原作の不運な主人公が弟になったのでハッピーエンドに導く

シーサル

転生

第1話 カリファとラミエス

「俺は兄、お前は弟。つまりお前は俺に勝てないんだよ!」


ある物語での主人公、カリファは兄に虐められた事で闇堕ちした。その作品は作中ずっとダークで、読み進めるのも難しく脱落していく読者達も多々いた。


そんな作品の読者の1人である俺は脱落者を多く見届けつつも、かっこたる意志で耐え抜いた。最後に迎えるであろうハッピーエンドを見届ける為に。

俺はずっと望んだ。この主人公が最高に報われるその瞬間を……


しかしその夢も今朝潰れた。

投稿された最終回。兄を復讐に成功したとはいえ、その後幸せな生活が描かれるわけでも無く、やるせない気持ちのまま終わりを迎えた。

仲間とようやく心を許してきて……と言う所だったのにも関わらずだ。


「くっそ……」


作者め……最後までいい瞬間を俺に見せたくないのかッ!


主人公がいい少年である事は承知の事。

終わっているのはこの物語のラスボスにして全ての元凶であるこの愚兄。

許すまじ。


「……元々1000ほどいた読者ももう俺1人か」


15歳の頃に読み始めてもう19になる。

4年間、毎日毎日読み続けた。


気持ちの悪い終わり方であったが……まぁ俺の人生で唯一の楽しみであった。

ありがとう作者……でも許さないよ作者。


「あぁー……IFルート書いてくれないかな」


俺は2度寝をした。


---


フワフワとした感覚。

それが少しの間続いた。


「ハッ……ハッ……」


意識の覚醒。


最初に見えたのは見知らぬの場所。

俺は大きなベットの上で寝ていたのだ。


「夢?」


その瞬間、ベットに書かれた紋章を目にする。

自身が読んでいた小説に出てくる紋章に酷似している。


「夢にまで出てくるのか……」


流石に熱中しすぎたと反省する。

夢ともなればすぐに覚めるだろう。


「折角ならちょいと楽しんでみるか」


起き上がり目の前にあった鏡に目を通す。


「……ハァ?」


そこにいたのは例のカリファの兄であるラミエスであった。


「なぜラミエス?夢を見るにしてもバジルは可笑しいだろ……」


最悪の夢だ。

今すぐにでも覚めたい。


「いや待てよ……」


年代はまだ12歳ほど。

年齢差を考えるとカリファが5歳の時。

まだ虐めは始まっていない。


「この夢の再現度が高かったらの話だけど……」


とにかく何にせよ希望が持てた。

カリファが5歳である時の押絵はなかった。俺の空想上だったとしても彼の姿を見て見たい!


一応身支度をしっかりと整えて部屋を出る。

そこは原作通りの道が広がっていた。


「ははぁ……やっぱり屋敷は凄いなぁ」


っと夢から覚める前にカリファに会いに行かなくては!!



グイッ


彼の部屋に出向こうとした瞬間、誰かに袖を引かれる。


「誰……」


そこにいたのは天使の様な少年であった。


「可愛いけど……誰だ?」


ここはテンタ家。

つまりはテンタ家かその従者でないと入る事はできない筈……


「坊ちゃんッッ!」


とその後を追って出てきた1人の老人。

その姿には見覚えがあった。


「ルキサス……」


原作においてカリファの専属の従者として着き、物語の途中で老衰死を迎える者。

それこそがルキサスである。彼だけは皆が見下す中、1人だけカリファを支えていた。


「という事はこの子が……」

「カリファ様!なぜ部屋から出て行ってしまわれるのですか!」


この子が5歳の時のカリファか!

まぁ夢の中だから空想だけれども……


よし、もう会えたから夢から覚めてもいいよ……

もうそろそろ覚める頃だよね?


なかなか覚める事はない。


「……」


流石に夢としては長すぎる。

自身の頬をつねる。痛い。つまり現実という事だ。

あまりにも性格な夢……まじで転生したやつですか?


「兄ちゃんがいる様な気がしたから」

「えぇ……ほらラミエス様の邪魔をしてはいけないですから帰りましょう」

「いや!」


ルキサスの促進も聞こうとしないカリファ。

小さな頃はここまでわがままであったのか。


「ルキサスさ……」


原作で悲しい別れを遂げた事からルキサスの事を、心の中でルキサスさんと呼んでいた。しかしこれが万が一現実であった時、これはあまりにも違和感が出る。


「ルキサス、大丈夫だ。丁度俺もカリファに会いに行こうとしていた所だったからな」

「ほらね、ルキサス!兄ちゃんも僕に会いたかったんだって!」


頭を悩ませるルキサス。

すまないな……だがとりあえず今はカリファと話して見たい。


「兄ちゃん、あのね!昨日の夜に流れ星を見たの!」

「へぇ!凄いね」

「それでね、ここの屋敷に流れ星が突っ込んできたの!」


流れ星が突っ込んできた??


「そうなの、それで少しの間兄ちゃんの部屋がピカーンってなったの!」

「俺の部屋が……ピカーン?」

「そう!光ったの!」


昨日の夜。

もしかしたらそれがラミエスになった頃合いかもしれない。

流れ星……どういう意味なのか。


「兄ちゃんは大丈夫だった?」

「うん、これ通り元気いっぱいさ」

「よかったぁ!」


俺の心配をしてくれるとは優しい子ダァ……

まじで原作のラミエスはなんで虐めていたのか意味不明だ。

許すまじ。


「ラミエス様」

「どうしたルキサス」

「最近はずっと魔法学を学ぶといって部屋に篭っていましたが、終わったのですか?」


魔法学?

ラミエスは大の魔法嫌いであった筈だ。

そんな原作ラミエスが過去に魔法学の勉強?


「あぁ終わった」


その場凌ぎで、とにかく答えておく。


「じゃあ兄ちゃんまたね!」

「あぁ」


多くの疑問を残しつつも、カリファとの出会いを終えた。

可愛かった……






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る