勇者パーティを追放された俺、レベルが上がるほど弱くなる『最弱の神』と契約して最強に至る。~自分に「即死毒」をかけて「毎秒全回復」、「鈍足」かけたら「音速」になった件~

神野あさぎ

第1話:『役立たず』と追放されたので、自分に『即死の猛毒』をかけたら『毎秒全回復』になった件

「アルク、お前をこのパーティから追放する」


 その言葉は、唐突な死刑宣告のように響いた。

 場所は王都の酒場。ダンジョン攻略後の祝勝会、その最中の出来事だった。

 ジョッキを置いて、俺は静かに問い返す。


「……理由は?」

「悪いなアルク。正直、お前の支援魔法……『地味』なんだよ。俺たちの攻撃力が上がってる実感、全然ないし」


 勇者ブレイドは、悪びれもせず鼻で笑った。

 支援術師サポーターは不要。俺たちの実力だけで十分やっていける。そう断言したのだ。


「回復はどうするんだ?前衛の負担を減らすには俺の継続回復リジェネが必要だろ」

「それなら心配ない。これからは『聖女』のリリィが入るからな」


 ブレイドが指差した先には、きらびやかな法衣をまとった少女が座っていた。


「彼女の魔法は派手で、見てるだけで士気が上がるんだ。お前のショボい魔法とは格が違うんだよ」

「お前さぁ、後ろで棒立ちしてるだけで経験値入るの、申し訳ないと思わねーの?」


 武闘家の男が追撃してくる。


「俺たちが命張ってる間に『MP管理』? 笑わせるなよ」

「ごめんなさいねぇ。でも、回復も遅いし、防御バフも薄いし……ぶっちゃけ、あなたがいない方が敵の動きが読みやすいのよね」


 魔法使いの女もクスクスと笑う。

 ……こいつらは、何も分かっていない。

 敵の攻撃が当たらないのも、魔法が必中するのも、すべて俺が『敵の認識阻害』や『幸運値調整』を秒単位で行っていたからだということに。


(……やっぱり、こうなるか)


 湧き上がってきたのは、怒りよりも諦めだった。

 俺の職人芸のような支援は、派手さを求める彼らには理解されなかったのだ。


「お前への餞別だ。『毒消し草』やるよ。お似合いだろ?弱いお前にはさ(笑)」


 投げつけられたのは、道端の雑草と変わらない安物のアイテム。

 装備を没収され、渡されたのは粗末な服とわずかな金、そして保存食一つだけ。

 俺は着の身着のまま、雨の降り出した街へと放り出された。


 ◇


 街外れの廃道。

 冷たい雨が、容赦なく俺の体を打ち付けていた。


 雨宿りのために駆け込んだのは、ボロボロの小さなほこらだった。

 誰にも祀られなくなったその場所に――薄汚れた幼女が倒れていた。


 ぐぅ~……。


 切ない音が、雨音に混じって響く。


「……これ、食うか?」


 俺は懐から、唯一の手持ちである「保存食」を取り出した。


「……よいのか? これは貴様の最後の一食ではないのか?」


 幼女は金色の瞳をわずかに開け、俺を見た。


「いいさ。どうせ俺は役立たずだから、食っても無駄だしな」

「……」


 自虐する俺に、幼女は固いパンをかじりながらポツリと言った。


「我もだ」


 彼女の名はクルリ。

 その正体は、かつて世界を統べた『逆転』の神だという。

 だが、信仰が集まりすぎて「レベルがカンスト」してしまい、自身の権能である『逆転』の呪いで、ステータスが「1」になったポンコツ神らしい。


「皮肉なもんだな。俺たちは似た者同士――」


 言いかけた、その時だった。

 ズドォォォォン!!

 地面を揺らす轟音と共に、祠の壁が弾け飛んだ。


「グルァァァァァッ!!」


 現れたのは、凶悪な爪を持つ赤目の巨獣――高レベルモンスター「魔熊マッドベア」。

 勇者パーティが討ち漏らした手負いの個体だ。


(逃げないと……!)


