第17話 幼なじみは遠慮なく巻き込む
「カーノっ」
「げっ、マリとシュン!」
翌日の昼休み。
僕は真理亜と二人で、教室を出て中庭へとやってきた。
田舎の高校だけあって敷地だけは広く、中庭もむやみやたらと広大だ。
僕らの幼なじみ、小さな小日向花音は中庭のあちこちに設置されたベンチの一つに座っていた。
「あれ、カノ。なに持ってるの?」
「こ、これは……懐中電灯よ!」
「真っ昼間に?」
真理亜に突っ込まれるまでもなく、あまりに苦しい嘘だった。
花音は膝にお弁当箱を乗せ、左手にスティック状の物体を持っている。
「それ、アクションカムってヤツ?」
「し、知ってんの、シュン」
「使ったことはないけどね」
ガジェットレビューの配信者の動画で観たことあるってだけ。
自撮り大好きな陽キャの御用達って感じだけど、面白そうなカメラではある。
「いえーい。私も撮って撮って」
真理亜は花音の横に座り、肩を組んでピースなどしている。
「ちょ、ちょっと、あんたらなにしに来たわけ?」
「カノ、なんで一人でご飯食べてるの?」
「別にいいでしょ! あたしはランチは一人で楽しみたいってだけ!」
「この唐揚げ美味しいね。そういえば、カノのおばさんって料理上手だったっけ」
「なんで勝手に食べてんのよ!」
残念ながら、真理亜は幼なじみに対してはまったく遠慮がないんだ。
「……ねえ、今日のマリ、テンション高くない?」
「昨日は前々からやりたかったこと、駿太と一緒にやれたからだよ」
真理亜が、にこにこ笑いながらきっぱり言い切った。
「やりたかったこと? なにそれ?」
「えーっと、それはどうでもよくて」
真理亜が余計なことを言いそうになったので、僕は素早く遮る。
「花音のお弁当、本当に美味しそうだね。撮りたくなるのもわかるな」
「そ、そう? ママ、毎日凝ったお弁当つくってくれて――って、そうよ、なにしに来たのかって訊いてんのよ! ダル絡みしにきたの!?」
「カノ、どうせ暇だよね?」
「言い方!」
「真理亜、僕から話そうか?」
「なにか知らないけど、あたしもそのほうがいいわ……マリとしゃべってると、どっと疲れるのよね……」
「えー、そんなこと言うなよお。もっとおしゃべりしようよ、カノ~」
「ダル絡みするな! あたしら、そんな仲良しじゃないでしょ!」
頬ずりしてきた真理亜を、花音が嫌そうに引き剥がそうとしている。
うーむ、百合好きが見たらヨダレを垂らしそうな光景だな。
小さい花音と大きい真理亜、対照的な組み合わせもまた喜ばれそうだ。
「で、なに? シュン、あたしご飯食べるんだから話はさっさと済ませてよ」
「わかった、わかった。花音、暇だよね?」
「あんたもマリと同じ言い方!」
「あ、そうだ。つい、真理亜につられて」
「あたし、昔から思ってたけど、シュンとマリってちょっと似てるよね? そのノンデリなところとか」
「僕、ノンデリかなあ?」
一応、気遣いはしてるぞ。
特に如月さんとか、クラスの女子たちには。
「シュン、黙らないでよ。なんか怖いから。ああ、もうっ、全然話が進まない!」
「わー、今日は水玉パンツだ。私、水玉なんて初めて見たかも」
「ぎゃあーっ! またスカートめくってる!」
真理亜が脈絡もなく花音のスカートをめくり、水玉模様のパンツがあらわになっている。
ギャルっぽい見た目に似合わず、可愛いパンツをはくんだなあ。
「なんか私、カノのパンツ見るのが楽しみになってきちゃった」
「きちゃった、じゃねーんだわ! あんた、いい加減にしてよ! シュン、教育はどうなってるのよ!」
「僕のせいにされても……」
この真理亜を教育できる人間は、渡瀬の祖母くらいのものだろう。
樹里亜さんは放任してる感じだしね……。
「ちょっとね、花音を誘いにきたというか」
「あたしに誘いって?」
「旅館わたがせに別館があるんだけど……」
「あー、あのホラーが始まりそうな古い洋館? まだあったのね、あそこ」
「あれ、花音は知ってるんだ?」
これは意外な反応だ。
「知ってるって……シュンも何度か行ってるでしょ、あそこ」
「そうだっけ?」
僕も行っていてもおかしくはないけど、記憶になかったんだよな。
あんなインパクトのある建物なのに。
嫌なことでもあって、無意識に記憶から封印してるのかな。
ラノベでもよくあるパターンだ。
「とにかく、あの別館は今は使われてなくて。真理亜が使えるようにして、ちょっとしたたまり場にしようとしてるんだよ」
「た、たまり場っ!」
「え、そんな食いつく?」
花音はいつも怖い目をしてるのに、今はらんらんと輝いてる。
「たまり場……アオハルっぽいじゃん……! あたし、そういうのやりたくて、あの上品なだけの女子校を抜けてきたんだから」
花音は、ぶつぶつとつぶやいている。
この幼なじみも数年離れていた間にいろいろあったようだ。
「ただ、あの別館ってけっこう広くてさ――って、花音は覚えてるんだからわかるか」
「そんなにはっきりとは覚えてないわよ」
「そこまでわかってるなら話は早いな。別館を使えるようにするには、人手がほしいんだよね」
「私、お祖母ちゃんにお伺いを立ててみたんだけど」
「うっ、あの怖そうなおばあちゃん……」
「怖そうじゃないよ。怖いんだよ。恐怖の終身独裁官なんだよ」
「なんで真理亜、悪口言うときだけボキャブラリーが豊富になるの?」
どこから出てきた、そのワード。
カエサルだっけ?
