余が退職して一週間を経ても離職票は届かない。

退職事由が自己都合か会社都合かについての見解の相違があるので内部的な処理が遅れている、というよりも会社に許された十日を殊更に消化しているのかも知れない。

ハローワークで仮手続をする前日に、余が失業していた時期に家庭教師をしていたときのことを思い出した。

余が思うのは家庭教師派遣の会社で営業をする人々と、教務などの事務を執る人、そして家庭教師とでは、それぞれ文化が異なるということである。

何となれば余が家庭教師をしていたときには教材販売が主務で家庭教師派遣はその残務にすぎない会社も多かった。

営業職の人は理非云々よりも、とにかく成約しなければならない。「数字が人格である」などの精神論の罷り通る世界の人々なれば物事を帰納的に考える傾向が多いと思われる。

他方。教務や家庭教師などは所謂、学校文化の影響を受けている。同じ「できると前提する」のであっても方程式を解くように演繹的に考える傾向がある。

問題は教務の人々と家庭教師とでは利害と立場が違うことである。

即ち教務の人々は事務の都合で考えるので、家庭教師派遣において重要な地形、地勢などを無視することがある。

余が住む神戸市で言えば、北区と西区がその会社では郊外として同じカテゴリになっていた。北区から西区に電車で行くには、一度、湊川や新開地のような平原部を経由しなければならない。

また同じ北区でも鈴蘭台近辺と北部とでは別の都市圏である。後者には三田からの方が近い。

が、教務の人々は、効率よく、管轄範囲の全ての生徒に家庭教師を手配することが可能であるとの前提に従っている。北神には三田からの方が近いと行っても他の支店に客を譲る義理も権限も、教務にはない。

他方、余も失業して生活のために家庭教師をしているので、通勤時間を含めた実質時給が確保されることを前提している。

余も今よりは若かったので、勤労の権利と義務が、そのような近隣地域の生徒の存在を担保しているように誤解していた。

そのようなことで、その会社から紹介された生徒に教える機会はなく、関係が切れてしまった。

しかしながら。余が実際に生徒に教えた会社ではこれよりも奇怪な挿話がある。読者各位に信じていただけるかどうか？

しかし余は記憶に基づいて書くしかない。

打ち合わせのとき、余のような「センセイ」と呼ばれる者は丸椅子に座っていて。

営業の人は長椅子に座り、しかも女子事務員と肩を組んでいたのだ。

思えばそのようなことがその営業員の意思でできるわけもなく、誇示のための方針であったのだろう。

その会社の営業方針は会社が売った教材のみで家庭教師の授業を行うことであった。

余が打ち合わせのために呼び出されたのは生徒の成績が容易に上がらないと、顧客（父母）から苦情があったとのことだった。

その生徒は近年にいうLD、即ち学習障碍であったかも知れないが、余にそのようなことを考えるべき基礎知識も意思もなかった。法学部を出ても然るべき職がなかったから家庭教師になっただけの人でしかなかったのだ。

余自身の位置や知識がそのようなものであったに加えて、かなり古い記憶なので判然としないが。

余がその無礼な営業員に言ったのは、どんな教材を売っても、それが読めない生徒には辞書がなければ無意味である、教材を前提として家庭教師としての授業をするとしても、どこの家にでもあるような国語辞典程度を用意頂くのと、できれば家庭教師には準備のための教材や解答を支給頂きたい、などのことであったと思う。

営業員に女子事務員と肩を組ませていた会社にとって家庭教師の代わりはいても、辞書や教材の替えはなかったので、その会社との関係も切れた。

話は余の前職となった介護に戻る。余が介護職員となったのは、少子化とクーリングオフの拡大とによって、そのような教材販売の会社が没落したからであった。

いずれにせよ、余の次の職は教育や介護のような美辞麗句のはびこる、実際は廉価な労働の集約でしかない事業ではなく、もっと筋の通った事業を選ばなければならない。

その前提となるのが特定離職者の認定を受けて求職者としての位置を確立することである。

その認定を当局から受けることこそが、余が妄りに職を放棄したのではなく前勤務先が余を用いなかったのであることの公的証明であると。余と、この文の作成推敲を支援しているChatGPTは考えている。

（自頁に、ChatGPTが本頁を推敲したものを載せる。どちらが読みやすいだろうか？）