金髪ウィッグぱっつんボブのアヤネは戦闘服を脱いで恋に落ちる

のら坊

第1話:戦闘服は金髪ウィッグとぱっつんボブ

戦闘服を着ると、新しい自分になれる――。


金髪ウィッグにそばかすメイク、オン眉ぱっつんボブ。――前髪を眉の上で刈り揃えて、サイドをふわっとさせて、外ハネさせた髪型で、童顔ぎみのアヤネのボブはガーリーとかフェミニンとか・・・、色白なので一言で言うとお人形さんのような感じの空気感のところを都心の美術館で意識高い系のオネエサンたちに対抗するため金髪ウィッグを加えて都会っぽさを足したといったところか――地元の駅では派手目で少し浮いて見えるくらいだ。 けれど都心のモダンアート系の美術館やギャラリーでは、オシャレ女子がたくさんいる。そういった場所に行くためアヤネは戦闘着を着る必要があった。


戦闘着を着ることで、六本木や恵比寿、神宮外苑といった“キラキラ街”で活動することができた。 都心の人混みの中でも田舎から来た自分を隠すための仮面になった。 でも今では、それがアヤネにとって「アート鑑賞のためのルーティーン」になりつつあった。


「今日の作品イベントも面白かったなぁ。古い建物を利用した作品展示は、美術館みたいなオーソドックスな場で見る作品と違って、何か新しい切り口を見せてくれた……」


アヤネはまだ言語化できていない新しい刺激に心が躍っていた。


思い出すだけで刺激的なアートだった。


しかし、地元駅のホームに立つと、現実が押し寄せてくる。 制服姿の同級生たちが、コンビニ袋をぶら下げて笑い合っている。 その中に混じる自分の姿を想像すると、ちょっと気分が沈んでしまう……。


「……やっぱり、ここは私の場所ではない……」


地元はアヤネにとって、居場所のない無音の世界だった。


ざぶんと水族館の水槽に背中から飛び込んで、 水の中に沈んでいく体……。


全ての音は遮断された世界。


地元でつるんで生活している同級生とは、誰ともつながりたくない。


何も聞こえない……。


けれど、聞きたくもない音を聞くくらいなら――聞こえない方がマシだ。


アヤネはそう思っていた。


戦闘服を着て都心の街に出る時間は、アヤネにとって「解放の時間」だった。


次はどの街に行こうか。渋谷?それとも銀座? 考えるだけで、また胸が高鳴るのだった。

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