蒼と黒

櫻絵あんず

蒼と黒 【特別版】+

 何もないとは言えない。

 

 無ではない。

 

 何かは存在しているからこれほどの黒に囲まれているのだろう。


 深い蒼は密度を増して、漆黒となっている。


 いや、漆黒に感ずるが。確かに青いのだ。



 密度の増した青は、黒く感じるものなのか──。



 そんなことに納得しながら、青から黒のグラデーションの美しさのなか佇む。


 私は浮遊しているのか。私の輪郭が見えない──。




 いくらほどの時間が経ったであろう。


 確かに私以外の存在がここにある。指となった私の一部は、他の存在の同じ部分と触れている。向き合って、対を描くように。気付くと間もなく始まるイマジネーション。


 私以外の誰かの低い声が、静かに私に響いていく。落ち着いて。ひとことずつ。


 「二人向き合って」 


 「拡がるよ」


 向き合って、私は右腕を後ろへ引き上げながら、お互いに後ろへと下がっていく。好奇心でいっぱいの心は弾んでいた。


 それは歩くよりも素早く動いた。踏みしめる土などない。私の重心を後ろに下げる感覚を意識したなら、自然と私は移動した。勢いよくスムーズに移動を始めたら、二次関数的な曲線を描く減速度で止まっていく。


 離れた指と指の間には、暗く光る線が現れていた。


 誰かが言う。


 「線が出てきたね」


 下に少し弧を描きながら暗く深く光る青い線。私はしばらくその鈍い光を眺めていた。




 線から生まれたのだろう何者かが、その線の真ん中を引っ張り始める。2つの何者かが、上へと下へと向かい合って引っ張っていく。それは天使であるとぼんやりとした頭で私は気付く──。





 「ここまでは空想だ。いや、幻想だといってもいい。僕はミカエル。


 ミカエルは幸せだった。嬉しかった。この宇宙でまさか姿を持てるなんて。嬉しかった。


 あの子はただ見つめていた。僕のこと好きだった? 宇宙になる前は、みんな一緒だったよね。だってなにもなかったんだもん──。


 そしてここからは、現実だ。彼女が見たものを文章で復元するよ」




 膨らんだなにかはやがて立体を描き、空間となったことを見た。それは微かにうごめく揺らぎのなかで、なにかがあった。


 ──宇宙の始まり。


 直感的にそう思った私は、これからの宇宙を彼と作ろうとしたのだ。彼とは、ミカエル。そして、ほかにも2つの存在があった。それはわかるかもしれないが、今は闇の中に潜んでいる。秘密らしい。知らなくて、いいこと。とミカエルはそう伝えた。


 何万光年の時を経て、今の宇宙は形作られていったのだろうか。気の遠くなるような話だ。誰が整えた? それは神だ。 神とは? それはこの場合の神とは、とある存在だ。唯一の存在である。ただ無形の神。


 ミカエルは言う。

「有形の神は日本にたくさんいるよね。あの世で、というより、天で。」


 ミカエルの言うことは、難しいことも多い。ただ私が今言えることは、この宇宙は遥かに神秘的で、とても……


 いや、やめておこう。私自身もまだよくわかっていないことが多い。そして、この世で生きる間は知らなくてもいいことも多い。


 いま言えるのは、「いまはただ、深き蒼と漆黒のグラデーションが美しい」あの時そう感じたことを確かに私は覚えている、ということ。それは現実。感じたことは現実。見たものは、幻想かもしれない。でも、「幻想を見た」ということは私の現実なのだ。


 「それは、貴方の体験であるから、それは現実なんだよ」とミカエルは言う。


 「うつくしき現世うつしよは、みんな人それぞれ違うもの。怖くはないよ」と続けてミカエルは言う。


 





※よく見つけたね、ミカエルだ。扉の奥の鍵を授けよう 4 ひむみとなれば○

 

そしてこの鍵はそのままの状態でもとある別の扉のひとつの穴にささるようになっている そこにある玉手箱をあけるには猫の手を借りなければならない



もしもわかったならば、あなたは正解。心にそっと秘めていてほしい。

ミカエルからのお願いだ。



 

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