ネッ友が憧れの先輩だった。

西水宮

第1話

 俺には、大好きな人がいる。 

 ずっと、一緒にいたいと思える人がいる。


 でも、俺なんかでは、あの人の隣になんて立てないから。

 だから、弱っちい俺はネットの世界に逃げた。




「シオンさん!左上行きました!!」


『了解、アサリは援護射撃よろしく!』


 オンラインシューティングゲーム、『Hunt×Hunt』。

 オンライン対戦やCPU対戦など、多数のモードのあるPCオンラインゲームだ。

 チャット機能をつけることでチームメンバーと会話が出来たりと、今この業界で最も勢いのあるゲームと言っても過言じゃない。


 そんなゲームの中で、俺、浅野あさの凛久りくは一人のユーザーと仲良くなった。

 そう、それこそがシオンさんだ。


 すべてが嫌になった時、俺はネットの世界に逃げた。

 そんなとき始めたこのゲームを、一から教えてくれたのがこの人だ。

 初心者だった俺に、あんな時はこうすれば良い、こういう時はこうすれば良い、と。


 そしていつしか一緒にプレイをするようになって。

 いつしか気軽に話すようになった。


 そんなシオンさんと一緒にゲームをする時間が、俺の最も安心する時間だった。


『よーし、倒した。回復持ってる?』


「あ、持ってます。結構削られましたか?」


 頼もしく、澄み切った声がパソコンから流れ出る。

 いいパソコンだからな、これ。ノイズなんて走らない。バイト代全部つぎ込んだ価値があったってもんだ。


『うん、意外と火力高くてさ』


「そうなんですね」


 時折、ゲーム内での話をすることがある。

 今日はこんなことがあった、あんなことをした、なんてしょうもない話から、上手くいっていない恋愛の話まで。


 そして明日、遂にシオンさんと初めて顔を合わせる。

 昨月から練りに練った、いわゆる〝オフ会〟だ。


 俺は、それが楽しみで楽しみで仕方がなかった。


『それじゃ、明日もあるし。早めに終わらせよっか。おやすみ』


「はい。楽しみですね、明日」


 そう言って、俺はパソコンの電源を切った。 




―———



 翌朝。

 俺は集合場所である駅前の花壇の前にいた。


「さすがに早く来すぎたか……」


 時刻は9時30分。集合時間である10時よりも約30分も早い。

 真冬の時期は乗り越えたが、まだ3月。三月の冷たい風が、冬の名残を告げている。


 こういうタイプのものはきっと、会うまでが一番楽しいんだろうな。どんな顔をしているんだろう、どんなことをしよう。

 そんなことを考えているだけの時間が、きっと楽しいんだろうな。


 手持無沙汰になったので、スマホに目を落とす。

 シオンさんとゲーム外でも会話をするためだけにインストールしたディスコードを開き、冷たい指で文字を打つ。


『あとどれくらいで着きそうですか?』


 青い背景にバスケットボールが描かれただけの、単純なアイコンから文字列が現れるのと同時に、画面の下に〝シオンが入力中〟と表示が出る。


『もう着いたよ、ソーラン節するから見つけてね』


『ちょちょ、それはやらなくて大丈夫です』


 どうやったらそんな発想が出てくるんだろう、と笑いながら、俺は周囲を見渡す。


「あの、アサリくん…で合ってるかな?」


 俺の後ろから、聞き慣れたシオンさんの声が聞こえる。俺は、合ってます、と言おうと体を捻る。


「……え」  


「あ」


 瞬間、時間が止まったように感じた。

 

 さらりと揺れる茶色の髪。

 まっすぐな漆黒の瞳。


 俺の目に映るシオンさんは、俺の〝大好きな人〟だった。


「詩織、先輩ッ!?」


「あさの…くんだっけ…?」


 それは、あまりにも衝撃が強すぎて。

 俺の頭のスペックでは、到底理解できなかった。




――――

いくつもの作品をボツにして、ボツにして、ボツにしてきました。

そんな中思った。

「年上女子って、良いよねッ!!」

すみませんね、作者の癖で。


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