チョコレートアタック〜ブラックサンダーを巡る聖戦(ジハード)〜

猫大好きフリスキー

第1話「俺達仏教徒」

月が日を二つに分かつ、狂ったロンドの夜。あの浮かれた時代の負の遺産。勝者と敗者が明確になる日。クリスマスイブだ!非モテの民の残酷な公開処刑。イケメンはその天頂!まさに神の裁き!


しかし、これはただのプロローグにすぎない。


戦士たちの目的は、つがいになることでは既になく、ただひたすら「魔法結界・俺達仏教徒」を張り、来るべき正月三が日に向けて耐え忍んでいた。


そう、彼等はチョコレート戦士!歴戦の猛者は、早くも己の牙を磨ぐ 。第二射「バレンタインデー・冬の追い討ち」の回避に備えているのだ。

恐るべき直視の魔導!心を壊すあの女性店員の冷ややかな眼!


「プッ!あんた、自分で自分にバレンタイン?受ける~」


視ただけで解る!これはそれを回避する為に奮戦する、ただのチョコレート大好きな甘党男子、ククルとファイサルの闘いだ!彼等は心の底から叫びたい!


「うっせぇボケ!俺達はブラックサンダーを食いたいだけだ!!アホ!!!」


かくして、チョコレート戦争が幕を開ける!


朝靄の中、小高い丘に男子が二人立っていた。厳冬の寒空の下、ククルが眼下の都市を見つめ、うっかり口を滑らせてしまう。


「ファイサル、君には、アビーさんがいるじゃないか。あのメガネのクールビューティー」


「言いたい事は分かっているさ」


隣のファイサルは、うんざりだと言いたげに視線を落とす。つまらなそうに小石を蹴ると、勢いよく崖の下へ転がり落ちた。


「『コンタクトにしても、あんま変わらんなお前』と言ってしまってな。右フックを食らったよ。見えなかった。プロの俺が。ふむ、あれが『神の拳』か」


 『そういうとこだよ』


言葉が競り上がるククル。しかし、標的はブラックサンダー。我らの神。少年の味方!最高のコスパを誇るチョコレートの王者だ!


「ポイント117。合流地点は予定通りだね」


親指を立てるククルに、ファイサルは目もくれない。グラサンを外して吐き捨てる。


「そんなことは、ブラックサンダーを手に入れてからやれ」


革ジャンを腰に巻くと、不敵な笑みを浮かべ、彼は続けた。


「やはり、俺たちの競争相手は厄介な奴らだぜ」


両指を双眼鏡のようにして都市を見下ろし、彼は語気を強めた。


「取引だ、ククル。二手に別れる。どんな結果になってもブラックサンダーは山分けだ。敵はおよそ十人ってとこか。あの川を境に東がお前、西が俺。いいな」


「OK。それはつまり……」


「戦争だ!国民全員が餅を食っている今しかない!『買い占め屋』の魔の手が緩む刹那の一瞬!というか餅喰ってろ!」


ククルもブラックサンダーのことしか考えていない。『買い占め屋』?もはや彼らの眼中にない!


ファイサルの父親、総理大臣ガラン・ジャイスが激怒し、全ての商品の購入に『個数制限』を設けたのは、確かにこの『買い占め屋』のせいだ。何というトバッチリだろうか!


だがなファイサル!お前は自業自得だ!クリスマスイブの夜、アビーに『お前、コンタクトにしてもあんま変わらんな』などと!愚かな!そんなだから神の拳を受け、こんな非モテの甘党男子の悲しい戦争に巻き込まれたのだから。


走り出す二人!そして二人は朝焼けの都市へ飛んだ!

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