異世界物鉄板の『人物鑑定チート』と『治癒チート』で最強ハーレムと最強軍団を作ります。戦いは数だよね。
麦野 酵母
第1話 野望は密かに、転生は突然に
高校からの帰り道、鈴木 健太(すずき けんた) は横断歩道の信号が変わるのを待っていた。
健太は、なろう系小説が大好きで、ややオタク気味だが平凡な高校生だ。
彼の密かな願い、それは「異世界に行きたい」「異世界でハーレムを作りたい」。
そんな妄想に耽りながら、歩行者信号が青に変わったのを確認して歩き出した。
何歩か進んだ、その時――
ブォォォォン!!
猛スピードで走る車の音が響き、信号無視の大型トラックが突っ込んできた。
「あ、死んだわコレ」
痛みを感じる暇もなく、健太の意識はブラックアウトした。
◇
「――おい、起きんか。お茶が入ったぞ」
健太が目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。
上も下も真っ白で、地面だか床だかは、ふわふわな雲の絨毯のようになっている。
目の前にはちゃぶ台と座布団が置かれており、浴衣を着た人の好さそうな爺さんが座って茶を啜っている。
「あ、どうも。……ここ、死後の世界ですか?」
「うむ、正解じゃ。わしは地球の神様じゃよ」
神様はズズッと茶を啜ると、いきなり本題を切り出した。
「ここにお前さんを呼んだのはな、異世界に行ってもらおうと思ってのことじゃ」
「……はい?」
「別の世界の女神ちゃんからな、『人族と魔族が長らく戦争をしていて、人族が押され気味でヤバい』と泣きつかれてのう」
神様の説明によると、その異世界の女神様は人族にジョブを与えるだけで手一杯で、神力に余裕がないらしい。
そこで余裕のある地球の神様に、「魂にチート級の強化をして異世界に送ってほしい」と依頼が来たそうだ。
「可哀想だから『いいよ~』って引き受けたんじゃ」
(……若い女神様に頼まれて即答かよ。この神様、絶対スケベ心でOKしたな)
健太は神様の軽薄な動機を察したが、口には出さなかった。
「で、お前さんを選んだわけじゃ。最近死んだ人の中で、一番異世界に行きたそうだったからのう」
「ありがとうございます。願えば叶うもんですね」
健太はガッツポーズをした。神様の動機はどうあれ、異世界転生の切符を手に入れたのだ。
「向こうの世界で使える『ジョブ』と『ユニークスキル』を一つずつ選ばせてやるぞ。ユニークスキルはお前さんしか持ってない特別な力じゃ」
「ありがとうございます! ……選ぶ前にまず、異世界のジョブや成長のシステムを教えてください」
「ほほう、慎重じゃな。よかろう」
神様が空中にステータス画面のようなものを表示し、詳しいシステムを説明してくれた。
健太は真剣な顔で考え込んだ。
(前線で俺TUEEEもいいが、俺の目標はあくまでハーレムだ。自分一人で戦うより、最強の美少女たちを侍らせて、安全圏から指揮したい……)
昔の偉い人は言っていた。「戦いは数だよ、兄貴」と。
そして、なろう小説の鉄板も忘れてはならない。「欠損のある訳あり奴隷を安く買って、治して最強軍団を作る」ことだ。
これを実現するために必要なのは、優秀な手駒を集める目と、彼女たちを治す力だ。
「神様、これだ」
健太は指を突きつけた。
「ジョブは、成長すれば欠損すら治せる最高位の『回復職』。スキルは、相手の才能と進化先が全て見えるユニークスキル『人物鑑定』。このセットでお願いします」
「ほほう……自分が無双するのではなく、他人を育てて戦わせるか。なかなか面白い考えじゃな。よかろう!」
神様が指を鳴らすと、健太の体が光に包まれる。
「向こうの女神ちゃんには話を通しておいた。あとは向こうで境遇を決めてもらうがいい」
◇
次に意識が戻った時、健太は荘厳な神殿のような場所にいた。
目の前には、疲れ切った顔をした絶世の美少女――異世界の女神様がいた。
「あ、あなたが地球の神様が送ってくれた魂ですね……。お待ちしていました」
女神様は神力が枯渇しているのか、少しフラフラしている。
「地球の神様から聞いていると思いますが……どうか、人族の英雄となって魔族を倒してください」
女神様の悲痛な願いに、健太は力強く頷いた。
「わかりました。任せてください」
(ついでにハーレムも作りますけどね!)
「ありがとうございます……。あなたには回復のジョブと鑑定のスキルが与えられています。最後に、生まれる境遇の希望はありますか?」
健太は即答した。
「魔族との戦いの前線じゃない、安全で裕福な領地の貴族の三男。あと、超絶イケメンでお願いします」
「……はぁ。まあ、前線でない方が育成にはいいかもしれませんね。わかりました。エヴァンス伯爵家の三男として転生させます」
女神様は溜息をつきつつも承諾し、最後の魔法を行使する。
「期待していますよ……」
女神様の声が遠ざかり、健太の意識は急速に赤子のものへと収縮していく。
(待ってろよ異世界。俺は最強の回復職になって、最高の美女軍団(ハーレム)を作ってやる――!)
「オギャァァァァ!!」
エヴァンス伯爵家の屋敷に、元気な産声が響き渡った。
後に「救済の聖王」と呼ばれ、最強の美女たちに愛されることになる男、リオン・フォン・エヴァンスの誕生である。
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