第14話 デート詳細(妄想)

【唯人君とデート……ふひひっ】


 友里香は気色の悪い笑い声まで飛び出してきて、完全に浮かれて切っていた。


【デートどこ行こうかなぁー! 無難に映画とか遊園地とかかなぁ? でもでも、遊園地のアトラクションで待ち時間が長いと、カップルが分かれやすいって聞くよね⁉ あぁ、どうしようー! 唯人君が私とどんなデートしたいのか分からないよぉー!】


 どんなデートプランにしようかと頭を悩ませる友里香。

 それだけ聞いていると、唯人のためにそこまで悩んでくれているという事実に胸が熱くなる。


【流石に、私の趣味で野球観戦に付き合わせるわけにもいかないし……】


(友里香、野球観戦が趣味なんだ。なんか意外かも)


 新たな友里香の一面を知り、唯人は感心してしまう。

 実は、唯人も野球観戦が好きだったりする。

 デートっぽくはないかもしれないが、お互いの趣味が合うならアリなのではないだろうか。


【多分、隣に唯人君がいること忘れて『何やってんだおめぇぇぇ!!』とか叫んじゃいそうだし……】


(えぇぇぇ……)


 友里香がまさかの野球ガチ勢であることが発覚して、唯人は驚きを隠せない。


(やっぱり、球場はハマスタ――)


【いきなり東京ドームへ誘うのはやめておいた方がいいね】


(ニャ、ニャイアンツファンだとぉぉぉ!?)


 悲報、応援している球団が違いました。

 これは、付き合う上で大きな足かせになるかもしれない。

 ニャイアンツ倒せ、絶対勝つぞハマホシーズ!


【となるとやっぱり、映画が一番無難かなぁ】


 友里香はそう結論付け、野球論争は一度停戦状態へと入る。


【一緒に恋愛映画を観に行くために駅で待ち合わせをして、映画館のあるショッピングモールへ向かう途中、『今日の服可愛いね。凄く友里香に似合ってるよ』って爽やかに言ってくれるの!】


 友里香は理想のデートを想像しながら、両手で頬杖を突き物思いに耽り始めた。


(おいおい、待て待て。デートのハードルが友里香の脳内でめちゃくちゃ上がって行くんだが!?)


 唯人が戦慄している間にも、友里香の妄想はさらにヒートアップしていく。


【映画のジャンルは恋愛もの。見ている途中、ずっと隣にいる唯人の事ばっかり意識しちゃうんだけど、向こうは全然意識してる素振りがなくて私がむっとするの。それで、映画がいい感じのシーンに差し掛かったところで、私が勇気を振り絞って肘置きにおかれてる手を握るか、肩口を頭を預けて寄り掛かったりして気を引くの。そしたら、唯人君も私を意識せざる負えなくなって、私にキュンキュンしてときめくこと間違いなしなの!】


(おいおいおい、待て待て待て。恋愛映画を友里香みたいな美少女と一緒に見てたら、意識しない方が無理に決まってるだろ!)


 映画上映中、意識しないふりをするという無理難題な要求まで加わり、唯人は胸がキュっと引き締まって苦しくなっていく。

 なおも、友里香も妄想デートプランは続いていく。


【それで、映画館を出るときに唯人がさりげなく手を取ってつないでくれるの。そのまま恥ずかしがりながらモールを歩いて、他愛のない感想を語り合いながらオシャレな感じのお店に連れて行って……くれなくていいや。唯人君が普段行く好きなお店に連れて行って欲しいな。男の子って言ったらやっぱりコッテリラーメンとかかな? おうち系とか三郎系とか、女の子が一人じゃ中々入れないようなお店に連れて行ってもらうの】


(恋愛映画観終わったあとにコッテリラーメンだと!? 胸やけ確定じゃないか!)


 友里香が隣にいるだけで緊張しているというのに、体内にコッテリラーメンなど注入したら、胃が完全にもたれてデートどころデロットエンド間違いなし。

 お互い終盤のデートスポットはトイレの個室になってしまうだろう。

 ラーメンによる胃もたれの恐怖を知らない友里香は、さらに妄想を膨らませていく。


【ラーメンを食べ終わったら、ゲームセンターでメダルゲームとかクレーンゲームで遊んだりしたいな。二人で協力プレイすれば、よりぎゅっと距離感が縮まるよね! 例えばほら、ゾンビを倒すシューティングゲームとか!】


(なぜにゾンビゲーム一択!?)


【私がやられそうになったところで援護射撃に入ってくれて、『大丈夫?』ってさりげなく助けてくれる唯人君……かっこいい♡】


(ヤバイ、シューティングゲームなんてやったことないよ。エイム力鍛えておかないと。てか、友里香の中で理想のデート像がどんどんと形成されて行ってるよ……!)


