第67話 汚さななじみの失せた後に

 その後、ぐうの音も出す事の出来なくなったタリアは姫様が連れてきたお供に十分な路銀と風呂に入る為のお金を渡され、馬車に乗せられて追い返されることとなった。

 ・・・一応、俺からはアバ茶やりすぎたかな?程度の哀れみで兵士の一般的な給与平均1月分ほどのお金を施しておいてやった。これだけあれば王都で身を持ち直すこともできるだろう。

 タリアがいくら負けん気が強くても元・子爵夫人でこの国の姫を相手にガチンコでやりあえるようなガッツも立場もないしな。

 別に姫様が乱入してこなくても適当にあしらって追い返していただろうけれど、相手がこの国の姫様となるとタリアからは何も言い返すことなどできないので楽だった。

 ・・・全てにおいて負けているタリアは屈辱と惨めさに打ち震えてすごすご帰って行ったけれど、完全敗北ってああいうのをいうんだろう。なんていうか、来た時から帰るまでみっちり惨めだった。これで満足して静かに余生を暮らしてくれるといいね。


 クリームベルト―――クリム姫は、俺の婚約者となることを認める国王陛下からの親書と共に家を訪問してきていた。陛下と騎士団長をリングに沈めた後沐浴と着替えをすませてその足でここまで馬車を走らせてきたのだというから本当にアグレッシブなお姫様だ。

 クリム姫は俺の事をいたく気に入っていて、それ自体は光栄なことだけれどまさか姫様が直接アプローチをかけてくるとは思っていなかったキリコとリンナが混乱しているしこちらとしても正直話についていけない。


「勿論すぐに嫁ぐというつもりはありませんわ。一先ず婚約者として据えて頂ければシーン様が自由に動くこともできると思いますの。私が婚約者で居ることはデメリットよりもメリットの方が多いと思いますわ」


「それはそうなんだろうけれど、姫様はそれでよいのですか?」


「勿論。惚れさせてみせる自信と覚悟がありますから」


 俺の質問に対して腕組みしながら不敵に笑う姿は、姫様というより戦場に挑む戦士とかそういう言葉の方が似合う。おもしれー姫!


「それと私はまだ学生なのですが、学校のないときはこちらの邸宅に引っ越させていただく予定です。

 ・・・私、王家の中では一番強いのでそう言った意味でもシーン様にとってメリットは大きいと思いますの。以降トールマンの御家の留守は私が護ります!シーン様も手札は多い方が良いでしょう?」


 いやー、頼もしすぎる御言葉ですね姫様!!!

 っていうか国王陛下だって現役の頃は戦場に出ていたしその親友の騎士団長も相当な実力者だった筈。年老いたとはいえまとめて打ち倒してきただけあってすごい自信だなと思う。

 ぶっちゃけどらぐらいのもんなの?とリンナの方を見ると、いつものえへらえへらプワワーブブブみたいな態度じゃなくて顎に手を当てて冷静に戦力分析をして答えてくれた。


「武器有りの接近戦でリナンザムとかREPEありならだいたい8:2でリンナちゃんが勝てます。

 でも武器無し接近しての肉弾戦(プロレス)のみだと6:4ぐらいだと思いますねー、闘気の総量が私を少し下回るくらいなのであとは技の練度で勝敗がひっくり返されることがありそうな感じです」


 それだいぶ強くね??????????????????


「ちなみに私は追い詰められたり窮地に陥るほど闘志が燃えて闘気が回復する希少能力を持っていますの。

 そしてそういう貴女も相当な腕前とお見受けいたしますわ、リンナ・ジャンダルム辺境伯令嬢・・・ひとつお手合わせ如何?」


 リンナの分析は姫様にとっても納得がいくものだったようで否定はせず、それはそれとして強者を前にしたワクワク感を隠すことない態度でリンナに手合わせを願い出ている。すげー器の姫様だなぁ。


「私、気になります!ということでその挑戦受けて立ちましょう。

 キリコちゃん、リングの準備をよろしくぅ!・・・姫様だろうと手加減はしませんよ?」


「勿論ですわ、勝敗はあくまで結果、全力で戦うことに意味がありましてよ!!」


 リンナも姫様に興味があったのか、2人は並んで庭に歩いて行った。・・・あの2人の勝負は俺もちょっと気になるな。

 そして無茶振りされたキリコはため息をついた後、パンッと両手を打ち合わせてズゴゴゴという音を鳴らしながら庭に魔法で試合場を生成していた。正方形の形に造られた床の四方に柱があり柱の間を蔓が走っている。自然素材で作られているからなんだろうけれどキリコの能力も大概便利な能力だよなぁ、羨ましいぜ。


