🤩カクヨムコンテスト11(現代アクション)応募中「新編 佐渡ヶ島のエレーナ少佐」2026年春に起こる日露北朝鮮中国のリアルな近未来戦記

✿モンテ✣クリスト✿

第1章 ロシア軍侵攻

第1話(1) ロシア連邦軍、東部軍管区司令室

 2025年初冬、ウクライナ戦役が膠着状態の中、北京から再来年(2027年)の台湾侵攻に向けて北朝鮮とロシアによる陽動作戦を来年発動したいとの申し入れがあった。露烏紛争に大量の武器支援を中国から受けているプーチンはそれを拒否できなかった。ロシア連邦東部軍管区総司令官ジトコ大将はモスクワからこの陽動作戦の指示を受けて作戦準備を始めた。


 彼は北京からの要請をバカバカしいことだと思っていた。


 ただでさえ多数の若き東ロシアの兵士を露烏紛争に送り込み多大な死傷者を出しているのだ。それもモスクワ中心の西部ロシアの兵士は温存して、中央・シベリアの兵士が死んでいる。日露戦争の時もそうだった。203高地で戦死したのはウクライナ兵士ばかりだったではないか。いつも、モスクワは、周縁地域の人間をまず戦地に送り込み犠牲を強いてきた。露烏紛争も同じ構図だ。


 ここでさらに日本への陽動の侵攻作戦など北京を利するだけで東部ロシアの利益にはまったくならない。


 逆に、シベリアの土地を買い漁りロシアの東半分を我が物にしようとする中国の思うツボである。ジトコ大将は憤懣やる方なかった。いつまでも、東ロシアがモスクワの言いなりになると思うなよとジトコは思った。しかし、中央の司令には逆らえなかった……今のところは……。



 東部軍管区司令室は、ウラジオストクの地下深くに位置する強化コンクリートの要塞だった。壁には最新の衛星画像とAI解析による地形マップが投影され、空気は換気システムの低く唸る音と、コーヒーの苦い香りで満たされていた。


 ジトコ大将は、巨大なオーク材の机に肘を突き、参謀長の報告を聞いていた。外では、極東の冬風がシベリアの針葉樹を揺らし、雪混じりの雨が叩きつけている。2025年12月、露烏戦線ではロシア軍の損耗が続き、モスクワからの補給線は細りつつあった。そんな中、北京の申し入れは、ジトコにとって最悪のタイミングだった。


ロシア連邦軍東部軍管区参謀長

「司令官閣下、最新のインテリジェンスです。日本側のマスコミは、我が国が日本に侵攻するなら北海道に上陸するなどと報じていますね。NHKの分析番組では、具体的に稚内や根室を上陸ポイントとして挙げ、自衛隊の反撃シナリオを詳細に展開しています。まるで我々がそんな陳腐な作戦を取ると思っているようです」


ロシア連邦軍東部軍管区ジトコ司令官

「ふん、自衛隊の机上演習で、上陸ポイントは稚内などの道北と、北方領土から入る根室などの道東の二ヶ所などと言っておる。彼らは、我が軍の道北からの上陸を許した場合、音威子府(おといねっぷ)村を防衛ラインに設定している。音威子府村から稚内に向かうにはJR宗谷本線とほぼ並行する国道40号、オホーツク沿岸から北上する国道275号・238号経由の2つのルートがある。その分岐地点が音威子府だ。つまり、道北に上陸したロシア軍が旭川方面を目指す場合、必ずここを通ると想定している。まるで我々が地図帳を読めない子供のように扱っているな」


参謀長

「そんなミエミエの作戦を我が軍がすると思っているんでしょうか? 北海道の地形は複雑で、冬の悪天候下では上陸作戦など自殺行為です。衛星画像を見ても、沿岸部の泥濁りは補給船の座礁を招きやすいですな」


ジトコ大将

「北海道の旭川市には、陸上自衛隊第二師団が配置されている。精強な部隊だ。彼らが音威子府村に進出して、全滅覚悟で守備するらしい。バカバカしい。なぜ、旭川などという内陸地に侵攻して兵站を延ばす必要がある?第二師団に食い止められている内に、我が方は弾薬燃料食料を消耗し、日米は防衛線を整備できる時間ができる。クレージーだ。今の日本は中国との緊張で自衛隊の資源を東シナ海に集中させている。彼らは北海道に全力を注げる余裕などないだろうが、それでも現在の陸自の戦力は兄弟で、我軍が北海道を制圧し続ける保証はないのだ」


