合ってくれたとしても。
最後には踏み躙られる。
それでもいい。
どうせ叶わない恋なら嘘が明かされる最後の瞬間まで開き直って楽しんでやる!!
「私も聖女様のことが好きだよ」
この恋人関係は、いつか必ず終わる。
「ほん、とう、ですか? よかった……ありがとうございます、アリスさんっ!!」
……終わる、よね?
なんだか反応が本気っぽいんだけど、いやまってそうだよ、聖女様は社交界で立ち回ってきた公爵令嬢でもあるじゃん。このくらいの演技はお手のものなんだって。
早速嘘に騙されそうになってるじゃん!!
ーーー☆ーーー
その日の夜。
そう、私が聖女様から告白されたその日のことよ。
野営だから周囲に魔獣除けの結界魔法を構築している私に同じパーティーメンバーにして鍛え上げられた肉体美で女を漁るのが趣味の剣帝の幼馴染みがこんなことを言ってきた。
「なあアリス。俺様な、実は男だったんだ」
「……………………、は? はぁーっ!? なっなんなになんなぁー!? そんなおっきなお胸を二つもくっつけておいて!?」
「そこは、ほら、あれだ、魔法でどうにでもなるじゃねえか的な?」
「なる、かな? いいや、ちょっとまって、身体強化の応用でそうだよ魔獣の中には身体が変化するのをいるしその辺を参照すれば確か既存の魔法の中にはそういうのはないけど強化の応用で自然な質感の胸をつくることだって簡単じゃんなんだいける全然余裕だよ基本さえ押さえておけば応用もできるこんなのちょっと考えればいけるでもだけどおっきなお胸だけじゃ性別は特定できないしいやでも裸を見たことがあるけどアレがなかったのは身体強化の応用だと増やすことはできても減らすことはできないしだったら幻覚みたいに五感を騙しちゃえばまあそんな魔法はないけど光の屈折で見え方を変えちゃえばいいそれくらいなら風属性魔法を応用すれば出来るだけどやっぱり違和感はあるだろうしそもそもこれじゃ視覚しか騙せない五感全部を騙すには幻聴や錯覚を誘発する方向性で不具合が出るくらい飛び抜けて強化すればいけるそうだよ人体は各部位が相互干渉してるしその辺りを組み合わせればうんうんやっぱり簡単だね!!!!」
「……、はぁ。普通に嘘だっつーの」
何なら実際に肉体そのものを変化させてアレをなくすのも強化の応用そうそうそうだよ強化する方向性を工夫すればいけそうだし……って、あれ? 今何か言ってた???
「大体何が簡単だ全然簡単じゃねえよ。バカと何とかは紙一重なのアリスを見ているとよおくわかるぞ」
「誰がバカよ誰が!?」
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