第3話 システムレベル
一応、出入り口の手前で【セーブ】をしておく。
万が一、命が危険になったとしても、【ロード】さえ間に合えばすべてをなかったことにできるから。
まあ、不意打ちを受けて即死してしまったら、【ロード】する暇もないので意味ないけど。
ホルンたちと行動を共にしていた時も、僕だけは死なないようにと前に出過ぎないように心がけていたし、今後もそこは注意して討伐依頼に挑もう。
「あっ、そうだ」
戦闘の前に、改めて自分の『恩恵』を確かめておくことにする。
僕は【アイテム】の中から手鏡を取り出して、それを持ちながら唱えた。
「【恩恵を開示せよ】」
神様から授けてもらえる恩恵とスキルは、神様と親和性のある“鏡”に映し出して確認することができる。
やり方は簡単で、鏡に触れながら式句を唱えるだけだ。
そのため多くの冒険者は手鏡を自前で持っていたりする。
ちなみに濁りのない綺麗な水面でも同じことができるようだが、僕は試したことがない。
それはともあれ、僕は手鏡に映った恩恵を見て、改めてへこみそうになった。
◇アルモニカ・アニマート
筋力:C340
頑強:D280
敏捷:C310
魔力:D240
体力:C350
精神力:D250
幸運:C330
◇スキル
【メニュー】・メニュー画面を開いて操作が可能
恩恵とは、身体能力を向上させてくれる不思議な力である。
下界を見守る神様が与えてくれているもので、魔物を倒すことでその数値を上げることができる。
これも一説だが、魔物を倒したことを神様が称賛してくれて、恩恵の数値を上昇させてくれているのではないかと言われている。
そのため僕の恩恵は、ホルンたちと共に魔物討伐をしていたおかげで、最低限は育っている状態だ。
ただ正直、冒険者として見ると、平均よりも低い恩恵値だと思う。
スキルも【メニュー】一つだけで、戦闘系の能力を何一つ持っていないし。
便利な荷物持ちとしてならそれでもいいかもしれないが、戦力としてはやはり心許ないよなぁ。
だからこれから頼ってもらえるように強くなるんだ。
「グゲゲッ……!」
そう意気込みながら森を進んでいると、どこからか下品な鳴き声が聞こえてきた。
声のした方を振り返ると、そこには……
「……
緑色の肌をした、鼻の長い小人。
およそ人間とはかけ離れた容姿のそいつは、下品な笑い声を漏らしながら血の滲んだ棍棒を片手で弄んでいる。
今回の討伐依頼の対象である
危険度が低いとされる低級の魔物ではあるが、人間に憎悪を抱えている獰猛な獣ということに違いはない。
そのため僕は気を引き締めるように呼吸を整える。
一人で魔物討伐に挑むのは初めてだが、焦らず落ち着いて対処するようにしよう。
ゆっくりとナイフを構えると、それに呼応するかのようにして
「グガアッ!」
血塗られた棍棒を轟々と振りかぶり、僕の首元を狙って横に薙いでくる。
すかさず身を屈めると、凄まじい風圧が頭上を通り過ぎ、背筋にひやりと寒気が走った。
しかし臆さずに前に踏み込む。
「はあっ!」
右手で逆手持ちにしたナイフを振りながら、
奴の小太りした腹部に切り傷が付き、『プシュッ!』と鮮血が散った。
「グガアアァァァ!!!」
怒りに満ちた凶悪な表情。
傷が浅い。やはり僕の力では一撃で倒すことは難しいようだ。
思わず内心で毒吐くが、すぐに自分の非力さを自覚して気持ちを落ち着かせる。
再びナイフを構えると、憤怒した
「――っ!」
僕は鋭く息を吐きながら、
直後、攻撃の後で隙を晒している
鋭利な刃の先端が、小人の細い首元に吸い込まれるように迫っていく。
「グゲッ――!」
ザシュッ! と生々しい音と共に鈍い感触が手に走ると、
奴はそのまま力なく地面に崩れて、カランッと音を立てて棍棒も地に落ちた。