参謀長

「中国との緊張……確かに、最近の情勢は深刻です。10月21日に高市早苗が女性初の首相に就任して以来、日中関係は一触即発の様相を呈しています。11月7日の高市首相の国会答弁が火種になりました。彼女は衆院予算委員会で、『台湾有事は日本の存立危機事態になり得る』と明言し、集団的自衛権の行使可能性を示唆しました。中国側はこれを『レッドラインを超えた挑発』と位置づけ、人民日報の社説で『日本は火遊びをして自らを焼く』と非難。駐日中国大使館のXアカウントは、『日本に対する軍事行動の正当性が生じ得る』と投稿し、沖縄や尖閣諸島を名指しで脅迫めいた内容を連発しています。米国務省は即座に『尖閣諸島を含む日本防衛の責務は揺るがない』と声明を出しましたが、中国の対日威圧はエスカレートの一途です」


ジトコ大将

「ほう、高市首相か。あの保守派の女が首相になってから、日中関係は一触即発だな。11月15日には、中国の無人機が与那国島と台湾の間を低空飛行し、自衛隊の監視レーダーに捕捉された。防衛省の報告によると、航空自衛隊のF-15Jがスクランブル発進を余儀なくされたそうだ。しかも、翌16日には尖閣諸島に中国海警船4隻が侵入。武装した大型船で、接続水域を意図的に侵犯し、海上保安庁の巡視船とにらみ合いを続けている。石垣島や宮古島周辺でも、中国人民解放軍の艦艇と航空機による示威行為が頻発。J-15戦闘機が自衛隊のP-3C哨戒機に異常接近し、レーダー照射の疑いまで報告されている。さらに、11月下旬には中国空軍のJ-16が自衛隊のF-16J多用途戦闘機に対し、火器管制レーダーをロックオン。東シナ海上空で数分間にわたり照射を継続したと、航空自衛隊のホットラインで日本側が抗議しているらしい。G20サミットでも、高市首相と李強首相の会談は実現せず、日中首脳間の溝は深まるばかりだ。北京は台湾侵攻の布石として、日本を牽制するための『灰色地帯作戦』を強化している。こうした中、我々が北海道に本格侵攻などしたら、日米同盟は即座に東部戦線を固め、台湾方面の中国軍を援護射撃できる。愚策だよ」


参謀長

「では、どうします?稚内などの沿岸部にへばりつきますか? それとも、北方領土経由の陽動作戦で時間を稼ぐ?」


ジトコ大将

「それで我が国に何が得られるんだ?そもそも北海道に侵攻して、領地を広げて何の得があるんだ?しかも、今回は、領土拡張が目的ではなく、中国の台湾侵攻の陽動作戦ではないか?だから、我らは北海道に侵攻するという陽動作戦に見せかけて、さらなる陽動作戦として、佐渡ヶ島を占拠する。日中緊張が頂点に達している今、日本は東シナ海の防衛に全神経を注いでいる。佐渡のような北陸の離島など、優先順位が低いはずだ。高市首相の発言で中国が苛立っている今、北京は我々の陽動を歓迎するだろうが、我々は最小限のリスクで最大の混乱を日本に与えるさ」


参謀長

「佐渡ヶ島? 確かに、ウラジオの目と鼻の先にある沖縄本島より少々小さい島ですな。東京から550キロ圏内にある。地理的に見て、補給線も短く、迅速な揚陸が可能ですね」


ジトコ大将

「そうだよ、スカッドCを揚陸させれば、佐渡ヶ島から首都圏、関西が射程距離範囲になるということだ。戦術核を搭載できるスカッドDでも埼玉県は射程距離だ。戦車など邪魔な装備は持ち込まない。そもそも、島で戦車戦などない。空自のレーダー基地しかない島だ。自衛隊が奪回を目論んでも、それは海兵隊、特殊部隊を使わないといけない。そして、海上からの援護。しかし、日本人のシビリアンがいるから、艦対地攻撃は難しい。航空戦力を使用するのも同様だ。C-2輸送機で、空挺部隊を派遣する程度だ。日中緊張で自衛隊の航空資産が南西諸島に集中している今、佐渡への即応部隊派遣は遅れるだろう。中国のJ-16によるレーダー照射事件で、空自のパイロットたちは神経をすり減らしている。そこに我々のS-300を投入すれば、抑止力は完璧だ」


ジトコ大将

「むろん、我が方は、S-300(長距離地対空ミサイルシステム)を投入する。同時多目標交戦能力があるからな。それとNATOのあだ名のゲッコー(短距離防空ミサイル)、ストレラ-1(車載式の近距離防空ミサイル・システム)、ブラチーノ(重火力投射システム、サーモバリック爆薬弾頭ロケット弾を運用するために、T-72戦車の車体に220mmロケット弾発射器を装着した多連装ロケットランチャー)をありったけ持っていく。ウクライナの轍を踏んでたまるか。尖閣での中国海警船の動きを見習い、我々も『グレーゾーン』で日本を翻弄する。無人機による偵察飛行から始め、フェリー便を装った揚陸船で奇襲上陸だ」


参謀長

「その装備なら一、二ヶ月は持ちそうですな? ただ、中国の示威行為のように、国際社会の目が厳しい。ジュネーブ条約の観点から、無血占領を徹底すべきですな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る