デスゲームの黒幕ではなく、ただ人生二周目なだけ
匿名インゲン
前日譚
第1話 喜劇は勝手に出来るもの
誰しも一度は頭に浮かぶであろう空想がある。
もっと顔が良かったなら。
もっと親が金持ちだったら。
もっと前から勉強を頑張っていたなら。
もっと身長が高かったなら。
もっと自分の魅力に気づいてくれる異性が周りにいたなら。
もしかしたら。
あの学校にいた陽気なグループに入れたのかもしれない。お金もあり、家族もいる充実した暮らしをしていたかもしれない。ネットでしか承認欲求を発散できないような人間ではなかったかもしれない。もっと性格が良くなって、運動もできる“良い人”になってたかもしれない。もっと良い就職先につけたかもしれない。人の悪い所ばかりを見る性格ではなかったかもしれない。
嗚呼、もっと前から人生が一度きりだと知っていたのなら。
もっと、もっと、もっと、一生懸命頑張って努力して生きていたかもしれない。
そんな微かな希望。叶うかも分からない希望を胸に、想う。
二周目の人生を歩んでみたい。二周目の人生が歩めたならば、もっと後悔のしない人生を描けるだろう。もう他の人を見ながら指を咥えて批判するだけの人生なんて嫌だ!
世界中の誰もが一度は願ったことがある、そんなよくある願い事。
じゃあ本当に二度目が有ったのなら?
その時、俺はちゃんと“良い”人生を歩めるのだろうか。二週目だからと怠けず甘えず、きちんとした人生を送れるのだろうか。
答えは、YESだ。
俺は本当に周りが恵まれていたのなら神頼みでしかなかった人生を送れない道理は無いと、お願い事として片付けていた生活ができようになると、そう断言する。
何故なら今俺は、二週目の人生を“周りから見れば”順風満帆に過ごしているのだから。それが、おんぎゃあおんぎゃあと喚きながら産まれて、唐突な赤チェンプレイからくる羞恥心に耐えながらも15年の月日が経ち過ごした結果導き出した答えである。
どうも皆様こんにちは、俺はみんなが大好きなフレディ・クラーク君だ。
成績優秀、文武両道、賢才武略、博学多才、徳才兼備、器宇非凡。その他諸々。全て、俺を形容する四字熟語。この世は全て俺のもの。何もかもが手に届き、自分より優れている人間なんて見たことがない。張り合えるのって、ブッダくらい?(笑)そんな気持ちで日々を過ごしている人生二週目の転生者。二週目になっても心根が変わってないから、努力するの苦手だから無理とか悲観的に考えてるそこの人間さん、大丈夫です。もう、一週目のこと覚えている貴方は同じ轍は踏みません。多分自分が思っているより頑張れます。恵まれた人間にシフトチェンジできますので、今からでも女神様に祈っときましょう。はい、皆さん神に感謝を。来世は東京の能力マシマシのチート級イケメン才能マンにさせてください!さぁ、皆さんも一緒にどうですか?
…なーんて、明るい気持ちを持てる訳もなく。確かに二週目は完璧な環境だが、そこまで良いものではない。さて、その理由について説明しよう。
先ず、この結論に至るまでの俺の話から。
前世はよくある職場でのパワハラアルハラなどによる精神的疲労からの飛び降り。そして最初に目を開けると視界に入ってきたのは、美しい女優スペックのボンキュッボンな妖艶な日本人の女と初めは彫刻かと疑う程の冷徹系の美形な金髪碧目のザ・外国人って感じの男に持ち上げられ、笑いかけられていた。二人の笑みという100億はくだらない名画が、そこにはあった。これには前世実質過労死の俺も吃驚。思わず泣き止んでしまったほどである。マァ、呼吸できなくてまた直ぐに再開したけど。
生まれてから暫くしたある頃に英語で、[かあさまがすき]と書いた紙を渡したことがある。二人が話す共通言語は英語だ。その時心底良かったと感じたながら通じるのか試した行動だった。だって、文字だけ異世界仕様とかの可能性もあるし。すると、どうだろうか。お母さん達の溢れんばかりの笑顔と愛おしいようなものを見る目線。
「大変…!!うちの子は天使で天才だわ。生後9ヶ月で文字書けるなんて…!」
「…私達の子はギフテッドなのかもしれないな」
そう言われた時、あ、この人達の期待に応えよう。そう思った。これが地獄の始まりとも知らずに。
よく聞いてみると、親は見た目も最強なのになんと父は財閥を有するビリオネアの一人で、母は成り上がり社長であった。しかもどっちも途轍もなく優しい上にきちんとバカップル並みにお互いを愛し合っている。もうこの時点でこれが神様に愛されてるなぁとつくづく思う。更に何を言ってもヨイショしてくれるし。だって歩くだけでこの子は神の使徒なのかもしれないわ、なんて真剣に言われる。こっちから言い過ぎ言い過ぎと言いたくなるほどだ。
やはり褒められたことを思い出そうとすれば小学生の時まで遡らなければならないくらいには褒められなかった前世よりも、過剰と言えるほど褒められる人生を俺は歩みたいと思った。出来る限り優秀でなんでも期待を超えていくような人間になりたい。この幸福をくれた親に恩返しがしたい。
そう思いながら、約15年が経った。
親の期待に応えようとした俺の人生は。
「フレディくん、この理論教えて〜」
「いいや、フレディにそんな初歩的なモノの解説なんてさせられないよ。どうだい、この後発表された論文の内容をー」
「あ、あの!先程の解説おかしいと思いましたよね?!?」
『まぁまぁ、落ち着いて』
(何その理論俺知らない知らない、新しい論文とか読まんし。さっきの解説とかみんなが先生と討論して他の聞いてただけだよ俺。何言ってんのかほぼ分からなかったから後から復習しよーとしてたしね。なんでも俺がわかると思うなぁ?!)
