無自覚のままに最強の領地を~創造卿の異世界クラフト暮らし~
しば犬部隊
第1話 伯爵家を追放される
「スキル無し――ソルロンド伯爵家の十男、アラン・フォン・ソルロンド様にスキルは発現していません」
エルフの神官が告げる冷たい一言。
俺はアラン・フォン・ソルロンド。
帝国きっての大貴族、ソルロンド伯爵家の十男だ。
そして前世の記憶を持つ――いわゆる転生者でもある。
帝国では、貴族は20歳の元服を迎えると神から超常の力『スキル』を与えられる。
このスキルは剣技や魔術を超えた人類最強の力。貴族はこれを以て民衆を導くのだが……。
転生者である俺は、この世界の神から嫌われているらしい。
【ンン!! 拙者の言った通りでしょう? クソ女神は絶対に貴殿にスキルを与えない、と!!】
頭の中に響くキャラの濃い女の声。
転生者である事を思い出した5歳の頃からこいつの声が聞こえるようになった。
俺はこれを邪神と呼んでいる。
【ンン、邪神とはこれまた手厳しいですなあ】
「神は彼にスキルを与えない判断を致しました。その理由は――彼は悪魔に魅入られている……と」
悪魔ってお前の事じゃないか?
【ドゥフ】
後ろで見守っていた家族――特に父親は大混乱だ。
「し、神官殿! どういう事だ!? アランは悪魔憑きだというのか!?」
「残念ながら……由緒あるソルロンドから悪魔憑きが出るなんて、教会としても残念です」
神官は残念そうにお祈りのポーズ。
それを聞いた父親――ソルロンド伯爵は青い顔をして天を仰ぐ。
しかし、数秒後には氷のような表情を浮かべていた。
「長男のウェールズは『剣聖』、長女のジャンヌは『聖女』。その他の兄弟姉妹も全て、一級以上の優秀なスキルを神に与えられているというのに……」
彼が俺に向ける表情は、子が親に向けるものではなかった。
「父上、俺は――」
「黙れ――悪魔憑き」
もう名前で呼ぶ気もないらしい。
「貴様は俺の子ではない。俺の血を受け継いでいながら、無能よりも最悪な穢れた存在だったとは。やはり、平民に産ませたのが間違いだったか」
吐き捨てるように言葉をぶつける父。
「伯爵家から悪魔憑きを出すとは……育てた恩をこのような仇で返されるとは思わなんだ……」
俺の足元に父が銀のナイフを放ってきた。
「悪魔憑き、何が言いたいか、わかるな?」
この場で自害しろ、との事だろう。
周囲の兄弟、姉妹はにやにやと薄ら嗤いを浮かべている。
俺は家族に嫌われている。兄弟達に食事へ毒を盛られた回数は計り知れない。
母親も髪の色も目の色も、何もかも違うからだろう。
「ちょい待ちや。父上、アンタ、今、とんでもない事言うとるで」
「そ、そうですわ! 父様、それはあまりにも酷です!!」
あれ?
