【カクヨムコンテスト11短編】かわいいの呪縛に悩んだ男子校の姫くんは女子校の王子様に救われる。
豆ははこ
第1話 かわいい姫くんは、かわいいの呪縛を思い出す。
「少し……すごくイケメンだからってかっこつけやがって! そんなかわいい子が近くにいたら、触りたくもなるだろうが!」
騒ぐ、スーツ姿の痴漢。
やめなさい、みっともない。
諭されながら、駅員さんに連れられていった。
気まぐれに選んだ、いつもは使わない路線。運悪く、遭遇した痴漢。
『助けてください、痴漢です!』
残念ながら初めてではないので、対策はしていた。
痴漢撃退アプリの画面を表示する。
こういうときの周囲の反応は、さまざま。
かかわり合いになりたくない、怖い、冤罪? みたいなときもあるけれど。
たまに、なら助けてもらえることもある。
誰もなにもしてくれない、気付かれないときは?
もう一度、画面をタップすると。
『痴漢です! 痴漢です!』
大きな音が出るんだ。
けど、今日は。いつもとは違っていた。
それも、いいほうに。
見付けてくれた人が、いたから。
多分、高校生。
かっこいいブレザーの制服の、背が高い人。僕がけっして掴めない、憧れの。
あと。
一瞬、痴漢のことを忘れてしまったくらいに。
びっくりするような、イケメンさん。
『痴漢の証拠も撮りました。次の駅で降りましょう。君は、どうしたい? 不快なら電車内にいてくれても……』
勝手に撮るな! 消せ!
汚い声を無視して、あっさりと痴漢の腕をねじ上げたイケメンさん。
びっくりの上に、驚いた。
だって、声までイケメンな声。
イケメンな声って? だけど、そうとしか言えない。
少し高くて、耳に栄養。そんな声。
正直、痴漢とはこのまま離れたかった。
でも。
不快感が、触られた気持ち悪さが、イケメンさんで浄化されていくみたいだったから。
『降ります』
人を安心させる素敵な笑顔のイケメンさんに続いて、僕も、一緒に降りることができた。
そこまでは、よかった。
けれど。
僕は。
思い出してしまったんだ。
さっきの、痴漢の捨て台詞で。
僕の、かわいいの呪縛を。
『お付き合い? 嬉しいよ、でも、ごめん……なんていうか、姫はね、かわいすぎて……ムリなんだ。恋人になりたい、じゃなくて……推したい、って感じ?』
笑顔で即答、だった。
中学生のとき。
修学旅行で、勇気を出して。
いちばん仲がよかった女子に、告白。
かわいい、かわいすぎ?
だったら。
普通の男子、普通の僕なら。
好きになって、もらえたのかな?
笑顔を見るのが、苦しかった。
それでも、修学旅行はなんとか終えることができた。
そのあとは、普通に中学校でも過ごせていたのに。
くらくらしてきた。まずい、立っていられない。
修学旅行のあとも、また誰かを好きになりたかったけど、女の子と仲よくなるのが、なんとなく怖くなってしまって。
けっきょく、男子校に入学して。
親友もできて、楽しくやっていたのに。
なんで、今頃。
「……しっかりして。かわいいことは、悪くなんかないから。悪いのは、あの痴漢だよ。ね、君も分かってるよね。君のかわいいは、素敵だよ」
視界に入ったのは、いつもは使わない路線、駅のホーム。
痴漢から助けてくれたイケメンさんは、いつの間にか、僕を。
ホームの椅子に座らせてくれていて。
ああ、少し高い、きれいな声が。
僕のかわいいを、肯定してくれていたんだ。
僕は。
今日。
イケメンさんに、助けられた。
救われた、なのかも。
痴漢からも。
かわいい、を悪いことなのかなあと思っていた、僕を。
かわいいの、呪縛に。
とらわれていた、僕からも。
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