異世界バカンス!!全力で楽しんでみた☆
出鱈目0
前世
第一話 人生の終わり
整った本棚に並ぶ本のような高層ビル群。
星のようにか輝く街の風景。
そんな街をより鮮やかに飾る人々。
俺はそんな都会に小さい頃から大きな憧れを抱いていた。
そんな俺の名前は坂口
26歳、社畜です。
俺は今、小さい頃からの夢である「都会で成功する」を現在進行形で叶えている最中……なのだが、一つだけ大きな問題があった。
それは……俺の働いている会社が「ヤバい」ことだ。
明らかに1日以内で終わらせることが想定されていない仕事量。
クソ上司からの王道パワハラ。
手取り15万の安月給。
俺の会社はそんなブラック三銃士が揃う「超ド級異次元糞ブラック会社」だったのだ。
朝から終電間際まで休憩はなし。
そんな中仕事をこなして上司のパワハラに耐える。
それを一か月続けても給料は税金や生活費などでほとんどなくなり、貯金なんてまともに貯まらない。
もちろん、仕事をやめようにも会社は辞めさせてくれない。
だから夢がどうこう言っている余裕は全くと言っていいほどにない。
「はあ、俺は何をしているんだろうな……」
そんな俺は今日も淡々と仕事をこなす。
もうこんな生活は正直、疲れた。
いっそのこと会社を無断欠勤してどこかへ旅行に行くのもありかもしれないな。
というか普通にやめたい……。
そんな幻想を抱いていた時だった。
「おい坂口、お前に用がある」
オフィスの端から端まで行き渡るような声。
そしてそれはどこか俺を見下しているように感じる。
はあ、またか……。
そんなことを考えながら俺は声の主の方を見る。
確実に100kgは超えてそうな豊満ボディ。
まだ31歳なのにも関わらずおでこの辺りが少し薄くなっている。
それに加えちゃんと風呂に入っているのかを疑うほどの異臭。
そしてそいつ胸元には「大熊部長」の4文字が書かれた札。
そう、この声の主こそ、俺がさっき説明していたクソ上司「大熊
こいつはいつもいつも定時になると仕事を部下(基本的に俺)に押し付けるクソ野郎だ。
こいつのせいで何度終電を逃したことか……クソが!
しかし俺はこいつに反抗することができない。
何故かって?
それはこいつがこの会社の社長の息子だからだ。
うん、もう言わなくてもわかるだろう。
そう、反抗すれば確実に首が飛ぶ。
だがちょっと待った! 坂口勇!
お前、さっきはさ「会社を辞めたい」って言ってたじゃないか。
だったら普通に反抗すればよくね?
ここでこう思った人はいるのではないだろうか。
ノンノンノン、みんなあのクソ野郎を過大評価しすぎだぞん☆
実は反抗してしまうと首が飛ぶだけでは済まないのだ。
俺は過去にこのクソ上司に反抗した人を見たことがある。
そいつは上司に対する暴行で会社をクビになり裁判にかけられ、前科がついてしまったのだ。
一見すると暴行を行ったそいつの方が悪いように見えるだろう。
だが俺は知っていた。
そいつが
そう、そいつは見事に社長とその息子に嵌められてしまったのである。
だから俺は反抗しない。
「前科」とかいう退職祝いなんてまっぴらごめんだ。
「部長、なんでございましょうか?」
俺は満面の笑みでクソ上司にそう返事をした。
だが内心は違った。
今回はどんな言いがかりをつけてくるのだろうか。
できればいつもより少ない量だと助かるのだが……。
俺はものすごく不安だった。
「お前に任せた書類にたくさんのミスがあったんだ。その後始末をミスした本人が直すのは当然のことだろう?」
そう言ってクソ上司は自分の後ろに隠していたカートを引き寄せ、その上にあった大量の資料をドスンと俺の机の上に置く。
厚さ40cmぐらいの紙の束。
俺は目の前の状況をなかなか呑み込めずにいた。
うん、たぶんこれは幻覚だろう。
この量の資料の確認と修正だなんて、さすがに一日二日で終わるわけがない。
