死者に敬意と救済を、生者に希望と祝福を
オークマン
第1話
彼は、世界をよくしたいと思っていた。
だが「よい世界」が何かは、最後まで言葉にしなかった。
誰かを救うたびに、別の誰かを傷つけている気がしたからだ。
救わなければ、もっと多くが壊れることも知っていた。
それでも彼は立ち止まらなかった。
希望と祝福が、生者に許されるものだと信じていたから。
もうひとりは、被害者と呼ばれていた。
望んだわけでも、選んだわけでもない名前だった。
彼女は救済を求めていたが、
それが希望なのか、逃げ道なのか、自分でもわかっていなかった。
ただ、このままでは壊れてしまうことだけは確かだった。
彼は手の届く距離に立ち、
背負える重さを測り、
覚悟を選んだ。
けれど彼女は、希望を受け取らなかった。
祝福も、正しさも、今の彼女には重すぎた。
それでも彼は退かなかった。
救うためではなく、逃げられる場所を残すために。
彼女がそこに留まるか、
振り返らず去るかは、彼の仕事ではない。
世界をよくしたいという願いと、
誰かを傷つけているかもしれないという恐れを、
彼はどちらも抱えたまま立っていた。
名前のないまま、
完成しない倫理を携えて。
生者に希望と祝福を。
そして――
それを受け取れない者にも、逃げ道としての救済を。
そのすべてが傲慢である可能性を、
彼は、彼女よりも先に知っていた。
死者に敬意と救済を、生者に希望と祝福を オークマン @Orc_chan
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