私の愚痴が具現化して旦那を乗っ取った件

甘井 サト

第1話 邪気払い婆さん

「あんな旦那と結婚するんじゃなかった!」


「もっと素敵な人と結婚したかった!」


親しい友人にそう嘆いていたのは、辺見叶恵へんみかなえ、25歳の専業主婦だ。美容の専門学校を出ていたこともあり、自分では見た目には気をつけている方だという自負がある。


叶恵の夫の純也はサラリーマンとして普通に働いている。純也が28歳で出会った頃はそれなりに整っていた顔立ちも、年を重ねるにつれてすっかりおじさん化してきている。


毎日酒を飲んでは寝そべって動画を見ているのだから、そりゃあ、あのお腹になるのも当然だ。


勢いでバイト先で知り合った純也と結婚した。


結婚して5年経つが、彼の稼ぎは少ない。


そろそろ働きに出てくれと最近は毎日言われ続けている。


プロポーズの時に言っていた「俺がお前を一生、養ってやる!」という言葉など、もう彼の記憶にはないのだろうか?


私が働きに出たら家事は分担しようねと言うと適当にはぐらかす。


私に仕事をしたうえに、家事も全部しろっていうの?


そのやり取りだけで、もう何ヶ月も経っている。そろそろ我慢の限界だ。


「私はあんたの家政婦じゃないっての!」


思わず一人しかいない家の中で叫んでいた。


こんなこと考えていても、イライラするだけだし、そろそろ夕飯の買い物でも行くか。


面倒なので適当に化粧を済ませ、エコバッグを片手に玄関を出た。


いつものようにアパートの2階から下りると見慣れない小柄なおばあさんが佇んでいた。


具合でも悪いのか、ただ休憩しているだけなのか、判断がつかない。


こういう時はあまり関わらずに通り過ぎよう。


「あなた、お待ちなさい!」


もしかして、私?


スーパーに行く歩みを止め、周りを見渡すが誰もいない。


「あなたよ。そこでキョロキョロしている。」


「私ですか?」


「そうよ。そこのあなた。あなたから物凄い邪気を感じるわ!」


いきなり何を言っているのこのおばあさんは?


そうか。たぶん、どこかの施設から抜け出してきたのね。


「おばあさん、勝手にうろついたりしたらダメでしょ?どこから来たの?」


おばあさんは最近アパートの隣に建てられた豪邸を指さす。


「おばあさん、あの家の人なの?」


本当かな?ボケているのかしら?


もう、面倒くさい人に捕まっちゃったな。


「私なら、あなたの邪気を取り払ってあげられるわよ。」


「はいはい、おばあさん。あなたのお家、あそこなんだよね。一緒に行ってあげるから。」


「そうか、やっと邪気を取り払う気になったか!」


「そうね。邪気でも何でも取り払ってちょうだい。」


面倒くさいから適当に合わせて、適当に帰るしかないか…。


おばあさんを何とか立ち上がらせて、豪邸へと向かった。

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