あなたの歪んだあやふやな世界

伏見

第1話 かめ

 わっ!こんなところからカメが首を伸ばして出てこようとしている!

 

 ドアの下の角、ガラスが割れて小さな穴が開いていた。そこからカメがすごい勢いで出てこようとしているのが見えた。


 ーーー


 雄大、さっき部屋からカメが出ようとしてたよ。

 

 そうなの?やだよ俺。


 部屋に入るや否や息巻いて話し出す風香。その勢いに反射神経よく返す雄大。

 

 風香はどさっとスツールに座った。風香の背中にゆっくりと体をくっつけて擦り寄ってきた雄大。ごく自然にくっついてきた。

 

 2人は互いに手を握りながら、風香は雄大の体に身を預けながら、両手を握り大きく上に腕をあげる。


 雄大の手が風香のお腹へと張ってきて抱きしめる形になった。

 

 壁際のテーブルには、旅行用のカバンが置いてある。

 

 古びたアパートの狭い部屋。昔の古い校舎のような趣のあるアパート。

 

 壁際の椅子に座って飲み物を飲みながらこっちをゆっくりと眺めている男が1人。

 

 最初の第一声のノリのいいあっさりとした雰囲気とは違い、滑らかに絡み合っていた2人。


 だが急にすっと離れると奥の男と話したり、楽しい雰囲気が流れていた。

 

 唐突に風香は雄大の手を握った。

 

 俺、そんなことせえへん。

 

 咄嗟に握られた手を振り払い、ニヤッと笑う雄大。

 

 そのままさっと部屋を出て行った。空を見つめる風香。

 

 さっきまであんなにとろけるようにいたのに。

 

 付き合いたい、私のものになって。って、言っちゃダメなのかな。

 

 ふと頭に浮かぶワードだが、言葉にはしなかった。

 

 そうすると変な感じになっちゃうから。自分がまるでわがままな嫌な女に見えそうだったから。

 

 テレビでもついているような、明るい雰囲気の部屋にいた。


 壁についている黄色いランプがガラスのシェードでキラキラしているから。

 

 口笛を吹きながらどこからともなく雄大がまた部屋に入ってくる。


 いつの間にか部屋には心地のいい音楽が廊下から聞こえてきた。


 遠くから、おしゃれで賑やかだけど心地よいリズムは、この場のフローが一瞬で最高の煌めきに見える。

 

 キラキラのランプ、木の落ち着いた焦茶色の部屋、ガラス窓があるドア。


 雄大の人懐っこい笑み、この雰囲気を壊さずになじみきっている奥で座る男。

 

 このフローやばい。

 

 風香は一瞬大きく息を吸った。フッと息を出し終わったすぐ、雄大がまたなんとな、くくっついてきた。

 

 風香はまたゆったりと背中を雄大の胸に預けた。


 雄大はなんだか音楽に乗せて少し左右に揺れている。雄大のつけているネックレスがチャリチャリとなる。

 

 それに合わせて風香も揺れる。

 

 いつの間にか雄大の透き通った歌声が背中を伝ってくる。

 

 そして鼻歌混じりで首筋に唇を這わる。ゆっくりと揺れる雄大と風香。

 

 耳たぶをカプッとはむる雄大はまたニヤッと可愛い笑みをしていた。

 

 こら!とすぐに振り返り耳を抑える風香。ぷくっと頬を膨らませ上目遣いで雄大を見てる。

 

 同じように上目遣いで睨み返すお茶目な雄大の姿に、もう。と呆れ笑いの風香。

 

 雄大はまたスルッと背中にくっついて風香を抱きしめる。

 

 オレンジ色のランプの色に照らされていつまでも心地いい時間を過ごす。

 

 付き合う?風香がいう。

 

 そんなんせーへん。

 

 と、ニヤリと笑う雄大。

 

 ふん。と、風化が膨れっ面をする。

 

 ぷうとふくれた顔をしてたが、ニヤリと憎めない笑みに釣られて風香はフッと笑った。

 

 甘い甘い。

 

 雄大は、スルッと体が離れてまた部屋を出て行った。


 廊下では口笛が響いていた。

 

 カメの夢はなんだろう。

 

 願いが叶い、健康状態が良く、金運を引き寄せ、焦らず自分のペースで努力すれば成果が出る。とな。

 

 思わず検索する風香。

 

 カメが逃げる・逃がす: 欲しいもの(お金、恋愛など)が手に入らない葛藤や、お金が出ていく予兆。by AI解答。


 ふーん。

 

 何も信じないぞ。

 

 雄大の口笛が遠くで聞こえてる。

 

 今はこれだけでいいかな。


 呆れ顔だった風香だが口に手をあて、しばし考え出した。


 男は言った。なんか気になる?


 よし、やっぱ言おう。


 風香はそういうとすくっと立ち上がり、廊下に出た。


 ねえ、私の男になって。雄大の袖を引っ張って風香は言った。


 え?あ、うん……。照れて頭をかきながら今度はニヤリではなく、頬を赤らめながら歯に噛むような表情で返事をした。


 優柔不断なのは雄大の方だった。


 風香はすっきりとした顔をしていた。雄大は微笑みながら風香の手を握った。


 end

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あなたの歪んだあやふやな世界 伏見 @fushimi-a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