第16話 真価
ヴィオラの言葉を聞いて、咄嗟に息を控えめにする。
声も抑えてヴィオラの方を見ると、彼女は通路の先を指で示してゆっくりと歩いて行った。
僕もその後を静かについて行く。
やがて曲がり角を右の方に折れて、続けて見えた三叉の別れ道を、ヴィオラの先導に従って進んで行くと、その奥に岩の巨人がいるのが見えた。
ヴィオラの言った通り、本当に
「これが感知魔法の力か……」
あまり感知範囲は広くないと言っていたけれど、それなりに離れている
結構便利な力だな。
さて、こうしてヴィオラに見つけ出してもらったからには、ちゃんと討伐して核を持ち帰って来ないとね。
気を引き締めるために、岩陰に身を潜めながらぐっと拳を握り込んでいると、ヴィオラが今さらながらのことを小声で尋ねてきた。
「あ、あの、そういえばなんですけど、モニカさんはどうやって
「んっ?」
「だって、武器とか何もお持ちではないようなので。それにスキルの方も、確か【メニュー】しかないと言っていましたし、いったいどうするつもりなんですか?」
「どうするつもりって、それは……」
そういえばステータスメニューのことは話していなかったっけ?
まあそれなら、実際に見てもらってから説明した方が簡単か。
僕はぐっと拳を握り込むと、
「えっ、ちょ――!?」
何も説明せずに突撃し始めたため、ヴィオラは驚愕したように目を見開く。
そんな彼女の視線を背中に受けながら、僕は
それに気が付いた
「ゴゴッ!」
そこから大きな岩石を高速で飛ばして来た。
こちらからも素早く近づいていたため、僕と岩石は超高速で接近する。
その光景が衝撃的に映ったのだろう。後ろの方からヴィオラの小さな悲鳴が聞こえてきた。
「よっ!」
しかし僕は慌てず、地面を蹴って横に回避する。
恩恵を操作して敏捷値も上げているので、こうした回避行動もお手の物だ。
続け様に
握りしめた右拳を大きく振りかぶり、隙だらけの
「よい……しょ!」
バッッゴオオォォォォォン!!!
強烈な一撃が
粉々になった破片が後方に激しく飛び散っており、その中に拳大ほどの光るガラス玉のようなものを見つける。
選考試験の合格条件である
それを拾い上げた僕は、
「よしっ!」
「…………」
後ろを振り返ると、ヴィオラが三角帽子の下で唖然とした表情をしていた。
よもや僕がたった一撃で
そんな彼女のもとまで戻り、僕は遅まきながら先ほどの質問に対して返答することにした。
「まあ、こんな感じで倒すつもりだったんだけど……」
「ええぇぇぇぇぇ!?」
ヴィオラの驚愕した絶叫が、遅れたように遺跡内に響き渡る。
次いで彼女は、僕の顔と
「な、なな! 何をしたんですか今っ!?」
「何って、ただ全力で殴っただけだけど」
「な、なぐっ……?」
理解が追いついていない様子。
無理もない。
自分があれだけ魔法を叩き込んでも、傷一つ付けられなかった怪物を、弱点などを無視して素手で殴り倒してしまったのだから。
それを可能にしたメニュー画面の機能について、今さらながら話すことにする。
「メニュー画面にあるステータスメニューの機能で、恩恵を自由に割り振ることができるんだ。それで近接戦闘の能力を底上げしてるんだよ」
「お、恩恵を、自由に……」
説明が飲み込めていないヴィオラに、実際にメニュー画面の【ステータス】を開いて見せてみる。
こうすると恩恵の数値を自由に変更できるんだよ、と見せながら教えると、ヴィオラは数秒固まったのちに瞳を限界まで見開いた。
「とんっっっでもない力じゃないですか! 恩恵を自由に操作できるなんて、どうして今まで無名の冒険者だったんですか!?」
「こ、この機能が覚醒したのは、つい最近のことだからさ」
だから覚醒した力を示すために、今回の選考試験を受けることにしたのだ。
最初からこのステータスメニューの機能があれば、きっとSランクパーティーの勝利の旋律を追い出されることもなかったんじゃないかな。
