絶望の先がハッピーエンドなんて聞いてない

花房コウ

エピローグ

第1話 二人の関係性

「何見てるの?」


「シラバス。休講の連絡来てたから、今日の授業確認してるの」


「1限が休講?じゃあ、今日は2限目から?」


「そうよ。ねぇノア、今日はサボっちゃダメよ?一緒に大学行くんだからね」


「うー、起きたくない。まだ寝てたい…ノリコも寝てようよ。まだ時間あるでしょ」


「ちょっと、抱き付かないでよ。布団から出たくなくなっちゃう」


「あはは、いーじゃん。一緒にサボろうよ」


「ダメ。あたしは真面目だからちゃんと大学生の責務を全うするの。てゆーか、ノア単位ヤバいでしょ?」


「大丈夫、そのへんはちゃんと数えてるから出席日数は足りてます」


「まったく…要領いいんだから、ちゃんとやればいいのに。勿体無いよ」


「なんで?ノリコも、もっと気楽にやればいいのに」


「あたしはノアみたいに器用じゃないの。ちょっとのつもりで休んだら、全部どうでも良くなっちゃいそうだから嫌なの」


「ふーん。ねぇ、ノリコは卒業したらどうするの?」


「あたしは都内に帰るかな。その方が選択肢が多いし。それなりに良い企業に勤めて、結婚して子どもできて年取ってくのかなって。別に普通でいいのよ、普通に幸せになりたい」


「…そっか」


「ノアも同じ会社受けようよ。同じ会社入ったら、部署は違うかもしれないけど、仕事の話もできるし、ずっと一緒に居られるよ?」


「…私は、そういうのは向いてないから」


「ノアならできるよ。あたしより、上手くやれると思うもん。同じ会社じゃなくても近くに居られる会社にしてよ。それで、お互いの会社の間くらいで…例えば…一緒に暮らしたり、とか」


「…でも、いつか離れちゃうんでしょ?それなら初めから別の方が辛くないかもね。一緒に暮らしたらノリコまた彼氏できないよ?」


「それはノアだって同じじゃん。あたしだけモテないみたいに言わないでよ!あ、この前、バイト先の後輩にごはん誘われたんだけど、まだ返事してないのよね」


「え。…行く、の?」


「どーしよっかな。ノアはどうして欲しい?」


「…なんで私に聞くのかな」


「ふふ、何でだろうね」


「ちょっと、抱きつくなってノリコが言ったのに、何でギュッてするの。苦しい」


「いいじゃない。まだ時間あるから、ちょっとだけノアに付き合ってあげてるの」


「さっきと言ってること違うじゃん。支度、間に合わないって騒いでも知らないよ?」


「んー、それは無理かも。たぶん、騒ぐ。だから、ノアが車で送って?」


「それ、結局私も行かなきゃならないじゃん」


「ふふ、だから、サボらせないって言ったでしょ?」


「…やられた。別にいいけどさ」


「そういうところ好き」


「はいはい」


「ねぇ、ノアは、あたしのこと嫌い?」


「嫌いなら、こんな頻繁に泊まったり一緒に寝たりしてないでしょ」


「ふーん。じゃあさ…」


「…なに?」


「ノアは、あたしのこと、好き?」


「………」


「ねぇ、聞こえてる?耳元で言ったらいいのかな?ねぇねぇ」


「ちょっと、耳くすぐったいから」


「ふふふ、で、どうなの?」


「…好きだよ。大好き。たぶんずっと好き」


「なにそれ、なんでたぶんなの」


「私は自分が一番信用できないから、たぶんなの」


「変なの。絶対って言ってよ。言うだけなら自由なんだから」


「そんな不確定でいい加減なこと言えません。言葉はさ、一回出たら消えてくれないんだから」


「変なの。ノアが真面目なこと言ってる」


「たしかに。サボり魔で適当なのにね」


「自覚あるんだ」


「あるよ、一応ね」


「あるなら直しなよ。そしたら惚れ直してあげる」


「それだけじゃ足らないなぁ」


「じゃあ、ほっぺにチューしてあげようか?」


「あのねぇ、そーゆー事じゃないの。ほんとノリコはノリコなんだから」


「あ、なんか今のは良くない。良くないよー、そうやって一人で納得するの」


「あはは。いいんだよ、ノリコは分からなくて。そこが良いんだから」


「あ、またそうやって自分だけで完結する。ねぇ、ホント何なの?ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないんだけど」


「あはは。ほら、遅刻するの嫌なんでしょ?支度するよー」


「ちょっとー、ねぇ、ノアのそういうところ。ホントずるいんだから」



 地方の学生用ワンルームで、だいたい同じような日々を繰り返した。あたしとノアの4年間。思い出の中には、だいたいノアがいる。きっとノアの思い出にも、同じだけあたしがいると思う。


 だから、まさかこんな未来が待ってるなんて、ちっとも思わなかったよ。

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