第2話 あ行

第一部:あん〜おん

あん

あんは甘さをまとった旅人だった。

庵の影に座り、安らぎを人々に分け与える。

だがその微笑みは、過去の痛みを覆い隠す仮面でもあった。

「終わりは甘さに似ている。だが、余韻は苦さを孕む。」

そう語ると、あんは沈黙の中に溶けていった。


いん

いんは影の街に住む。

印を刻み、陰を抱え、存在の証を求める。

「影なくして光はない。沈黙なくして言葉はない。」

彼の声は深い洞窟のように響き、時間の底へと落ちていった。


うん

うんは川を渡る舟人。

運命の流れに身を任せ、未来を運ぶ。

「流れは選べぬ。だが、響きは選べる。」

彼の言葉は水面に広がり、やがて宇宙の波紋となった。


えん

えんは糸を紡ぐ巫女。

縁を結び、円を描き、炎を灯す。

「すべては結ばれている。孤独もまた、結び目の一つ。」

彼女の糸は星々を繋ぎ、銀河を編み上げた。


おん

おんは響きの神殿に立つ。

音を鳴らし、恩を授け、温もりを広げる。

「響きは終わりではない。沈黙の奥に未来がある。」

その声は宇宙の深淵に届き、すべての「ん」を呼び覚ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る