これを「今日中にやれ」とか言われたらこいつを呪い殺そう。
うん、そうしよう。
「もちろん、これは今日中にやってもらうぞ。じゃないと明日の社内会議で大変な思いをすることになるからな。それじゃ、俺は先に帰らせてもらうぞ」
俺は悟った。
こいつは死ぬべきだと。
腹の底から憎いという感情を今初めて理解した。
そこで俺は満面の笑みで、
「やるわけねーだろこのクソ野郎! てめーの仕事はてめーでやりやがれ!」
と怒鳴りつけ、会社を後にするのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺は取り返しのつかないことをやってしまった。
俺の人生……終わったな。
前科なんかがあったら俺の夢は本当にただの夢物語に終わるってわかっていたのなぁ……。
はあ。
そんなことを考えていたせいか雨が降り始めた。
傘は持ってない。
追いかけられないよう敢えて駅とは逆のほうに走ってしまったせいで家にすぐ帰ることもできない。
「もうやだ。生きていたくない。死にたい。何で俺のやること成すことは全部失敗に終わっちゃうんだろう……?」
俺は夢を叶えるためにずっと頑張ってきていた。
夢が今の俺の生きる意味だった。
凄まじい脱力感に襲われる。
それに加え今までずっと無理をしていたせいか動けなくなるほどの疲労感に襲われている。
ゴロゴロゴロ!!
雷までなり始めた。
そういえば今朝の天気予報で夕方ごろから不安定になるって言ってたよな……。
それに雨は明日の昼まで続くんだっけか?
終わった……完全に忘れてた。
そんなことを考えながら俺は歩道の脇にあるベンチに座った。
「うう、寒い」
今は真冬だ。
外の温度は0度に近い。
このまま動かなければ俺は間違いなく凍え死ぬ。
それなのに体の主導権を疲労に握らてしまっていた。
「ああ、クソ……なんで俺はあんなことをしたんだろ」
後悔と絶望に押しつぶされそうになり俺は自然と涙が出ていた。
久しぶりに泣いた気がする。
泣いたのは幼馴染が引っ越していなくなってしまった時以来だっけか。
そう俺には幼馴染がいた。
彼女の名前は中川シェリー。
どこの国かは忘れたがその子はハーフだった。
白銀色の髪。
黄と青のオッドアイ。
端正な顔立ち。
そしてあの素敵な笑顔。
俺は彼女より可愛い子を見たことがなかった。
俺はそんなシェリーが大好きだった。
昔の俺は彼女にカッコいいところを見せるために頑張っていた。
彼女が俺の原動力だった。
だから彼女が引っ越したことを母から聞いたとき俺は三日三晩泣いていた。
俺はあの時も生きる意味を失い、無気力になり脱力感に襲われていた気がする。
「あ、そういえば……」
俺は突然、あることを思い出した。
彼女が引っ越す前日、俺たちはいつものように近所の公園で楽しく遊んでいた。
その時、彼女はこんなことを言っていた。
「シェリーね、実は勇のことがだーい好きなんだよ。シェリーたち、引っ越しちゃうけど、絶対に忘れないでね。必ずシェリーを見つけてくれるって信じてるから。(最後外国語で何かを言う)。」
確かシェリーのその言葉で「都会で成功したらシェリーが見つけてくるかもしれない」と思い、俺は努力をするようになったんだったよな。
まあ、結局それは実現しそうにないんですけどね。
今となったらとても懐かしい思い出だ。
あれ? てか、なんで俺はこんな大事なことを忘れていたんだろう……?
俺はとても不思議に思った。
これでも結構記憶力には自信があるんだけでなぁ?
こんな大事なことを忘れていただなんて……。
忘れていた自分をボコボコにしたいと思った。
そんなことを考えてしばらく動いていなかったせいか、かなり体が冷え始めていた。
まあ、とりあえず動こう。
じゃないと本当に……って、え?
う、動かない!?
