第14幕・就活地獄

メガバイト村。

この世界のとある海岸線のとある場所。

6年前までは辺境の田舎に過ぎなかったが、

"無限回廊"の異名を持つハローワークが観光名所となり、その経済効果によりそこそこの規模の街へと成長した。

今では「就職するならメガバイトへ行け」と

いい年した若者達は定年した親父に言われるのが様式美である。


その村の一角、"無限回廊"のシンボルである"無職の噴水"が突如爆発炎上した。


現場には現地人を主とした野次馬が集い、縄を手繰り寄せるが如く、何の因果か運命は変動していく。


・ ・ ・


「いやぁ…」

「………。」

「イテテ…。」

僕達は原型すら留めない鉄塊となったタクシーから、命からがら脱出した。


「9万……免許は持っているよな…?」

遠い目をしたリカブさんが問いかける。


「勿論!ゴールド免許ですよ!無事故無違反、至って優良ドライバーですとも!」

「それも今日までですけどね…」

そう告げると、9万職員さんは膝から崩れ落ちた。


「…ヨシヒコ君。警察には私が説明しておくから、先にハロワに入っててくれ。」

「ゴールド免許がぁ…私のゴル免がぁ…」


「分かりました…後の事、お願いしますね。」

9万職員さんに哀れみの目を向けながら、僕は現場を後にした。


・ ・ ・


「あぁ…村のシンボルが…」

「アイツらタクシー運転手か?」

「どう見ても一般人なんだけど…どうしてタクシーに…?強盗…?」


疑問を露わにする傍観者達を他所に、リカブは事の顛末を話し終えた。


「ふぅむ…タクシーの暴走ねぇ…?」

「そうなんです!不可抗力だったんです!だから私の免許だけはどうか――」

「君達、タクシー会社の社員でもないのに何故タクシーを運転していたんだ?」

「アッ」

弁明をする為に起き上がった9万は、刑事によってあっさり一蹴された。


続け様にリカブが口を開く。

「原因がどうあれ、我々が事故を起こしたのは事実。怪我人が誰も出なかったとは言え、村のシンボルに傷を付けてしまったのも事実。覚悟は出来ている…どんな罰でも与えてくれれば良い。」


「いや、そもそも何でタクシーに…」

「君ら、もしかして勇者一行じゃないか?」

別の刑事がリカブに問いかけた。


「そうだが…何故知っているんだ?」

「ホラ、昨日TVでやってたんだよ。地元の局が"魔王城潜入調査"とか言ってさ。アンタら、この辺じゃちょっとした有名人だよ。」

「民間人が魔王城に潜入調査だと…!?」

「私は気づいてましたけどね…背後からシャッター音が五月蝿かったですし…」

9万職員が気の抜けた声で告げる。


「何故教えてくれなかったんだ!9万!気付いていればすぐにでもスーツに着替えたのに!」

リカブは益々驚いた様子だった。


「そもそも魔王城でスーツは舐めてるだろう…」

刑事の1人が呆れた表情で言った。


「…だが、君達が勇者一行なら丁度良い。」

刑事が重々しく口を開いた。


「勇者に会ったら伝えてくれ――」


・ ・ ・


「成程…実質的な失業ですか…」

「そもそも勇者って職業に入るんですかね?」

ハローワークの受付に質問を投げかけた。


「内容がほぼ慈善事業ですからね…履歴書にも"無職"と書く他には…」


…知ってた。

雇用主すら居ない職業(職業かどうかも怪しい)なのに、"勇者だから"で就職に有利になる筈が無かった…。


「詳細は奥の相談スタッフにお願いします。864,377番カウンターへどうぞ。」

「ゑ?」

「すみませんが、お客様の専属スタッフの92,374番スタッフが只今不在でして…。恐れ入りますがそちらにお願いします。1週間もあれば辿り着けますので。」


(そういえば戻ってきてないな…逮捕されてなければ良いけど…。)


廊下の先の地平線に目を合わせ、深呼吸をした。


(……行きたくねぇぇぇぇ!!!)

…そう心が叫んでいる。


(86万なんちゃらカウンターって…この前の10倍近い距離じゃないか…!約900kmかよ!こんな長距離歩く位なら一生ニートでいいよもう!!!)

…心がヘドバンしながら愚痴を叩いている。


ちなみに900kmといえば、東京から北海道位の距離だ。フルマラソンに置き換えると大体10往復以上の――


「――やあ!遅くなって済まない、ヨシヒコ君!」

「勇者様、お待たせしました!」

聞き慣れた声が背後から響く。


「あっ!お客様!専属スタッフが戻りました!92,374番カウンターへどうぞ!」

廊下を見つめる僕に、受付スタッフが声を張り上げて伝えた。


「リカブさん!9万職員さん!大丈夫でしたか?」

2人のもとに駆け寄るなり、そう口にした。


「免許取り上げられましたぁ!」

「事の顛末については、道中話すとしよう。」

「いや、話ならココですれば良くないですか――」

「行くぞヨシヒコ君!カウンターへの旅路は長いぞ!寝袋も人数分あるからな!」

「取り上げられましたぁ!免許ォ!」


…引き摺られるように、僕は廊下の果てに吸い込まれていった。

僕達勇者一行の奇妙な関係は、まだまだ終わらなさそうだ…。


To Be Continued

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