日光異世界村

阿弥陀乃トンマージ

媚びからの怒り

「カッコウ、カッコウ……」

「ふふっ……今日も鳴いているわね、閑古鳥が……」

 金髪のロングヘアを縦ロールにした若い女性が腕組みをしながら、不敵な笑みを浮かべる。スタイルの良い体の上に黄緑色の上下ツナギの服を着ている。

「……お嬢様、強キャラ感を出している場合じゃないっすよ」

 同様にツナギの服を着た少年が呆れた様子で声をかける。

「こういう雰囲気が大事なのよ、雰囲気が」

 お嬢様と呼ばれた縦ロールが唇をプイと尖らせる。それでも、その整った顔つきから、可愛らしさが損なわれることは無い。ただ、少年としては、呑気にそれを褒めそやしている場合では無かった。

「雰囲気以前の問題じゃないっすか……」

「その言葉遣いをなんとかしなさいよ、大体ね、アタシのことはお嬢様じゃなくて、ちゃんと”社長”と呼びなさい」

「……貴女が社長と呼ぶにふさわしければ、呼び名も自ずとそうなるでしょう……」

「回りくどいわね、ディスるの辞めなさいよ」

「だって、現状がねえ……」

 少年が周りを見渡す。

「! ……ふふん」

 縦ロールがスマホを取り出して、画面を確認すると、得意気に笑う。

「どうしたんすか?」

「以前連絡先を交換した男性から電話が来たわ」

「モテ自慢ですか?」

「違うわよ。この男性は有名なインフルエンサーでね。彼のSNSに取り上げてもらえば、ここも一気にバズるって寸法よ」

「はあ……」

 少年が疑いの目を向ける。

「なによ、その目は……。通話をオープンにするから、ちょっと黙ってなさい」

 縦ロールがスマホを上向きにする。

「はあ……」

「はい~お疲れ様です~先日はどうも~♡」

 縦ロールはこれほどまでかというほどの猫撫で声を出す。

「あ、お疲れ様です。海星さんですか?」

「ええ、社長の海星天かいせいてんです~♡」

「今、大丈夫ですか?」

「ええ、全然大丈夫です~♡」

 天と名乗った女性はこくこくと頷く。

「そうですか、先日のパーティーでもちょっと話した件ですけど……」

「ええ」

「僕のYouBroadチャンネルで取り上げさせてもらおうかなと思いまして……」

「まあ! それは願ってもないお話です~♡」

 天は自らの頬に手を添える。

「それでですね、動画のタイトルなんですが、『オンボロテーマパークに咲く一輪の花』にしようかなと思っているんですが……」

「はい~♡ ……はい?」

 天が笑顔から真顔になる。

「社長の……天ちゃんの可愛さをフォーカスしようかと思ってね」

 男性がいきなり馴れ馴れしい口調になる。

「……」

「動画に出てもらうにあたって、僕なりのプロデュース方針を詳しく伝えたいんだ。今度ディナーでもどうかな?」

「……な」

「え?」

「舐めんな! なにがオンボロよ! アンタの動画チャンネルなんてお断りだわ!」

 天はスマホの通話を切る。少年が両手を広げる。

「どうせなら徹底的に媚びれば良いのに……」

「……アタシのことはどうでも良いのだけれど……おじいちゃんの遺してくれたこのテーマパーク……『日光異世界村』を侮辱するのは許さないわ!」

 天は怒りを爆発させる。

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