異世界蹴球伝~戦の代わりにサッカーをやる世界に転移した元天才司令塔は救国の英雄になる~
雅ルミ
第0話 俺はもう、サッカーはやらないよ
「ヤットはサッカー部に入らないのか?」
高校に進学してから1週間、同じ中学から一緒に上がってきた親友のシンジから幾度となく訊かれた質問だ。
朝、高校へ向かう通学路。
自転車で徐行する俺の隣で、シンジは小走りで並走している。
「……俺はもう、サッカーはやらないよ」
「何でさ! もう怪我も完治してんだろ?」
「まあな」
中学3年の春、最後の大会を目前に控える練習試合でのことだ。
敵チーム選手との激しい接触により怪我をした俺は、そのまま最後の大会に出られず引退した。
怪我も治り、リハビリも成功し、今の俺は怪我なんてなかったかのように万全の状態に戻ることができた。
だが、この1年で、俺はサッカーへの情熱を失っていた。
「サッカー部の先輩たちも「“天才軍師”はいつ来るんだ」ってしつこいんだよ」
“天才軍師”……懐かしい響きだ。
中学時代、ボランチをやっていた俺はそう呼ばれていた。
初出は確か、俺が1年の時の県大会を見に来ていたフリーライターのネット記事だったっけ。
「オレはストライカー、エリア内でボールを受け取れば絶対に点を取る。それがオレの仕事だし、それだけなら2、3年の先輩方にも負けるとは思ってねえ。でもな、今のチームは中盤が薄い。ヤットが必要なんだよ!」
「何度言われたって無駄だ。俺はもう……」
「だぁー! この分からず屋! 分からずヤット!」
突然、シンジが全力疾走を始めた。
「競争だ! 俺が先に学校に着いたらお前にはサッカー部に入ってもらうぞ!」
「んなっ!」
あのバカ俊足が……。
俺は自転車のギアを重くし、スピードを上げた。
「何が競争だ。走りがチャリに勝てるワケないだろ……待てよ!」
「待たねえ! ヤットには絶対、サッカーに戻ってきてもらうんだ!」
アイツ、マジで速いな……。
全然距離が縮まらないんだが……。
「ラッキー! 信号点滅中! ヤットはちゃんと止まれよ~!」
高校目前の横断歩道で、歩行者用信号機の青信号が点滅していた。
────その時、視界の隅で妙な動きで横断歩道に接近するトラックが見えた。
「っ! 待て、止まれシンジ!」
「あぁ!? 待たねえよ! 絶対お前にサッカーやらせてやんだからよ!」
「そうじゃない!」
トラックは止まらない……運転手が意識を失ってやがる!
「チクショウ……間に合えッ!」
俺はサドルから腰を上げ、立ち漕ぎに切り替えた。
「シンジぃいいいいいいいいいいいい!!!」
間に合った!
片手で自転車のハンドルを握り、立ち漕ぎのまま前傾姿勢で手を伸ばす。
走るシンジの腕を掴み、思いっきり引っ張った。
「ンおっ?」
あっ、やべえ。
シンジを引っ張った反動で俺の体が宙に投げ出される。
回る視界の端っこでシンジが何か叫んでるのが見えた。
……このバカ俊足が、朝から疲れさせるなよな。
次に見えたのは、目の前に迫るトラックのフロントだった。
「
────こうして俺は、サッカーへの未練を残したまま人生の幕を閉じた。
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