俺は体が動かなくなっていた。
いや違う、これは世界が止まっている!?
車は道の中央で止まっている。
目の前の店の時計は止まっていて、中にいる店員さんも固まっている。
そして鳥と雨粒が宙に浮いている。
これって時間停止ってやつか?
これなら女子のスカートめくりたい放題なのに……。
なんで俺まで動けなくなってるんだよ!! クソ!
俺は必死に体を動かそうとするがびくともしない。
それなのに体が妙に軽い。
とても不思議な感覚だった。
まじでなんなんだこれは……。
というか、いったい何がどうなってるんだ?
そんなことを考えているとどこからともなく声が聞こえてきた。
「坂口勇。お主のその疑問、わしが答えてやろう」
な、何なんだ、この声は。
余計頭が混乱した。
周りが止まってて爺さんが何かを話してるってことは爺さんが時を止めてるってことか?
「お主の考えも間違ってはおらん。確かにわしが時を半分止めているようなものじゃからな」
え!?こ、心が読まれた!?
俺は非常に驚いた。
こんなの、あまりにも非科学的すぎる!
だがそんな非科学的なことが今目の前で起こっている。
俺は昔から魔法やら神やらの類は大好物だった。
実際厨二病をこじらせてた時は結構神やら魔法やらの真似をしていたからな。
今となっては激重な黒歴史になっているけど・・・。
「ああ、そうじゃ。わしはお主の心を読むことができるんじゃ。なにせわしは創世神じゃからのう。」
わーお、この人自分が神って名乗ちゃったよ。
というか創世神かよ。
こんなことって、あるんだな。
もう驚きすぎていろいろと吹っ切れたよ。
それで、神様。
なぜ時間を止めているのですか?
俺は何気なく聞いてみた。
すると驚きの答えが返ってきた。
「実はわしの権限をお主に少し分けておる。じゃから厳密に言うと時を止めておるのはわしじゃなく、お主なんじゃ」
俺はまたもや驚愕した。
俺にそんな力が・・・。
つまり俺は今この世界で変態的な意味で最強の人間ってこと!?
時間停止……ぐへへ。
女子のパンツを見たり、揉んだりすることができるじゃないか。
俺は非常に興奮していた。
「お主、何くだらんことを考えておる。お主はもうすぐ死ぬ故この権限が使えておるだけで、ある程度時間がたったらあとは死ぬだけじゃぞ?」
なんか今とんでもないことを言われた気がした。
え、死ぬ?
俺が……死ぬのか?
俺は神様にそう質問した。
たった20分真冬の雨に打たれ続けただけで凍死だなんて……。
俺はそこまで貧弱ではないと思っていたんだけどな……。
「安心しろ、お主は凍死ではなく雷に打たれて死ぬのじゃ。」
俺はそれを聞いて一度安心する。
そうか、雷で……って、それもなんか嫌だな。
というか何で俺は今まで使えなかった時間停止が使えるようになったんだろう?
「それはじゃな、走馬灯を見る時間ぐらいは与えないと、お主が可哀そうじゃろ?」
走馬灯……か。
なるほど、これですべて繋がった。
俺が突然あの日の約束を思い出したこと。
周りが止まっていること。
そして神様が俺に話しかけていること。
すべてに納得がいった。
時間停止はあとどのぐらいで……。
そう聞こうとしたら突然、轟音とともに体が燃えるように痛くなった。
うぐっ!!
ちょうど聞こうとしたタイミングで時間切れかよ!!
さすがにないだろそれは!
俺はだんだん意識が遠のいていくのを感じる。
それと同時に体が軽くなり痛みもなくなっていた。
これが死ぬってことか。
はあ、死ぬのならもっとましな死に方がよかったな。
上司に暴言を吐いて会社から逃走したら雷に打たれて死亡、とかダサすぎるにも程があるでしょ。
もういいや。
静かに眠ろう……。
死ぬ前に一度ぐらいはシェリーに会いたかったな……。
《2020年1月24日(金) 17:26 坂口勇 ~死亡~ 死因:落雷》
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