第2話 怒鳴りあいのゲーム
マンメン・ドラゴンの怒りの煙は、ヒノデの島の空を数日間も覆いました。
ネコが作ったお菓子を積んだ船は、ドラゴンの領地に入れず、多くの動物たちが不安そうに空を見上げていました。
オダヤカネコは、この事態を静かに収めようとしました。
ネコは、ドラゴンに直接怒鳴り返すのではなく、正式な伝書鳩を送り、冷静に自分の立場を説明しました。
「ドラゴンさん、私たちはあなたと争いたいわけではありません。ただ、キツネの村について、昔、皆で交わした『大きな約束の巻物』がありますよね?」
ネコが指したのは、遠い昔、大きな戦争が終わった後に、多くの動物たちが集まって作った平和のためのルールブックでした。
「あの巻物には、『私たちはキツネの村への権利をもう主張しない』と書いてあります。
しかし、キツネの村が、あなたのものだとは、どこにも書いていないのですよ。
だから、私たちは今も、キツネの村の立場を勝手に決めることはできないのです」
ネコは過去の約束を根拠に、自分の行動の正当性を説明しました。
── 🐉 燃え上がる面子 ──
しかし、この冷静な説明が、マンメン・ドラゴンの面子をますます傷つけました。
ドラゴンにとって、「誰のものとも決まっていない」というネコの言葉は、「ワシのものだ」と主張する自分への静かな反抗に他ならなかったからです。
ドラゴンは、今度は怒りの煙だけでなく、口から小さな火まで噴き出しながら、さらに恐ろしい主張を始めました。
「何を言うか、ネコめ!」
ドラゴンは、巨大な爪で「大きな約束の巻物」をひっかきました。
「そもそも、この巻物は、ワシがまだ疲れて休んでいる間に、お前たちと、大きなタカたちが勝手に作ったものだ!ワシは署名していない!
だから、この巻物は無効だ!」
ドラゴンは、平和の土台であるはずの巻物そのものが、無効であると宣言しました。
「巻物が無効だということは、つまり、ネコがおとなしくしている理由も、もう無いということだろう!」
そして、ドラゴンは恐ろしい目つきで、ネコの住むヒノデのしまの、ごく近くにある小さな岩山を指さしました。
「あの岩山も、実は巻物が作られるずっと前から、ワシの庭だった。
お前は巻物のおかげでそこにいると思い込んでいるのだろうが、元々ワシのものなのだ!
すぐに立ち退け!」
ネコは驚きました。
ドラゴンは、ネコの発言への仕返しとして、平和のルールそのものを壊し、ネコ自身の領土にまで口を出し始めたのです。
── 🦁 ライオンの唸り ──
この騒ぎは、遠い大きな森の王であるタカネ・ライオンの耳にも届きました。
ライオンは、ネコともドラゴンとも、それぞれ別の大きな約束を結んでいます。
ライオンは唸りました。
「ネコよ、なぜそんなに大きな騒ぎを起こすのだ。ドラゴンを刺激するな」
ライオンは、ドラゴンにも電話で話しました。
「ドラゴン、ルールを否定するのはやめろ。
お前もネコも、もう少し静かにしろ」
ライオンは、どちらか一方を全面的に支持するのではなく、この騒ぎがこれ以上大きくならないよう、場を収めることを最優先に考えました。
オダヤカネコは、ドラゴンがルールを無視し、感情的に暴れていることに憤りを感じましたが、同時に、ライオンからも自重を求められている状況を理解しました。
「ここで感情的になり、ドラゴンに怒鳴り返せば、火に油を注ぐことになる。
そうなれば、ライオンも本気で怒り出すかもしれない」
ネコは、ぐっと我慢しました。
目の前のドラゴンは、まるで自分の思い通りにならないと、周りの大切なものまで壊そうとする、ワガママな子どものように見えました。
ネコは決意しました。
面子のために怒鳴り合うのは、ドラゴンの得意な「怒鳴りあいゲーム」だ。
ネコは、このゲームには乗らない。
もっと、静かで賢い、大人の対応をしなければならないと。
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