 そして庭に造られたキリコ特製リングの上で薄着に着替えてとっくみあうリンナと姫様、思った以上に互角の戦いしてて凄い。


「このリンナちゃん、得意でなくてもプロレスも少しはわかるんですよねぇ・・・パロディ・スペシャル!!コーホーコーホー!」


 おっと立っている姫様の後ろに回り込んで背中に跳びかかって両腕両足を固めにかかるリンナ。けれどそんなリンナを力任せに振りほどく姫様。

 攻守を逆転させながらの戦いに手の空いた使用人達が気づいて集まり始め、次第にリングの周囲に人が集まって声援をあげはじめた。


「ぬぐぐぅ、やらせませんわブライドバスター!」


「なんのブライドバスター返しィ!!」


 単純なフィジカルはリンナの軍配が上がりそうだけれど、技の練度と精度で姫様が食らいついてる感じ。姫様も自分で言うだけあって本当に強い・・・!!

 狭いリングの上というのがあるけれどリンナがダメージを受けてるのって初めて見る気がする。


「うぐぐぐっ、リングの上の条件戦とはいえこのリンナちゃんにここまでダメージを与えたのは姫様が初めてですよ、やりますねぇ!!

 それならジャンダルム家に伝わる奥義―――ジャンダルム式ブライド・アベンジャー!これでフィニッシュホールドです!!」


 おっとリンナが姫様の身体を頭を下にするようにして担ぎ上げた後、ジャンプしながら姫様の頭に頭突きを繰り返してその体を上空に打ち上げていき、ついには館の屋根よりも高い位置にまで姫様の身体をうちあげた。


「こ、これは王家の三大奥義の一つと言われるブライド・アベンジャー?!今のブライド王家では失われた技、縁戚に下ったかつての王族から伝承されていたのかしら・・・?!」


 驚愕しながらも興奮と期待を隠しきれていない姫様の反応に満足げに笑みを浮かべるリンナ。あぁ、そうかこの2人似た者同士何だな・・・。

 そのまま姫様の空中で身体を固めて急降下してリングに叩き付けると、凄まじい轟音と共にリングがひび割れて吹き飛んで受け身をとれない姫様はダメージをモロに受けたので白目をむいてダウンしていた。

 ・・・勝敗はリンナに軍配が上がったけれどそのリンナも辛勝って感じだ。


「試合時間は20分10秒、フィニッシュホールドはジャンダルム式ブライド・アベンジャー・・・リンナの勝ちですね」


 キリコが決着を宣言すると集まっていた観客がワッとひときわ大きな歓声を上げた。それを見守りながら、小声で俺に話しかけてくるキリコ。


「・・・クリム姫のあの能力、どうやら王家の先祖にも転生者がいたようです。

 クリム姫はその能力を色濃く受け継いでいるように見えます、数代を経た隔世遺伝とでも言いましょうか」


 やっぱり普通じゃないと思ったけれどそうだよなぁ、リンナと真っ向からガチでやりあえるってすごいもん。多分俺じゃあんな互角の勝負なんてできないし。


 そして姫様は目を覚ました後、リンナと互いの健闘をたたえ合いながらリンナとリンナと意気投合していた。戦いの 後に芽生える 絆かな。


「素晴らしいファイトでしたわ。リンナ、また再戦を!」


「望むところ、次はクリム自慢のフィニッシュホールドを受けたうえでリングに沈めてやんよー」


 固い握手からは友情を感じる。どうやら、タリアが俺の人生から消えたのと入れ替わりで新たな仲間が加わったみたいだね。


「ところでリンナとキリコさんはシーン様の幼いころからの友人と聞いています。

 立場上第一夫人の座は譲れない―――というか一国の姫を妻に迎える以上そこは仕方のない事ですけれど、私はこれまでシーン様を支えた貴女達も等しく愛されるべきであると思いますの。お2人の順番を決めておいてくださいね」


 なんて爆弾発言をするんですか、やめてくださいよ姫様!か。おいこらリンナ、頼もしい仲間を得たぞみたいなニヤニヤ顔でこっちを見るんじゃないよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る