第2話 カとコとイしか合ってない!

 改めて、今日は教会でスキル確認の儀式とやらだ。


 今回ばかりは、父親であるコルモラン男爵も、村にひっそりと訪れていた。

 ひっそりなのは、コニーかーさんの件で、村から総スカンを食っているせいだ。


 かーさん、人気者だったんだよね。

 なので、俺を身籠った原因が男爵だと判明した瞬間から、反発が凄かったらしい。


 最初にそれを聞いたときには、田舎の村なのに男爵様にたてつくとかすげーな、と思っていたんだけど。


 どうも、このコルモラン男爵領自体が、ちょっと変わっている気配がする。


 この村の場所は、はっきり言えばド辺境だ。

 なにせ、国境とされている場所は村から半日も歩かない場所なうえに、その先に、国はもうないのだから。


 国はないのに国境はある。

 つまり、その先にも何者かは住んでいる。


 だけど、それはこの世界の人類とは相互理解自体が困難な存在だ。

 魔物、と総称されている。


 ただ、魔物という名称の響きイメージに反して、彼らは決して攻撃的ではない。


 この世界で『魔物』とは、単に人知の及ばない異能を持った生き物のうち、この世界を創った神様に現在属していないもの、という意味しかないんだ。


 これが神に所属する異能持ちだと、『御使い』または『神獣』と呼ばれる。

 前者はヒトに近い形態をもつもの、後者は動物スタイルだ。


 神様自体も、複数いらっしゃるからね。

 田舎の人間が知っている範囲でも、こまごまとした神様はさておき、『主神殿六神』の名は、子供のうちに教わる。


 村の教会は、そのうちの境界神フェントス様を祀っている。

 これは国境近い場所では、基本の神様だという。


 スキルを見ることができる神官さんは、主に領都以上の大きな街に教会がある、技芸神スティレジア様を祀る会派の人が殆どだ。


 なので、辺地ではお布施と、場所によっては交通費を出して、来てもらうように依頼しなくちゃならないってわけ。


「おはようございまーっす」

「おやおや、元気のいいお子さんですね。おはようございます」

 あいさつをしながら教会の小さな建物に入ったら、前世でも見たこともないような綺麗な、銀の髪を長く伸ばし背中に流した、紫の瞳の男性が立っていた。


 見たことない顔なうえに、神官職の紺色の服装ローブだから、きっとこの人が、スキル確認官様だろう。


「おはようございます、神官様。本日は息子を宜しくお願いいたします」

「カークライドともうします!きょうは!よろしくおねがいします!」

 かーさんのあいさつに続けて、七歳児らしく、元気よく言葉を続ける。

 中身は多少スレてはいるが、ダンスィ気質は前世からずっと所持してるからね!


 なお、教会では、本名で名乗る。

 これは教会の規則なので、守らねばならん。


 ちなみに姓がある人も、姓の方は名乗らなくていいらしい。

 神々の前では人の地位はあまり関係ないから、という建前だって。


「私はスキル確認官のシシェーリスです。では早速拝見させてくださいね?」

 ニッコリ笑ったシシェーリス確認官は、そう言うと俺の目を覗き込む。


 スキルって、目の奥にちらちら見えたりするんだってよ?

 そういう見るためのスキルのない人には、絶対見えないんだそうだけど。


 この儀式は、確認官と本人以外に、人が介入することは許されない。

 親は一応部屋には入れるし、公表するかしないかは本人の自由だけど。


 なので、おそらく朝イチで教会入りしていた男爵と、俺の後ろで無言でお辞儀してたっぽいかーさん以外の人はここには、いない。


「……これはこれは。

 〈囲い〉、だそうですよ。初めて拝見いたしますね」

 ややあって、俺から視線を外し、一歩引いたシシェーリス確認官は、そう述べて首を傾げた。


 は?〈囲い〉?


 俺は確かに、カッコイイ奴って!希望したのに!!


 カとコとイしか!!つまり音しか!!合ってない!!


 ……そういえば、この世界の言語、少なくともこの国では日本語だなあ?

 人名や神々の名や地名には全然日本語っぽい部分、ないのに。

 なんでだ?


 ……いやいや!そうじゃねえ!

 神だかその眷属だか知らないが、本気で難聴とか!!勘弁して!!


「かこい……?」

 思わず呟くけど、意味を持たない音の羅列では、何も起こらない。


「スキルというものは、発動させる意思がないと発動しない。そういうものだよ」

 そこで実父であるボーライド・コルモラン男爵が口を開く。

 その口調には、期待もないようだけど、失望も断じて、ない。


「有用なスキルかどうかは、育たないと判らないですからね……」

 理由はシシェーリス確認官の述べたとおりだ。


 あらゆるスキルは、最初はろくなことができない、それがこの世界の法則。


 便利な、立派な、有用なスキルを持つとされる人は、ほぼ皆、鍛錬の結果、スキルを育て切った人たちなんだよ。


「はつどう……えーっと、〈囲い〉」

 意思を込めて、スキルを想起し、発動するべく言葉を紡ぐ。

 そうすることで初めて、スキルは起動し、魔法的な効果を発揮する、のだそうだけど……


 床に、俺の手のひらサイズの灰色の丸い線が、一つ描かれた。


 ……子供の手のひらサイズなんて、ヒヨコかネズミくらいしか囲えない。


「ほほう、物理スキルですね。これは育つのが楽しみです」

 だけど、シシェーリス確認官は、ずいぶんとこの〈囲い〉を高く評価した。


「だが、年齢の割に発現サイズが小さいな……」

 こちらは少しだけ、不満げな男爵だ。


 まあ気持ちは判る。

 というより、俺もほぼ同感だからなぁ。


「ああ、コルモラン男爵家は大器晩成型の方が少ない、即戦力型でらっしゃいましたね。

 ですが、元々物理スキルの少ない家系でもいらっしゃいますから、まだ判りませんよ」

 そして、シシェーリス確認官は、男爵を窘めるかのように、そう述べた。


 成程?つまり、今日からこの謎スキルを練習するのが、俺の日課になるんだな?

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