意外にも父親に反発してくれた人がいた。
女を殴ってそうな金髪イケメンと、縦ロールの金髪美少女。
長男のウェールズ兄と長女のジャンヌ姉だ。
この2人は他の兄弟姉妹みたいに直接俺に嫌がらせや毒殺をしないものの、それでも、あまり好かれていないはずだ。
「何が言いたい、ウェールズ、ジャンヌ」
「それはおかしいやろって言ってるんニュアンスで分かれや。確かに、アラン君にはスキルが発現せんかったかもしれん。でもな、よお考えてくれ。それでアラン君のこれまでの功績がナシになってはい、自害。はあ? ありえへん、アンタ、人の心ないんか?」
「そうですわ! アランには、ウェールズ兄様もわたくしも、そして他の兄弟姉妹達も幼い頃から何度も命を助けられてきました!」
「アラン君はなあ、小さい頃から大人も知らんよお知識を知ってたり、剣術や槍術、弓だって誰よりも巧い! この子は神童や、領民や臣下からの信頼も厚い! 父上、実績を評価するんが正しいやろ!」
必死に俺を庇う兄と姉。
20歳になるまでに、俺は何度か皆の命を救っている。
まさか、この2人がそこまで俺の事を評価してくれているなんて知らなかった。
この2人話しかけても、うん、とか、ああ、とか、ですわとか、しか返事なかったし……。
「それに先日、領内に現れた厄介な
ウェールズ兄は、自分の立場が悪くなる事を理解して俺を庇ってくれている。
対して――他の兄弟は――。
「待てよ! ウェールズ兄! 何を言ってるんだ!」
「どうしてこんな奴を庇うのですか!! 兄様らしくない!」
「俺はこんな奴に命を救われたとは思っていないZE!!」
「そもそもアランに助けてなど言った覚えはないよ」
「山賊も自分達だけで討伐できたしな!」
「領民や臣下に媚びる貴族の恥知らずじゃないか!」
「そこの悪魔憑きが勝手にしゃしゃり出てきただけだ!」
「それにあの山賊は捕虜である我らにも親切だったぞ!」
「命乞いをする山賊を容赦なく殺したんだ! やはり悪魔憑きだ!」
「貴族の慈悲もない、血も涙もない悪魔だぞ、そいつは!!」
他の兄弟姉妹の声に、俺は唖然とする。
あほか、こいつら。
「捕虜になったお前らが、山賊にほだされてんだよ、ド無能が」
つい、悪口が口に出てしまった。
「! 今、なんと言った悪魔憑き!」
捕虜になっていた無能兄弟の1人が叫ぶ。
こいつら、本気でわかってないのか。
「……そもそも山賊がお前らに出した食事は全部、うちの領民から奪ったもんだろうが。脳みそがネズミサイズほどあれば思いつく事だ。それを優しくされただの、親切だっただの……本気で言ってるなら、よほど教育が悪かったんだろうな」
「!!! 貴様、俺を愚弄するか! 悪魔憑き!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ無能兄弟達。あー、めんどくさ。
あの山賊を生かしてみろ、調子に乗って領内の村や農民への略奪を始めるだろうが。
貴族の誇りや慈悲とやらで割りを食うのはいつだって弱い立場の者だ。
奴らの文句はどんどんは過熱していき――。
「もうよい。見ろ、悪魔憑きたる貴様のせいで我が伯爵家に不和が生まれている」
父上――いや、伯爵の冷めた言葉に皆が黙った。
「我が国はエルフィリア神国との友好の為、一刻も早く“権能保有者”を生み出さなければならん状態にある。そんな国勢の中で、無能力のゴミを伯爵家に置いておける訳がないのだ」
帝国はスキルを超えた能力――“権能“を探し求めている。
「世界に3人しかいない権能保有者、その内の1人である皇帝陛下が作り上げたのが我が国だ! 無能で有害な悪魔憑きの存在は陛下のご威光を穢すものでもあるのだ!!」
能力至上主義国家の貴族がスキル無しは、外聞が悪いのだろう。
「もう話すことはない。アラン、貴様の沙汰は明日伝える」
「おい、待てって! 父上! まだ話は――ジャンヌちゃん、このままやとあのアホ伯爵、ほんまにやらかしてしまう!」
「アラン、安心して。貴方は絶対に、わたくし達が守って見せます!」
父に追いすがるウェールズ兄、ジャンヌ姉は俺を抱きしめそれからウェールズ兄と共に伯爵を追う。
……姉上に抱きしめられるのは、初めてなので本当に驚いた。
他の兄弟姉妹は満足そうに俺を見てニヤニヤしながら。
「ざまあみろ、穢れた存在め」「ウェールズ兄とジャンヌ姉に最後まで媚びやがって」「さっさと死ね、悪魔憑き」「老け顔の醜男め」
最悪の空気の中、選別の儀は終了した。
◇◇◇◇
翌日。
「悪魔憑き。アラン。貴様に探索騎士としての称号を与え――“ユグドラシル無限森林”の開拓事業を命ずる」
父であった男、エドワード・フォン・ソルロンドは宮殿で高らかに宣言した。
~あとがき~
はじめまして、こんにちは。しば犬部隊と申します。
本日からカクヨムネクストでこちらの作品を独占連載させて頂きます。
本作は、毎日朝7時に更新予定です。皆様の通勤、通学、朝の時間のお供になれるような作品を目指してまいります。
是非時間潰しにお使い頂ければ幸いです。
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