完全に動かなくなった
一撃では倒し切れなかったけれど、一人でも充分に倒せることはわかった。
「よしっ、この調子で……」
その後、スコア大森林の散策を続けた僕は、結果として二十体の
討伐の指定数は十体だけだったけど、意外に余裕があったので気合を入れて取り組んだ次第である。
「はぁぁ、疲れたぁぁ!」
見晴らしのいい広場で見つけた、手頃な切り株にドサッと腰掛けながら、僕はぐっと背中を伸ばす。
さすがに低級の魔物とはいえ、二十体も討伐するのはなかなかに骨が折れた。
一人でこんなに魔物を討伐したのは初めてである。
これで恩恵もかなり育ったのではないだろうか。
そう思って手鏡を取り出して、わくわくしながら恩恵を確かめてみると……
◇アルモニカ・アニマート
筋力:C350(+10)
頑強:D280
敏捷:C320(+10)
魔力:D250(+10)
体力:C350
精神力:D250
幸運:C330
◇スキル
【メニュー】・メニュー画面を開いて操作が可能
「…………嘘でしょ」
全然強くなってない。
筋力、敏捷、魔力がそれぞれ10ずつ上がっただけ。
やっぱり低級の魔物を倒すだけじゃ、恩恵は大して上がらないのかな。
それに戦闘によって成長する恩恵は、種類を選ぶことができないので、こうして使わない『魔力』が上がったりもする。
筋力や敏捷といった、戦闘能力に直結する恩恵ばかりが上がってくれたら、まだマシだったんだけど。
このままだったらまともな戦力になれるまで、いったい何十年かかるのだろうか。
「……ど、どうしよう」
予想よりも成長が乏しくて、思わず焦りを覚えてしまう。
もっと強い魔物と戦ってみようか?
いや、戦闘系のスキルがあるならそれもできたけど、生憎僕には【メニュー】のスキルしかない。
無茶をして強い魔物に挑んだら返り討ちに遭ってしまう。
かといってこのまま
せめて【メニュー】のスキルを戦闘に上手く生かせたら、もっと強い魔物とも戦えるんだけどなぁ。
僕は人差し指を立てて、何もない宙をなぞるように下から上に弾く。
すると目の前にガラス板のようなものが浮かび上がり、僕は改まった様子でそれを見た。
◇メニュー◇
【アイテム】
【セーブ】
【ロード】
うーん……
パッと見ただけでは戦闘に応用できそうな機能は備わっていない。
道具や荷物を仕舞える【アイテム】は、生き物や大きすぎるものを収容できないという制限がある。
だから大岩などを仕舞っておいて、何もない空間から突然それを取り出して攻撃するという方法なども取れないようになっているのだ。
そして【セーブ】と【ロード】も言わずもがな、時間を巻き戻すことができるというだけ。
このメニュー画面を戦闘に生かすのはさすがに難しいかな。
「はぁ、別の方法を考えるか……」
そう諦めた僕は、メニュー画面を閉じるために人差し指を構える。
それを上から下に弾くように動かそうとすると、少し手元が狂ってメニュー画面の上部にちょんと“触れて”しまった。
正確には、メニュー画面の上部に表示されている『◇メニュー◇』という文字列の部分に。
瞬間、水面に雨粒が落ちるような音が響く。
「えっ……」
メニュー画面が何らかの反応を示した時に鳴る、聞き慣れたあの音。
それが鳴り響くと同時に、目の前のメニュー画面に変化が現れ、表示されている画面が突然切り替わった。
◇メニュー詳細◇
システムレベル:1
フォント:タイプ1
ウィンドウカラー:タイプ1
サウンドエフェクト:50
「……」
まるで見覚えのない画面が、僕の目の前に現れた。
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