第17幕・勇者の剣…?

「勇者の…剣……?」

僕はそう呟きつつ、9万職員さんから白い布に包まれた物を受け取った。

恐る恐る布を捲ってみる。


…バターナイフだ。

どう見てもバターナイフだ。

「どう見てもバターナイフなんですが…。」

終いには思わず言葉に出てしまった。


「正直、私の目にもバターナイフにしか見えません。ですがご安心下さい!取扱説明書によると、その剣はまだ未完成との事です!」

「え…?取扱説明書…?」

食い気味に9万職員さんが手に持っている説明書を除き込んだ。


"勇者の剣・令禾口最親板!!!

取リ扱かセツメ書ッ!!!"


「いやいやいやいや!!!」

あまりにもコテコテ過ぎる怪しい日本語を前に、僕はツッコまずにはいられず――

「どう見ても偽物じゃないですか!何ですか"令禾口最親板"って!?」

 ――つい大声で叫んでしまった。

具体的には92,385番カウンター辺りまで届く位の……いや、そんな事はどうでもいいとして…


そんな事を考えていた最中、9万職員さんが言った。

「勇者様、確かにこの勇者の剣は偽物、というかレプリカです。ですが質は確かです。必ず私達の度において支えになるかと…。」


続けてリカブさんが呟く。

「成程…そう言えば、本物の勇者の剣は未だに行方不明だそうだな…。

何でも、先代の勇者が"魔王討伐"の為に持ち出していったとか…。」


「…あの…9万職員さん、この令禾口最親板、何処で手に入れたんですか…?」

「ネットオークションです!200円でした!」

「どの辺りが"質は確か"なんですか!?」


「まあ待て油脂ヒコ君。」

「今油脂ヒコって言いましたか…?確かに暫く風呂に入れてませんけど…。」

「そうだ油脂ヒコ君。一度私の家に戻って休むとしよう。まともな寝床も風呂もあるし、"例の文書"も届いた頃だろうしな。

…それに、この勇者の剣の説明書にも"熱湯に浸けて約3分"と書いてあるしな。」

「何でインスタントラーメンと同じシステムなんですか!?」


いつも通り2人のペースに完全に飲まれつつも、僕は話題をリカブさんへの疑問に移すことにした。

「…ところでリカブさん、またこの距離を徒歩で帰るんですか…?魔王討伐前に過労死するレベルですけど…。」

「ふむ…確かに、体力は温存しておきたいな。」

揃って頭を抱える僕とリカブさんに、9万職員さんが躙り寄って来る。


「ふっふっふっ…お二人共…。ココの設備を舐めて貰っちゃあ困りますよ…。」


「どういう事だ?9万?」

リカブさんが首を傾げる。


「そろそろですね…」



9万職員さんの呟きと共に、一帯にけたたましい警笛の音が響き渡った。

同時に僕達の視界に映ったのは…


「えぇ……!?」

「ほう…噂には聞いていたがコレが…」


 ――それは直方体のようなフォルムと、銀色に輝くボディを持つ"乗り物"だった。


長方形の大きな窓の向こうには、かつて目にした旅の記憶を断片的に切り抜いたような光景が広がっている。


「これが…ハローワーク鉄道です!」

車体の扉が開く音と共に、9万職員さんは声高に告げた。


「何だコレェェ!!!すげぇぇぇぇ!!!

…なんで行きの時に使わなかったんですか?」

「さあさあお二人共乗って下さい!間もなく出発しますよ!」


9万職員さんさんが僕の手を引いて、列車へと乗り込んでいく。


『御乗車ありがとうございます。この電車は快速列車、エントランス行きです。』


「流石観光名所だ…。鉄道まで整備されているとは…。」

「ハロワが観光名所ってのも変な話ですけどね…」

「皆さん、12時間もあれば着きますので、それまでゆっくりしてて下さい。」

9万職員さんは、施設の職員なだけあって、流石に慣れている様子だった。


…いや待て、12時間…?


『次は、"92,360番駅"に停車致します』

「えっ」

「ゑ…?」


…嘘のようなアナウンスを前に、僕はリカブさんと共に硬直する。


「おっ、ここまで来れば残り9,260駅ですね。

快速列車は"各駅停車"じゃないだけあって速いですねぇ〜」


「…って…アレ?どうかしましたか?お二人共?」


………二度と乗らない。

そう心に決めた瞬間だった。


・ ・ ・


「失礼、旅の者だが。」

ある青年が道行く中年女性に話し掛ける。

「あ〜ら見ない顔ね?

…ってヤァダもぉ〜!最初に旅の者って言ってたわね!ごめんなさいね〜?」

地元のおばちゃんのノリについていけないのか、青年は不満気な顔を浮かべる。


物陰の方では、強面の男数名…を装った集団が何かを話している。

「流石だな…アビス様の魔法は。」

「禍々しいオーラを持つプロミネンス様を、まるで人間そっくりに偽装してしまうとは…!」

「…で、そのアビス様はどちらに行かれたのだ?」

「何でも、魔王様に報告があるそうだ。」

「報告?魔王様は我々を監視しているのだろう?おおよその出来事は把握しているのでは?」

「それが、直接話したい事があるのだとか…」

「へぇ…?」


彼らの談義は、鶴の一声で終結した。

「お前達、次だ。次の地点へ向かうぞ…。」


「はっ!!!」

「了解致しました!」


・ ・ ・


同時刻、薄暗い空間にて、玉座の前で跪く老爺"アビス"は告げる。

「…現在大隊は"王国騎士団"と交戦中、王族を引き摺り出して殺害する目論見も立っております…。」


「人類共の具体的な被害状況、偵察の現在の進行状況など諸々…それらの通達、御苦労…アビスよ…」

一帯に、男の声が反響する。


「…だが、お前が戻って来たのはその為だけでは無いのだろう。」


老爺は返答する。

「その通りですとも、ヴェンジェンス様。儂には、確認しておきたい事が有りましてですな……そう、貴方の目的についてです。」


数秒の沈黙を置いて、アビスは語り続ける。


「…探しておられるのですね…?"インフィニティ"を……」



To Be Continued

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