哲学的寓話 ― 試作冒頭

牛嶋和光

第1話 世界の始まりは「無」ではなく「点」であった。



終章 ん

主人公は平和の方程式の広場を後にし、静かな闇に包まれた。

そこにはもう線も面も空間もなく、ただ一つの響きが漂っていた。

「ん」――それは声ではなく、宇宙の底から響く振動だった。

終わりの音であり、始まりの音でもある。

問いを閉じる印であり、次なる問いを開く鍵でもあった。

響が囁く。

「ここまで来た者だけが、この音を聞く。『ん』は境界であり、すべてを結ぶ糸だ。」

陰が応える。

「お前の旅は終わったのではない。問いは続いている。『ん』はその証だ。」

主人公は静かに目を閉じた。

これまでの旅――点の沈黙、線の揺らぎ、面の影、空間の牢獄、時間の裂け目、意識の次元、そして平和の方程式――すべてが「ん」という音に収束していく。

そして彼は悟った。

次元とは答えではなく、問いそのもの。

問いを抱く限り、次元は生成され続ける。

闇の奥で「ん」が響き渡り、物語は静かに閉じた。

それは終わりではなく、次なる始まりの印だった。


しかしその点は、ただの無ではなく、無限に続く零の奥底に潜む「一」の芽を抱えていた。

「聞こえるか」

響が囁く。

「点には低い次元の一が眠っている。お前がそれを見つける者だ。」

主人公は目を閉じる。点は静止しているように見えるが、内側では震え、広がりを欲していた。



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