 デートのハードルが上がっただけではなく、これだけ楽しみにしてくれていると余計に断りづらくなってきてしまう。


【それで、ゲームセンターで遊びつくした後はオレンジ色に染まる夕焼け空の下、私を家まで送ってくれるの。まだ一緒にいたいな。帰りたくないなって思ってる中、突然唯人君がガシっと私の両肩を掴みながら真っすぐな瞳を向けてきて……。『好きだ。俺と付き合ってください』って告白されるの。私は『でも、まだ一回目のデートだし』って躊躇するんだけど、唯人君は真っすぐな瞳で『そんなの関係ない。俺は教室で友里香がデートに誘ってくれるずっと前から好きだったから』って、私にとって嬉しすぎる言葉を告げてくれるの。それに感動した私に動揺が走って視線を泳がせてると、唯人君が不安げに瞳を潤わせながら『ダメかな』って子犬のように尋ねてくるの。そんな可愛い唯人君にキュンってさせられちゃって、私は思わず『いいよ』って返事を返しちゃうの。そしたら唯人君はふっと表情を緩ませて、『ありがとう、これからよろしく』って言ってくるんだ。私も私で『はい、これから末永くよろしくお願いします』って口走っちゃうの。『えっ?』って唯人君は目を丸くして驚くんだけど、私もはっとなって顔を上げると、そのまま視線が交わって数秒間無言のまま見つめ合って、そのまま私たちは運命に引き寄せられるようにお互い顔を近づけていって初めてのキスを……】


(だぁぁぁぁ!? 解像度が細かすぎるだろ! というか俺、このままだとデート終わりに告白して友里香と付き合う算段になっちゃうんですけど!?)


 友里香のこと詳細すぎる告白イベントの妄想が垂れ流れてきて、タラタラ背中に冷や汗を搔いてしまう唯人。


【っていけないいけない……! 今授業中だってことすっかり忘れてワイマールドに入り込んでた。危うくみんなにキス顔を晒すところだったよ】


 口元を拭い、安堵の息を零す友里香。


【でも……キスする途中で気づいちゃったの。ラーメン食べた後だからニンニク臭いなって】


(あっ、まだ続くんだ……)


 意識が引き戻されたので終わりかと思いきや、再び妄想の世界へ浸り始める友里香。


【初めてのキスがニンニク臭くてナーバスな気分になっちゃうんだけど、そんな私を見て唯人君はふっと優しく微笑みながら言ってくれるの。『どんな君でも、俺はいつでもキスをしたいし愛したい』って。そんなの言われたら、私の身体はもう唯人君の虜。体中ボワっと熱くなって幸せに包まれていくの】


 友里香はブルブルっと身震いをして、自身の身体を抱きしめ至極の表情を浮かべる。

 突然の出来事に、後ろに座っていた生徒が何事かと驚きに満ちた視線を向けていた。


【はぁ……どうしよう、デート楽しみ過ぎる……!】


(ヤバイよこれ、完全に友里香の中でデート像出来上がっちゃってるよ……)


 果たして、期待に沿えるムーブが出来るだろうか。

 そんな不安に駆られていると、友里香がふぅっと肩の力を抜くように息を吐く。


【まっ、でもこんな妄想通りになるはずないんだけどね】


(よ、良かった……)


 どうやら友里香も、理想と現実は分けて考えてくれていたらしい。

 唯人がそれに対してほっと安堵の息を吐いていると――


【私はただ、唯人君と二人きりで隣にいれたらそれだけで幸せなんだから……】


 と、何とも健気でピュアな発言が飛び出した。

 先ほどまでの妄想とは違い、なんて純情な気持ちだろうか。


(うぐっ……)


 そのギャップにやられて、唯人は思わず呻き声を上げてしまう。


【唯人……やっぱり教室の真ん中でデートに誘われたって辛いよね。そうだよね? 大丈夫だよ。私がこっそり二人っきりで癒してあげられるようなデートプラン考えるからね】


 そんな唯人の反応を見て、色々と勘違いした瑠衣は母性たっぷりの表情でこちらを見据えていた。


 たらたらたらぁ……さらに背中の冷汗が激しくなって止まらない。

 このままだと、唯人は二人とデートをする羽目になってしまう。


 流石に付き合う気もないのに二人とデートをするなんて不誠実極まりないので、どちらか一方に決めなくてはならない。

 だが、二人のどちらか一方を断るという事は、どちらかが悲しむことになるという事。


 唯人はその彼女たちの悲しみを受け止めきれるだろうか。

 その答えはもう、決まっているようなものだった。

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