ふさぐのは唇だけ

木場篤彦

第1話カラオケの途中でキス

「岸谷〜一緒に帰ろ〜!」

 一年の教室の廊下側の空いた窓から、唯一話せる後輩を呼んだ私だった。

 岸谷以外の一年の生徒がこちらに注目してくる。

 数秒後に各々がしていた行動の続きを再開する。

 呼ばれた岸谷が顔に汗をかいて駆け寄ってくる。

「田中先輩……一年の教室に来ないでほしいっていうか、そのぉ〜——」

「やましい関係じゃあるまいし、びくびくすることないって〜」

 私は彼女の丸まった背中をばしばしと叩きながら返答した。

「あぅぅっ……」

「あっごめんごめん!痛かった?」

「痛くないといえば嘘になりますけど……喫茶店とか行きます?」

「喫茶店かぁ〜カラオケはどうよ?」

「カラオケですか……上手くないですよ?」

「上手い下手は関係ないよ〜!!私も上手くない方だし〜」

 私は岸谷とカラオケ店に向かった。

「田中先輩、一発目歌いますか?」

「もう茉由で良いから〜!!それに美咲が最初に歌っちゃって〜フゥ〜!!」

「今日はやけにテンション変じゃないですか茉由さん?私が先ぃ……」

 岸谷がタブレットで曲名かアーティスト名を入力している内に、私は彼女の隣に座り、太腿にそっと片手を載せた。

「ひゃぁうぅっ……なっなんですか茉由さん?」

「なんでも〜日頃の不満なんかをばばぁっと出すみたいに熱唱熱唱!!」

「隙あらばすぐ触る〜茉由ぅっ!!」

「そんなことないって〜!!」

 歌い疲れた私と岸谷はポテトやピザを摘んで口に運んでいく。

「美味しい!!財布が寂しくなるけど……」

「美味しい。今日くらいは気にしない気にしない!!」

 所持金を気にする岸谷に、私は彼女の頬にキスをした。

「はぁうぅっ!?茉由なにしてんの?」

「キスしたの。キスくらい良いじゃん」

 岸谷はキスされた頬を片手で触れて、聞いてきた。

「キスくらいってそんっ——」

 岸谷が立ち上がれないように向かい合う体勢で彼女の太腿に乗り、声を荒げそうな口を自身の口で塞ぐ私だった。

 彼女の頭が壁にぶつかり、彼女は抵抗出来ずにキスを受け入れた岸谷。

 私は自身の唾液を彼女に流し込ませる。

 3分程キスをしていた。

 解放された岸谷は呼吸を乱しながら、抗議をしてきた。

 岸谷とのキスだけで、その日は終わった。

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