 本能が警鐘を鳴らす。だが、足元のクルリは衰弱して動けない。

 俺は震える足を踏ん張り、彼女の前に立った。


(支援職の俺じゃ勝てない。一撃食らえば即死だ)


 それでも、自分と同じ「無能」の烙印を押された彼女を見捨てることはできなかった。


「ほう……。我を守るか、人間」

「勘違いするな! 足が竦んだだけだ!」

「フン、素直ではないな。……だが、気に入った!」


 クルリがニヤリと笑い、小さな手を俺へ突き出す。


「我と契約せよ! 我の権能『逆転』を貴様に貸し与える! マイナスをプラスに変えるのだ!」

「逆転……!?」

「貴様の得意な『支援魔法』を、自分自身にかけるのじゃ! それも、最悪のやつをな!」


 俺は迷わずその手を取った。

 瞬間、魂が直結する感覚が走る。


『契約完了:権能【逆転】が付与されました』


 頭の中にシステムメッセージが響く。

 俺は叫んだ。自分自身に向けて、本来なら絶対にやってはいけない禁忌の魔法を。


「自分自身に付与エンチャント!! 『鈍足スロウ』ッ!! 『猛毒ポイズン』ッ!!」


 ドクンッ!!

 心臓が早鐘を打ち、視界が歪む――はずだった。


 ピロン♪

『通告:権能【逆転】発動』

『状態異常:猛毒 → 反転 → 【超・神癒再生ゴッド・リジェネ】』

『状態異常:鈍足 → 反転 → 【神速ゴッド・アクセル】』


 全身から力が溢れ出す。

 毒によるダメージは「毎秒全回復」へ。

 足枷となる重力は「音速の翼」へ。


 魔熊が爪を振り下ろす。

 だが、その動きは止まっているかのように遅かった。


「見え……る!」


 俺が軽く足を踏み出した瞬間、衝撃波ソニックブームが祠を揺らした。

 ただの「素振り」程度の拳が、神速の運動エネルギーを乗せて魔熊の腹に突き刺さる。


 ドォォォォォォンッ!!


 一撃。

 魔熊の上半身が消し飛び、粒子となって霧散した。


「え……?」


 自分の拳を見つめ、俺は呆然とした。

 その後ろで、クルリが「んふーっ」と鼻を鳴らしてドヤ顔を決めていた。


「見たか!これぞ負け組同士の最強コンビ誕生じゃ!」

「すごい……これなら、いけるかもしれない!」


 最弱の支援術師と、最弱の神。

 世界の常識をひっくり返す「逆転無双」は、ここから始まるのだ。


 ――一方その頃。

 俺を追放した勇者パーティは、草原でスライム程度の雑魚敵に囲まれていた。


「おい、どうなってんだ!?」


 勇者ブレイドが焦りの声を上げる。

 いつものように剣を振るう。だが、剣先はスライムの核を掠りもしない。

 逆に、スライムの体当たりを武闘家がまともに食らい、吹き飛ばされた。


「ぐあっ!? な、なんで避けられないんだ!?」

「回復! 早く回復を!」

「ま、待って、詠唱が間に合わないわよ!」


 攻撃が当たらない。

 敵の攻撃をかわせない。

 今まで「俺たちの実力」だと思っていたものが、音を立てて崩れていく。


 そして。

 魔法使いの女が、真っ青な顔で叫んだ。


「嘘……これ、雑魚敵じゃないわ……!勇者、後ろを見て!!」

「あぁ!? なんだよ煩ぇな――」


 ブレイドが振り返った先。

 そこには、かつて俺が「接敵しないよう誘導していた」エリアボス――『死神カマキリ』が、音もなく鎌を振り上げていた。


「――は?」


 その鎌が振り下ろされるまで、あと0.1秒。

 彼らを守るバフは、もうどこにも存在しない。

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勇者パーティを追放された俺、レベルが上がるほど弱くなる『最弱の神』と契約して最強に至る。~自分に「即死毒」をかけて「毎秒全回復」、「鈍足」かけたら「音速」になった件~ 神野あさぎ @kamino_asagi

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