全然薔薇色なんかではなかった!!!!
此処は日本にある、優傑学園。
幼等部、中等部、高等部に分かれた私立学園で国内一の偏差値を誇り、入れたら将来性は確約されていると言われている学園。頭が良い上に親も金持ちであるという条件を満たしてやっと此処に入れる資格が得られる、そんな学園だ。まぁ、勿論例外はあるが。そういう学園だと思って欲しい。
そんな学園に俺は居る。しかも。
「生徒会長!ここに居られましたか。幾ら特進クラスの者とはいえ、その愚民共の話に耳を傾ける暇はないですよ。ほら来てください!」
ーこの学園の生徒会長として。
ギフテッドとか持ち上げられたけどただ一つ前の記憶があるだけの凡人なのに。普通に終わってるよね。でも一つ言い訳をさせて欲しい。これは俺が望んだ結果なんかでは無いということを。
『俺はみんなと話すのが好きだから気にしないd…』
「そんな事言ってる場合ですか。仕事なら山程あるんですよ」
ギロリ、そう睨まれる。
なので、先程まで俺の周りに群がっていた人たちの顔を見て助けを求める。まだ、俺と話したいよなという視線を込めて。だが、現実は無常である故。
「フレディ会長。引き止めて申し訳ないです」
「僕たちの事は気にせずにどうぞ!」
「はい!戯言をすみません」
どうぞどうぞと先程まで俺を引っ張ってた手はすぐさま退かされる。そして、残ったのは。
「会長。今日もこの静香と一緒に絶対に生徒会室に行きましょうね」
先程から俺を地獄に連れて行こうとしてる生徒会副会長、空舞宮静香の手のみ。
彼女は自称・俺の忠犬で、成績は俺に続いて万年二位。そして、俺が生徒会長などという面倒な職業に就いた原因でもある。
腕に纏わりつく彼女を見ながら苦笑いをする。内心はこの顔と胸と頭の良さで成り立っている女がよぉ、俺に厄介ごとばっか持ってきやがって、と舌打ちすらしてるが何処に親の目があるかわからないので言わない。俺の親は、この間何故か生徒会室でお菓子を食べてたことを知っていたりするので十中八九監視カメラかなにかの俺を見る手段があるのだ。気を抜いたら期待を裏切ってしまう。そう考えてると、そういえばという風に静香は俺に声を掛けてきた。
「最近デスゲームへの招待状のようなものが下民共の間で流行っているようですよ。風紀を乱さないで欲しいんですけどねぇ」
『へぇ、そうなんだね』
「あ、もしかして先輩が関わってたりします?」
『ふふ、関わってないよ。そんな遊び、面白く無いじゃ無いか』
「それもそうですよね。先輩だったらこんなまどろっこしい遊びしないだろうし」
うふふあはは。
二人で笑い合うという謎の時間を過ごして、その雑談は終わった。因みに俺はマジで存在すら知らなかった。なにそれ。デスゲームとか物騒だしなんか馬鹿っぽい。まぁこの学園には俺より馬鹿な人いないだろうけど。ワンチャン本当に開催されたりしてね。内心ではフラグを立てながらその後も少し雑談をしながら生徒会の部屋の扉についた。そして、扉をゆっくりと開ける。
これはテストの点だけは良い俺が親や周囲の人間からの期待を背負いながらもこの学園で如何に天才達を欺きながら生徒会長としての職を全うできるのか、という話である。
そう、思い込んでいた。
『え、ここどこなん?』
関西弁が出るのも致したないと考えるほど、お世辞にも頭の回転が早いとは言えない俺にとってこの状況は混乱するものだった。生徒会室に入ろうとドアノブに手を当てたところで記憶は途切れている。
周囲の様子を確認するべく、辺りを見渡すとそこには広い大広間のような空間と共に床に問題児と名高い生徒や、普通の生徒なんかがチラホラと気絶したように地面に倒れていた。
そして、思い出すのはここに誘拐される前の会話。デスゲーム。流行っている。下民の間で。その時アイディアロールが無事成功し、俺は巷で噂のデスゲームとやらに集められたみたいだと理解し。
『よし。もう一回寝よう』
寝た。
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