「見つけた」
るる
第1話
「はあっはあっ…」
ドンッ
「あっすみません!」
すれ違ったおじさんの肩にぶつかってしまった。衝撃で飛ばされたのは私で、おじさんはこちらを見ない。眉間にシワを寄せて、肩を手で払っていた。
「ほんとすみません!」そう言いながら立ち上がり、私はまた小走りで待ち合わせ場所に向かっていた。息が苦しい。
大遅刻だ。1時間も待たせている。
チラッと右手に持った携帯を見る。
ピコン「そろそろ着きました?」
やばいやばい、返事をする間もない。土曜の14時、大混雑する駅構内を再び「すみません」と呟きながら目的地に進んでいた。ふと顔を上げると左右に階段が見えた。
(ところで待ち合わせ場所はどこだったっけ?)
もう一度携帯の画面を見る。
ピコン「大丈夫ですか?」
ピコン「ドトールの前に居ます」と立て続けにメッセージが届いた。
(ドトール?右かな?)
自身の方向音痴を都合よく忘れ、右の階段を駆け降りる。
ドトールはなかった。私と待ち合わせているスーツを着た男も見当たらない。
(くそっ、左だったか)そう悪態をつく。
携帯に「もう着きました」と小さなウソを打ち込みながら、来た道を戻る。
すぐに返事が来た「え。どこですか?」「何色の服を着ていますか?」握りしめた携帯が何度も鳴る。
(ちょっと待ってよ!)
履き慣れないパンプスで足が痛い。
焦りが苛立ちに変わりかけた時、背の高い細身のスーツ男が見えた。
ピコン「見つけた」
真っ直ぐこちらを見ている男に若干の恐怖を感じながらそろりと近づく。
「お待たせしました」と小声で声をかけてみた。
「大丈夫ですよ。突然呼んですみませんでした。では行きましょうか。こっちです」そう言って私の半歩先を歩き始めた。
目の前のシワ一つないスーツに向かって私は話しかける。「初めて来ました」「俺もです」「ですよね。」そう笑い合いながら私たちはホテルへと向かった。
「見つけた」 るる @after2200
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