雨ととける月と鼈

アデビィ 📖

雨ととける月と鼈

指先が冷えるほどの寒さの日、追い打ちをかけるように雨が淡々と降り続ける。

ふと下を見れば、自然がつくる鏡が、景色を映す。

その景色には、生気を失いかけた植物と、自分と似ている、冷え切った表情の人間がそこにいる。

私が冷え切った指を動かすと、そいつも動かす。

改めて、これはお前なのだと、雨は私に伝えてくる。



雨はただ冷静に降り続ける。



私は何をしているんだろう。

なぜ勇気が出ないのだろう。

いつも通り傘を差し出し、

あの人と共に歩むだけなのに。

あんなことしなければよかった。

そうすれば、いつもの勇気が出ていた。


寒い。どんどん冷えてきた。

指先から凍てついてくるのを感じる。

雨が少しはやく走る。


あの人はどうなんだろう。

私と同じ想いなのだろうか。

もしそうなら、どれほど温まり、どれほど幸せだろうか。

どちらがより早くより冷たい指先か、比べ合えるだろうか。

何一つ釣り合わない私があの人と、ただただ純粋に楽しく、比べ合いっこできるのだろうか。


しかし、いまはただ待つことしかできない。

雨宿りしかできない。

隣にいるのになにもできない。

私はこの寒い感覚から耐え抜くことはできるのだろうか。



気がつくと私はまた水たまりを見ていた。

そのうちの一つにはゆっくりと、ただゆっくりととけこむ、月と鼈がいた。

あの人と私との距離が少し縮まった気がした。

雨は蕭々と降りつつも、時々歓声する。

この時期、数少ない葉や、寂しそうな幹と枝たちも、この雨と共に私たちを包む。



手が冷たい。

おそらくこの人も私と同じことを想い、同じこと考え、同じように私の手を握っているのだろう。


冷たい。でも同時に別の場所が温かい。


この寒暖差が実に心地良い。

この時間がずっと続いてほしい。


雨は降り続ける。厳かに、しかしとても優しく。


私たちは雨宿りしている。

あと少しすれば、私たちは濡れつつも歩き出す。

もういまはお互い温まりあえるから。


通り過ぎた水たまりには、雨ととける月と鼈があった。

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