我ながら遅咲きすぎる。
まあ何はともあれ、その力がちゃんと
「さっ、これでお互いに
「あっ、はい。そう……ですね」
ヴィオラはいまだに頭の整理ができていないようだったが……
お互いに
無事に
僕たちはノーツ地下遺跡を出て、カントリーの町まで戻って来た。
その時にはすでに、試験終了時刻の日没まで一時間を切っていた。
ギリギリで間に合ってよかったと思う。
ギルドにはすでに試験参加者の十数人が戻って来てはいたが、表情はなんだか浮かない。
どうやら
で、諦めてこうして開始地点に戻って来たと。
やっぱりみんな苦戦したんだな。
「これにて選考試験終了! 皆、全力を尽くして挑んでくれて感謝する」
黄金の鐘のリーダーであるチャイムさんがそう宣言し、選考試験は終了となった。
ここからが試験結果の発表である。
「では、
その指示に、周りの冒険者たちがきょろきょろと周りを見渡す。
どうやら核を持ち帰って来た人がいるのか気になっているみたいだ。
本当にあの
そんな中で提出に行くのはなんだか気まずいと思い、同じ気持ちを抱くヴィオラもしばしその場で固まってしまった。
その時、一人の青年冒険者がチャイムさんの前まで歩いて行き、手に持っていたガラス玉を突き出す。
「ほらよっ、試験官さん」
「貴様、これはなんだ……?」
「はっ? 何って、
瞬間、チャイムさんはガラス玉を持つ青年の手を掴み取る。
そのまま容赦なくグリッと捻り上げると、青年は低い呻き声を漏らしてガラス玉を取り落とした。
輝きがまったくない、光沢が失われたガラス玉を。
「私は
「うっ、くっ……!」
ヘルプさんの話によれば、
だから討伐直後の核であれば、あのような輝きのないガラス玉になるはずがないのだ。
つまり青年は、
「虚偽の申告をすればすぐにわかる。地下遺跡もこの私が終始監視していたからな、協力して討伐を行った者たちも揃って不合格だ。不要な手間をかけさせるなよ」
チャイムさんが語気を強めてそう言うと、周囲の冒険者たちは揃って息を飲んだ。
怖い……
そんな中で核の提出に行くのはものすごく躊躇われたが、僕は意を決してチャイムさんの前まで歩いて行った。
そして輝きを纏う
「あ、あの、これ……」
「うむ、ご苦労であったな。
無事に受け取ってもらえると、周りから微かに感嘆の声が上がった。
先ほど不正をしようとした冒険者がいた手前、本物の核が登場して驚愕している様子。
と、その時、僕は遅まきながら一つの疑問を解消した。
チャイムさんは千里眼スキルなる力で、ノーツ地下遺跡を終始監視していた。
ヘルプさんにそう聞いた時、なんでわざわざ『核を持ち帰って来い』と言ったのか実は疑問に思っていたのだ。
ずっと監視しているのなら、『
討伐しているところを見るだけでも、戦闘能力を確かめることはできるから。
だというのに核を持ち帰って来いと言ったのは、おそらく周囲の冒険者たちに証明をするためだろう。
実際、僕が
遅まきながらそのことに気が付いて頷いていると、次にヴィオラが
その他に動こうとする人はいない。
ていうことは、あとはヴィオラだけってことか。
どうやら今回の選考試験の合格者は、僕とヴィオラの二人だけらしい。
「お、お願いします」
「……」
ヴィオラが恐る恐る
これでヴィオラと一緒に黄金の鐘に入れる。
いきなりBランクパーティーに入れるだなんて思ってもみなかったし、試験で仲良くなった相手と一緒に冒険できるだなんてとても嬉しい。
人知れず密かやな笑みを浮かべていると、チャイムさんがヴィオラを見ながら結果を伝えた。
「…………不合格だ」
「えっ?」
その言葉を受けて、ヴィオラだけでなく僕も思わず声を漏らした。
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