第2話 かわいい姫くんは、かわいい親友にいろいろ話す。

「……お付き合いは、できません」


「話を聞いてくれてありがとう」

 初めて話した先輩。


 今回も、無事に終わった。

『かわいいなあ、って』

 かわいくて女子にフラれた僕が、男子からはかわいいからと告白をされる。

 先輩たちから見える僕は、どんな僕なのかな。



 中三の修学旅行。

『姫と一緒、楽しい。写真撮ろ!』


 二人きりになったとき、そう言われた。

 今だ、と思った、僕の告白。

 かわいすぎるからって、笑顔で断られて。


『ありがと。これからも仲よくしてね!』

 写真は、ちゃんと撮った。

 それからも仲よくできてはいた、と思う。


 卒業式の日。連絡先とかぜんぶ、消去した。辛くて泣いたりも、した。

 でも、告白したことじたいは、後悔してない。


 こんなことも考えたりできるのは。

 電車のイケメンさんのおかげ。


「いつもより丁寧な断り方だったな。なんかあった?」

 念のため、控えてくれていた親友。


「星、うん。あと、ありがと」

 星和彦ほしかずひこ

 茶髪と日に焼けた肌の、快活系。

 僕は黒髪、白い肌。


 名字からの姫な僕、織姫と呼ばれる星。星って呼ぶのは、僕くらい。


『姫系美少年が二人ぃ!』

 入学してすぐ、星に織姫と名付けた人は、生徒会長。ゴリゴリマッチョの優しい先輩。

 よく分からないけど、ドール? が好きで、『ドール研究会』会長さんでもある。

 かわいいときれいが大好きみたい。


『二人になにかあれば……分かってるな?』


 会長さんが声と力こぶとで釘をさしてくれたおかげで、姫扱いはされながらも、平和に過ごせている。こういう告白は、二人で気を付け合ってるし。


「お互いさま。友達になって! を姫に言った俺、ナイス判断だよな」


「星から話しかけてくれたね」



『俺たち、男子高だとモテちゃいそうだからさ、仲よくしよ? 友達になって! 彼女いる? 君も、女の子、好きでしょ?』


 それから、順調に親友となった僕たち。

 女の子が好きだってことも、当たってる。

 まあ、あんな感じでフラれたし、かわいいの呪縛もあったけど。

 お付き合いをしたいのは女の子、女性。

 そう思っていたし、いる。きっと、あのイケメンさんだけが、特別。


 君も、な星には、年上の彼女さんがいて。

『心配かけたくなくて。共学よりは、告白とかされにくいかなあって、男子高』


 あっけらかんと言うとこ、いいよね。

 共学でもモテそうな星。こんなふうにいろいろ聡いところも、きっと、モテる理由。


 星には、イケメンさんのことも話すつもりだった。


「おととい、電車で痴漢に遭って。助けてくれた人が、素敵な人で。だから」


 いつもは乗らない電車で、イケメンさんに会えた。

 この気持ちが恋愛感情なのかどうかは分からないけど。

 初めて、男の人を素敵だな、って感じたから。

 男子の僕に告白をしてきた人の気持ち。受け入れられないけど、せめて、丁寧に断りたいなあって。


 そんな僕の話を、きちんと聞いてくれて。


「へえ。災難とラッキー? 姫は、かわ……きれいだからな。で、どんな人?」

 かわいい、と言わないのも、痴漢に言及しないのも、星の優しさ。

 あの呪縛も、星にだけは話してある。


「高校生。かっこいい紺のブレザーと黒タイと、薄グレーチェック柄のパンツの制服、すごく似合ってた。きちんとお礼したかったんだけど、いろいろあったのと、イケメン過多なのとで僕、緊張しすぎて。連絡先も言わずにさよならしちゃったんだ。次に会えたらちゃんとお礼、したいな。制服は覚えてるから、高校なら分かるかも」


 制服。うちの高校はいわゆる学ラン。普通な感じで意外といいなと僕は思ってる。

 あのイケメンさんのブレザー姿は、ものすごく素敵だったけど。


「紺ブレ……女子校の制服じゃないか? わりと近くで、偏差値めっちゃ高いとこ。俺の彼女の母校だわ」


「僕より頭一つ大きかったんだよ? 痴漢にも真っ向から向き合ってくれて、腕とか、ねじり上げてたよ、すごかった」


「俺らが160弱なだけで、180超えの女の人もいるだろ? ねじり上げ、やり方によっては女性でもできるし。むしろさ、下心なしで助けてくれたからこそ、女性なんじゃ? 思い出してみろよ、イケメンさんのこと。あ、女性かも、ってとこ、ないか?」


 男から痴漢に遭う可能性を持つ者同士、信憑性がある意見だ。さすが、星。


 下心がないから、女性。なるほど。

 そうだ、痴漢から助けてくれたみたいに割って入ってきて、そのまま、自分が触ってきた別の痴漢とか、いたなあ。もちろん、男。


 すごくムカついたら、自分で言うのもなんだけど、意外と強い握力が出たから。

 『痴漢です!』って。

 まとめて駅員さんに突き出したんだった。

 この外見、不意打ちには使えるんだよ。


「で、どう?」

「ちょっと待ってて、思い出す」

 イケメンさん、イケメンさん……。


「そういえば……」


「お」


「爪と指。きれいだった。ごつごつじゃなくて、つやつや。あの人になら、さわってほしい……かも。あと、言ってもらえたんだ、かわいい、って。嬉しかった、すごく」


「姫からさわりたい、じゃなくてか? いや待て、それ、かわいい、がなのか? よかったじゃん!」


「うん」


『よかったなあ!』の笑顔が嬉しい。


「よし、探しに行こう。でさ、この制服じゃないか?」


「そう、そうだよ!」

 スマホの画面。

 ほんとに、女子高の制服だ。


「来週、創立記念日で平日休みだろ? 女子高、行ってみようぜ。今週末、彼女から制服借りてやる。二人分借りられたら、俺も制服着て、付き合ってやるよ」


「星!」


 なんていい親友なんだ!


 感激だよ!

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【カクヨムコンテスト11短編】かわいいの呪縛に悩んだ男子校の姫くんは女子校の王子様に救われる。 豆ははこ @mahako

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