第9話 美少女の心理(目的?)が全く読めないのだが

「何だ?この美少女は?」


俺は、美少女鈴木裕美の心理(俺のような地味な男と一緒に歩く目的)が、全く読めない。

「俺と話をしたところで、退屈するだけなのに」

「俺には美少女を喜ばせるようなネタは、全くない」

「そもそも、住んでいる世界が違う」


その美少女鈴木裕美が、エレベーターの前で立ち止まった。

さっきの女性三人を前にした時よりは、やさしい顔になっている。

(何かトラブルでもあるのかと思った)

(女性コーラスグループのメンバーとは察した)

(でも、俺が口出すことでもない、俺には関係ないことだから)


「14階にお話できるスペースがありますので」(にこにこと・・・拒めない)

「あ・・・はい」

(あることは知っている、でも、俺には、お洒落過ぎる、似合わん)


14階に着いてしまった。

珈琲と紅茶を買って、対面した。(おい!マジなの?何故俺と?)


鈴木裕美が(どういうわけか)頭を下げた。

「さきほどは、ごめんなさい」(え?何のこと?)

「メンバーが変なことを言いまして」(あまり、聞いていなかった)


「いえ、お気になさらず」(そもそも、何も気にしていない)


「ありがとうございます」(じっと見つめないで欲しい、心臓が苦しい)


「三時からは、講義ですか?」(探るような目の意味が、わからん)


「枝野先生の近代日本文学・・・今日は啄木かな」

(同じ文学部、これくらいは情報開示してもかまわない)


「え・・・あ・・・」(鈴木裕美の顏が、ますます輝いた)


「何か?」(マジに心臓が痛い)


「同じですよ!田中さん!」

(そこまで、何で喜ぶ?)

(そもそも、何の理由があって、この美少女は俺と話をするのか?)


(俺は、原点に戻ることにした)

「ところで鈴木さん、お話、というのは?」

(そもそも、鈴木裕美の「三時までは、お話できますよね」から、こんな緊張極まりない事態となったのである)


「田中さん」(そのマジな顏が、俺の心臓を破壊する)


「え?」

(俺の反応は、こんなもの)


「あのね、一緒にいたいなあと」

(いきなり、顏を赤くしている、演技か?)


「ありがとうございます」

(言って情けない、これで文学部とは)

(その、一緒にいたい理由が、わからないのに)


「あの、お住まいは?」

(また、そのマジな顏は、困る)

(何故、聞くの?)

(でも、聞き返せない、押されているから)


「調布です」(駅名程度だ、問題なし)


「駅も同じです」

(美少女の顔が、薔薇のように、染まった)

「ご縁がありますね」

(マジにうれしそうな顏だ)


「はぁ・・・」

(練習後と本番後のお付き合いは、それでも「無し」を貫くべきと思うが)


「講義が終わったら、一緒に帰りましょう」

(そのドンと落ち着いた顏は何?)

(また拘束が続くの?)(俺の自由はどこに?)

(そこで俺の指を、またしても、もてあそんでいるし)

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