「で、その独裁者に訊いてみたら、好きに使っていいし、好きに人を呼んでもいいって。その代わり、使うなら自分らで片付けも掃除も全部やれって」
「なるほど、そういうことね……」
花音が、こくこくと頷いてる。
「家具とかは、旅館の蔵にあるものも使っていいみたい。運び込むのは自分らでやれって。けど、私らだけじゃ大変だからタダで使える労働力――じゃなくて、仲良しの幼なじみの力を借りたいなって」
「……マリがあたしをどう思ってるかはよくわかったけど、悪い話じゃないわね」
あ、悪い話じゃないんだ。
花音、疎遠になる前よりもツンツンしてるからソッコーで拒否られるかと思ってた。
そこからどう言いくるめるかが僕の役目――って、真理亜に頼まれたけどこいつは僕をなんだと思ってるんだ?
「い、いえ、待って。ただのたまり場に集まるなんて不良みたいじゃない?」
「不良とはまた古めかしいね。でも、大声で騒ぐのはまずいからね、あの別館は。わたがせの本館に聞こえるような大声で騒いだら、おばあさんに殺されるよ。真理亜はもちろん、僕らも」
あの厳しいご老人は、孫の幼なじみだろうと容赦しない。
樹里亜さんも、母であるおばあさんにはかなわないみたいだしなあ。
「一応、別館のコンセプトはあるよ。真理亜さん、どうぞ」
「はい、真理亜が命名しました。私が困ってるみなさんが好きに過ごしてもらうお部屋を用意しました――名付けて、“やりたいことをやる部屋”です!」
「やりたいことをやる部屋……ちょっと、略称を先に考えたんじゃないでしょうね!?」
「花音も変なところで頭が回るなあ」
花音は顔が赤くなっている。
僕が真っ先に思いついたのと同じ略称を思いついたようだ。
「あ、でも真面目な話をすると」
「なによ?」
「他にやることあるなら、無理して参加しなくていいから。半分遊びみたいなもんだし」
「遊びならなおさらでしょ! あたしだけハブるなんて――って、別に寂しくないし!」
「寂しいって言ってるようなも――むぐぐ」
余計なことをだいぶ言った真理亜の口を、僕は急いで手で塞ぐ。
「花音、手伝ってくれるってことでいいんだね?」
「しょうがないわね。さすがに毎日ってわけにはいかないけど……あたしも、一応やることあるし?」
なんか見栄を張ってる感じだけど、気にしないことにしておこう。
「もちろん、そうだろうね。花音にもプライバシーがあるし、なにかまでは訊かないでおくけど」
「ふん、あたしにだって、あんたら以外との付き合いがあるんだから」
「へー、カノに友達いるんだね」
「いるわよ!」
僕一人で来るべきだったかなあ?
この二人、すぐに昔の関係性に戻ったのはいいけど、戻ったのが“いつもわーわーケンカしてる幼なじみ”だからね。
疎遠な幼なじみ同士のほうが扱いやすくて、僕には助かったかも。
「と、とにかく……話はわかったけど、もう一つ訊きたいことがあるわ」
「なに?」
「あいつ……あの悪魔は?」
「悪魔って……あー、
今の今まで、その名前を思いつかなかった。
確かに、僕と真理亜、それに花音の三人で組んでなにかをするなら――
森理緒が関わってきてもおかしくない。
「今のところ、理緒は関係ないよ。そもそも、あいつは忙しいでしょ」
「……遠回しにあたしは暇だって言ってない?」
「考えすぎだよ、花音」
僕はにっこり笑ってごまかす。
うん、実は暇そうだなと思って声をかけました。
「リオンか……私の計画の邪魔にならないかな」
「真理亜、検討しなくていいから。とりあえず、この三人でやってみよう」
「うん、そうしよっか」
真理亜はこくりと頷いた。
ふう、別に理緒に思うところはないけれど、巻き込むのも気が引ける。
あいつはちょっと、僕らとは違う――違う世界の人間になったからな。
「それで、カノ。手伝ってくれるなら、まず言っておくことがあるんだよね」
「ん? なによ、マリ」
「あのさ――」
真理亜は、むぎゅっと自分の胸を持ち上げて言った。
「実はね、駿太とエッチなことしちゃった♡」
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