異世界物鉄板の『人物鑑定チート』と『治癒チート』で最強ハーレムと最強軍団を作ります。戦いは数だよね。

麦野 酵母

第1話 野望は密かに、転生は突然に

高校からの帰り道、鈴木 健太(すずき けんた) は横断歩道の信号が変わるのを待っていた。

健太は、なろう系小説が大好きで、ややオタク気味だが平凡な高校生だ。

彼の密かな願い、それは「異世界に行きたい」「異世界でハーレムを作りたい」。

そんな妄想に耽りながら、歩行者信号が青に変わったのを確認して歩き出した。


何歩か進んだ、その時――


ブォォォォン!!


猛スピードで走る車の音が響き、信号無視の大型トラックが突っ込んできた。

「あ、死んだわコレ」

痛みを感じる暇もなく、健太の意識はブラックアウトした。



「――おい、起きんか。お茶が入ったぞ」


健太が目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。

上も下も真っ白で、地面だか床だかは、ふわふわな雲の絨毯のようになっている。

目の前にはちゃぶ台と座布団が置かれており、浴衣を着た人の好さそうな爺さんが座って茶を啜っている。


「あ、どうも。……ここ、死後の世界ですか?」

「うむ、正解じゃ。わしは地球の神様じゃよ」


神様はズズッと茶を啜ると、いきなり本題を切り出した。

「ここにお前さんを呼んだのはな、異世界に行ってもらおうと思ってのことじゃ」

「……はい?」

「別の世界の女神ちゃんからな、『人族と魔族が長らく戦争をしていて、人族が押され気味でヤバい』と泣きつかれてのう」


神様の説明によると、その異世界の女神様は人族にジョブを与えるだけで手一杯で、神力に余裕がないらしい。

そこで余裕のある地球の神様に、「魂にチート級の強化をして異世界に送ってほしい」と依頼が来たそうだ。

「可哀想だから『いいよ~』って引き受けたんじゃ」

(……若い女神様に頼まれて即答かよ。この神様、絶対スケベ心でOKしたな)

健太は神様の軽薄な動機を察したが、口には出さなかった。


「で、お前さんを選んだわけじゃ。最近死んだ人の中で、一番異世界に行きたそうだったからのう」

「ありがとうございます。願えば叶うもんですね」

健太はガッツポーズをした。神様の動機はどうあれ、異世界転生の切符を手に入れたのだ。


「向こうの世界で使える『ジョブ』と『ユニークスキル』を一つずつ選ばせてやるぞ。ユニークスキルはお前さんしか持ってない特別な力じゃ」

「ありがとうございます! ……選ぶ前にまず、異世界のジョブや成長のシステムを教えてください」

「ほほう、慎重じゃな。よかろう」


神様が空中にステータス画面のようなものを表示し、詳しいシステムを説明してくれた。

健太は真剣な顔で考え込んだ。

(前線で俺TUEEEもいいが、俺の目標はあくまでハーレムだ。自分一人で戦うより、最強の美少女たちを侍らせて、安全圏から指揮したい……)


昔の偉い人は言っていた。「戦いは数だよ、兄貴」と。

そして、なろう小説の鉄板も忘れてはならない。「欠損のある訳あり奴隷を安く買って、治して最強軍団を作る」ことだ。

これを実現するために必要なのは、優秀な手駒を集める目と、彼女たちを治す力だ。


「神様、これだ」

健太は指を突きつけた。

「ジョブは、成長すれば欠損すら治せる最高位の『回復職』。スキルは、相手の才能と進化先が全て見えるユニークスキル『人物鑑定』。このセットでお願いします」

「ほほう……自分が無双するのではなく、他人を育てて戦わせるか。なかなか面白い考えじゃな。よかろう!」


神様が指を鳴らすと、健太の体が光に包まれる。

「向こうの女神ちゃんには話を通しておいた。あとは向こうで境遇を決めてもらうがいい」



次に意識が戻った時、健太は荘厳な神殿のような場所にいた。

目の前には、疲れ切った顔をした絶世の美少女――異世界の女神様がいた。

「あ、あなたが地球の神様が送ってくれた魂ですね……。お待ちしていました」

女神様は神力が枯渇しているのか、少しフラフラしている。


「地球の神様から聞いていると思いますが……どうか、人族の英雄となって魔族を倒してください」

女神様の悲痛な願いに、健太は力強く頷いた。

「わかりました。任せてください」

(ついでにハーレムも作りますけどね!)


「ありがとうございます……。あなたには回復のジョブと鑑定のスキルが与えられています。最後に、生まれる境遇の希望はありますか?」


健太は即答した。

「魔族との戦いの前線じゃない、安全で裕福な領地の貴族の三男。あと、超絶イケメンでお願いします」

「……はぁ。まあ、前線でない方が育成にはいいかもしれませんね。わかりました。エヴァンス伯爵家の三男として転生させます」

女神様は溜息をつきつつも承諾し、最後の魔法を行使する。


「期待していますよ……」

女神様の声が遠ざかり、健太の意識は急速に赤子のものへと収縮していく。


(待ってろよ異世界。俺は最強の回復職になって、最高の美女軍団(ハーレム)を作ってやる――!)


「オギャァァァァ!!」


エヴァンス伯爵家の屋敷に、元気な産声が響き渡った。

後に「救済の聖王」と呼ばれ、最強の美女たちに愛されることになる男、リオン・フォン・エヴァンスの誕生である。

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