賽（さい）の河原の　　鬼が泣く

ﾍﾞﾍﾞﾝ　ﾍﾞﾝｯ（三味線

その鬼語るは　現世の

耳目に耐えぬ　その仕打ち

己が悪事も　棚に上げ

悪鬼羅刹の　目に涙　

ﾍﾞﾍﾞﾍﾞﾝ　ﾍﾞﾝ（三味線

　ｰｰｰｰｰ　賽の河原　ｰｰｰｰｰ

　ここは、親より先に旅立った

　子供の魂が　石を積む河原

　積めども積めども、鬼が金棒で

　その石を突き崩してしまうという。

　歌が　聞こえる

　どこからともなく、風に乗って…

ｰｰｰひとぉつ　積んでは　父のため

　　　　　　ふたぁつ　積んでは　母のためｰｰｰ

　

そんな中、

一匹の赤鬼が、一人の子供に話しかけている…

赤鬼「なあ、お前の父も母も地獄に落ちるだろう。

なら、ここで待っていても仕方がない。

共に極楽には行けぬのだから。

だから…

もう、生まれ変わってもいいだろう。

きっと次は、やさしい、父と母のもとへ…」

子供（ﾌﾙﾌﾙ　（首を振る

ｶﾂﾝ

ｶﾂﾝ（石を積む

…

ｶﾞﾗｶﾞﾗｶﾞﾗ（鬼の金棒が、積石を　崩す

積まれた石は必ず鬼が崩すこと。これは理（ことわり）だ。例外は無い。

子供は小さな手にある石を見つめる。

ｶﾂﾝ（石を積む

ｰｰｰｰｰ　ヒューー　つむじ風　

赤鬼は思う　この気配…悪鬼か。来る…

ここには、悪鬼羅刹に外道まで…ありとあらゆる、モノがいる。

石を積む子には、それらが見えることも無い。それらは、石を積む子に触れることもできず、声すら届かない。

ここな子供らは、御仏の慈悲に護られており、道をはずれた者を寄せ付けぬと言われている…

赤鬼には、もちろんそれらが、見える。

赤鬼「…」

本来、鬼と言えども悪鬼羅刹ましてや外道と言葉を交わして良いことは一つもない。

微かに生臭さい　つむじ風　ｰｰｰ　鬼は舞い上がる砂に一瞬、目を閉じる。

　　再び目を開けるその時には…

　　そこに、悪鬼が立っていた。

　　人の心に差す魔のように、悪鬼は突然現れる。

　ｰｰｰ 悪鬼　それは、悍ましきなれの果て ｰｰｰ

悪鬼は、その赤黒く汚れた爪のある腕を地に着け、しゃがみこみ、ﾊｱｱｱｱ…汚れた息を吐く口、曇った目は見開かれ、

その　子供の顔を覗き込む…

子供には、見えていない。

ｶﾂﾝ（石を積む

悪鬼は言葉を発する。

悪鬼「おい、赤鬼よ、この童（わらし）は、いつ生まれ変わるのだ？」（ｷﾞﾛﾘ

赤鬼（ﾌﾙﾌﾙ　（首を振る

悪鬼「そうか…　御仏が救ってくれるといいな。」

ヒューー　ｰｰｰｰｰ　つむじ風とともに、悪鬼は消え去る。

ｶﾂﾝ（石を積む

ｰｰｰｰｰ　ｽﾞｽﾞｽﾞｽﾞ

子供の足元、大きめの石の影から…黒い靄（もや）が染み出す…

子供には、見えていない。

ｽﾞｽﾞｽﾞｽﾞ ｰｰｰｰｰ

その靄は、鬼よりも、ずっと大きな形を作る…巨躯たる背中を丸めた猫背…

羅刹（らせつ）だ。

その足元には…外道もいる。

ｰｰｰ 羅刹　それは、恨む者　害を為す者 ｰｰｰ

羅刹の腕は毛むくじゃら、それは図太く節くれだって、こびりつくのは血か呪い…（ｷﾞｭｳｳ（拳を握る

ｶﾂﾝ

ｶﾂﾝ（子供は石を積む

子供には、羅刹も外道も、見えない。

ｽﾞﾙﾘ　ｽﾞﾙﾘ　外道が這う。

羅刹は言葉を発する。

羅刹「ああ、俺様のこの腕が現世まで届くなら、きっと守ってやれたのに。　　ああ、御仏は何をしているのだか。」

外道「…」（外道は、子供を見つめている。

赤鬼は黙し、羅刹と外道を見ている。

ｽﾞｽﾞｽﾞｽﾞ　ｰｰｰｰｰ

悪鬼と外道は影に消え去る。

ｶﾂﾝ

ｶﾂﾝ（石を積む

ﾍﾞﾝｯ（三味線

悪鬼羅刹も　口々に

御仏頼るは　笑わせる

己が背向た　その慈悲に

何を求むか　この外道

ﾍﾞｹﾍﾞｹﾍﾞﾍﾞﾝﾍﾞｰｰﾝ（三味線

ｶﾞﾗｶﾞﾗｶﾞﾗ（鬼の金棒が、積石を　崩す

ｶﾂﾝ（子供が、石を積む音

辺りには、石積む子供が幾人も…

鬼は、理（ことわり）に従い、積石を崩さねばならない。

次から次へと　　終わり無く

赤鬼（ﾌﾞﾙｯ　（寒

ヒュゥーーーー　風が吹く

ﾍﾞﾍﾞﾍﾞﾝ　ﾍﾞﾝ（三味線

賽の河原に　風が吹く

風に目有らば　映すだろ

果てなき河原　どこまでも

石積む子らに　崩す鬼

運ぶは歌声　すすり泣き

ああ

父のため

母のため

ﾍﾞｹﾍﾞｹﾍﾞﾍﾞﾝﾍﾞｰｰﾝ　ﾍﾞﾍﾞﾍﾞﾝ（三味線

ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ

三味線弾き　が音弾く

語り手口上　延べにきる

ああ

この舞台

どこへゆくのか…

ﾍﾞｹﾍﾞｹﾍﾞﾝ　……（三味線

ｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰｰ

つづく